喘息(6) 治療のステップダウンとは
この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。
主な登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
吾妻さん:40歳女性、2児の育児をしながら市役所に勤務している。ここ数ヶ月咳が続くためDr.Yの外来を受診、喘息と診断される。
1. 治療薬の選択は重症度で決まる
Dr.Y:では、実際の治療薬の選択に移りましょう。まずこの表を見てください。喘息症状の重症度を段階別に示したものです。発作を起こしている時の重症度はまた別ですが。
吾妻:これを見ると、喘息の重症度って、症状の頻度が大きな要素なんですね。表の下2列は検査値ですか?
Dr.Y:はい。肺機能検査や、ピークフローという自宅で行うことのできる簡易検査による測定値です。ただ患者さんの訴えに関する情報の方が実用的だと思っています。
吾妻:このように症状の頻度が重要なのであれば、病院にいない時の自分の症状を患者さんがきちんと伝える必要がありますね。
Dr.Y:吾妻さんは、毎日症状が出ているみたいなので、中等症持続型(STEP3)に相当しますね。これは私の印象ですが、STEP2やSTEP3以上の症状になって初めて病院を受診される患者さんの頻度が高い気がします。
吾妻:STEP1くらいの頻度だと、病院受診しなくてもある程度我慢できちゃうんでしょうね。
Dr.Y:症状が軽いので喘息のような慢性疾患があるかもしれないとは思わないわけです。でも本当はSTEP1やSTEP2でも気道に炎症がくすぶっている事に変わりはないので、きちんと受診するべきです。
2. まずは多剤併用、落ち着いてきたらステップダウン
吾妻:このSTEPによって治療内容も変わってくるんですか?
Dr.Y:その通りです。吾妻さんのようなSTEP3だと、吸入ステロイドの他に1〜2種類の喘息治療薬を組み合わせます。以前も出てきた下の図ですね。
吾妻:えっいきなり3種類も始めるんですか!?
Dr.Y:初めに多剤併用でしっかり症状と炎症を抑えます。その後コントロール良好ならSTEP3→STEP2→STEP1の順に種類を減らしす。このプロセスを『ステップダウン』と呼んでいます。
吾妻:『ステップダウン』があるなら『ステップアップ』もあるんですか。
Dr.Y:はい。現在の治療で効果が不十分だった時は、残念ですが、一段階上のSTEPの治療に移ります。これを『ステップアップ』と言います。ただ、そういう状況は極力避けたいところです。
吾妻:ビジネスの世界ではみんなステップアップしたがるのに、喘息の治療では反対なんですね。
Dr.Y:そうです。逆にステップダウンして居心地の良いところに落ち着くのが喘息において理想のキャリアプランです。
Dr.Y:今回、吾妻さんには初回治療として、吸入ステロイドの他にLABA、LTRAという薬を併用します。
吾妻:なるほど。でも3種類もあると大変ですね。きちんと服用できるかな。
Dr.Y:今は吸入ステロイドとLABAが一緒になっている合剤が一般的ですから大丈夫です。
3. 吸入薬には様々な粒子径や吸入方法がある
Dr.Y:これが現在使われている吸入薬の一覧です。
吾妻:吸入薬って、いろんな種類があるんですね。
Dr.Y:吸入ステロイド一剤だけのものもあれば、LABAやLAMAなどとまとめて2剤、3剤をパックにしたような合剤もあって、それによって吸入器の見た目も変わっています。同じ薬理作用の中でもこれだけ種類があるので、どれを使おうか迷ってしまいますね。
吾妻:これらはどのように使い分けるのですか?
Dr.Y:吸入して気道の壁に結合してしまえば、その後の薬の働きはある程度一緒です。ただし薬ごとに吸入回数や粒子の大きさや吸入方法が変わってくるので、それらで選びます。
吾妻:吸入方法といいますと・・・?
Dr.Y:どれも器械の中に細かい薬の粒が入っているのは一緒ですが、DPI(ドライパウダー)と言って吸入口を加えて自分で吸い上げるものや、pMDIといってボタンを押して霧状に噴霧されたものを吸うものなどがあります。
吾妻:なるほど。相性もありそうですね。私はどれにしよう。
Dr.Y:そうですね。実際に試してみましょうか。
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については自己判断せず、必ず主治医に相談してください。
参考文献:日本喘息学会 喘息診療実践ガイドライン2024(協和企画)