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喘息(10) リリーバーを活用しましょう


(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。

■登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
吾妻さん:40歳女性、2児の育児をしながら市役所に勤務している。ここ数ヶ月咳が続くためDr.Yの外来を受診し、喘息と診断される。


1. 喘息治療はゆっくり効く

***前回の受診から1週間後***

吾妻: ガラガラ、失礼します。

Dr.Y: あれ?吾妻さん。もういらっしゃったんですか。再診の予定は来週のはずでしたが。

吾妻: はい。先週いただいた吸入薬などを使っても効かないんです。なので、3日くらい使って使用をやめてしまいました。

Dr.Y: 使うのやめちゃったんですか!?

吾妻: だって、先日先生は薬の有効性と副作用を天秤にかけて考える必要があるとおっしゃってたでしょう。

Dr.Y: はい、確かに言いました。

吾妻: それで3日間しっかり吸入薬を使ったんです。息止めも「うがい」もちゃんとやりましたよ?でも、少し息がしやすくなったぐらいで全然よくならないんです。

Dr.Y: それでやめちゃったんですか。

吾妻: 有効性が少ないなら副作用とのバランスを考えて使用中止するのも重要と思ったんです。

Dr.Y: それは判断のタイミングが時期尚早でしたね。

吾妻: えっ。

Dr.Y: 吸入薬が効いていると実感できるまでの期間は人それぞれで、これはあくまで私の印象ですが、早いと2〜3日ですが、遅いと2週間くらいかかる方が多いです。

吾妻: そうなんですか!?じゃあ3日使っただけでは薬の効果が判断できないということですか。

Dr.Y: そうです。実は、数日だけ使って効果ないのでやめてしまう患者さん、結構多いんです。

Dr.Y: あと数日待てばせっかく良い薬で改善するチャンスがあるのに、判断が急ぎすぎるあまりにそのチャンスを失ってしまうのは勿体ないとしか言いようがありません。

吾妻: えー、それじゃあ効果が出てくるまでの間、ずっと待っていなくてはいけないんですか。もっと早く効いてくれる薬はないんですか。

Dr.Y: こればかりは致し方ありません。

吾妻: 先生は人ごとだと思ってそう悠長に構えてますけどね。私は明日も明後日もその次の日も会議でしゃべらなくてはいけないんです。電話対応などもあるし、その最中に咳の発作が起きてしまわないか不安なんです。仕事に支障をきたしたまま2週間も待つのは辛いんですー。

Dr.Y: おっしゃる通り、薬が効いてくるまで時間がかかるからといって、その間、我慢だけしててくださいというのは酷な話ですよね。

吾妻: 咳がでてないときだってそうです。いつ急に咳の発作が出るかと思うと、怖くて怖くて。もうわたし、どうしたら良いですか・・・ストレスで気分が落ち込みそうです。

2. コントローラーとリリーバー

Dr.Y: ちなみに先日一緒に処方したリリーバー(発作止め)は試しましたか。

吾妻: ・・・一時的に気管支を拡げてくれる、この薬の事ですか。

Dr.Y: そうです・・・ありゃ一回も使ってくれてませんね。

吾妻: 発作止めは極力吸わないで我慢した方が良いかと思って。

Dr.Y: それは誤解です。いいですか、喘息の吸入薬はコントローラーとリリーバーに分かれ、それぞれ役目が全然違うんです。

Dr.Y: 毎日定期的に使うコントローラーは吸入ステロイドが入っていて炎症抑制作用があるので治療の中心ですが、即効性はありません

吾妻: レルベアとかアドエアとかフルティフォームとかアテキュラとかシムビコートとかは全部コントローラーですね。

Dr.Y: はい。喘息治療の中心はあくまで、これらコントローラーに含まれる吸入ステロイドです。

Dr.Y: ただし最初のうちはコントローラーが効いているのを実感できなかったり、効きの悪い時間帯などがあって咳の発作が出ることもあるでしょう。

吾妻: そこで使うのがリリーバーですか。

Dr.Y: はい。リリーバーは炎症を抑える作用がないので治療にはなりませんが、短期間で一時的に気管支を拡げてくれます。

吾妻: リリーバーはメプチンとかサルタノールとかの事ですね。

3. リリーバーを上手に使いましょう

Dr.Y: コントローラーを使っていても突発的に出てくる咳などを鎮めるためにリリーバーを使います。これはステロイドが入っておらず、その場で気管支を広げてくれるだけなので治療的な意義は全くありませんが、治療が効いてくるまでの間の症状を抑えるだけなら非常に有効と言えます。

Dr.Y: そしてコントローラーが段々効いてくれば、リリーバーを使う回数は日に日に減っていくはずです。

吾妻: なるほど。コントローラーが効くのに時間がかかるので、それまでの間の対症療法としてリリーバーで凌ぐというようなイメージですか。

Dr.Y: だいたいその通りです。逆に、リリーバーを使う頻度で治療の効き具合を判断したりします。

吾妻: 気軽にリリーバーを使っちゃって良いものですか。

Dr.Y: もちろん、リリーバーだけ使ってコントローラーを使わないというのは駄目ですが、きちんとコントローラーを使った上であれば、あまり勿体ぶらず気軽にリリーバーを使ってください。

吾妻: そうなんですね。私、勘違いしてました。リリーバーは気管支を拡げるだけで治療にはならないから、たくさん使ってはいけないと思っていました・・・。

Dr.Y: リリーバーを使う事自体は全く問題ないです。どちらかと言うと、結果としてリリーバーをたくさん使わなくてはいけないような状況自体が良くないのです。

吾妻: リリーバーを何度も使うのが悪いのではなく、リリーバーを何度も使っているという事は喘息のコントロールが悪い状況だと気付くのが大事という事ですね。

Dr.Y: その通りです。ちなみに、リリーバーの一つのメプチンエアーであれば、1回2吸入、1日4回まで吸って良い事になっているので、それを超えないようにしてください。

Dr.Y: それから吸った後にリリーバーの副作用である動悸や手の震えなどがでてきた場合は、無理に使わない方が良いかもしれません。

吾妻: 分かりました。リリーバーも使いつつ、これまで通りコントローラーをしっかり使い続けようと思います。

Dr.Y: はい。お大事になさってください。


(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については自己判断せず、必ず主治医に相談してください。

参考文献:
日本喘息学会 喘息診療実践ガイドライン2024(協和企画)



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