喘息(26) 治療が効かなくなる!?リモデリングとは
0. 本記事のまとめ
・気道リモデリングとは、気道が狭くなったまま固まってしまう事です。
・喘息のコントロールが悪いと、気道がリモデリングを起こし、治療の反応が著しく悪くなります。
・こうした状況を避けるためにも喘息はきちんと治療・コントロールしていく必要があります。
1. 治療がうまくいかない患者さん
Dr.Y: 次の方、どうぞー。
十条: ガラガラ、よろしくお願いします。
Dr.Y: えーっと、十条さんですか。Z呼吸器クリニックから紹介ですね。
十条: はい。十条と申します。よろしくお願いします。以前、Z呼吸器クリニックでJ先生に喘息と診断されて治療を受けていたのですが、なかなか改善しないので、こちらを受診するように言われてやってきました。
Dr.Y: そうですか。紹介状の内容を拝見すると、昨年、咳が続くということでZ呼吸器クリニックを受診した際に喘息と診断されたのですね。
十条: はい。レントゲン撮ったり、いろいろな検査をして、J先生に喘息ですねと言われました。
Dr.Y: 確かに、紹介状に添付されている資料を見ると、肺機能検査にFENOに、あとは・・・モストグラフもやってますね。アレルギー検査もあった。かなり細かく検査してるんですね。
十条: はい。それで吸入薬を中心にいくつかの内服薬を含めて使っているのですが、一向に良くならないのです。今も夜になるとひっきりなしに咳が出て眠れません。
Dr.Y: なるほど。ではまず聴診からさせてくださいね。
十条: はい。お願いします。
Dr.Y: では大きく吸って、吐いてー、強く吸って、勢いよく吐いてー・・・気道の狭窄音が目立ちますね。
十条: はい。J先生にもそう言われました。
2. リモデリングでは何が起きているのか
Dr.Y: きちんと喘息の治療をしているにもかかわらずこれだけ狭窄音が目立つという事は、タバコ肺とも言われるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を合併しているか、喘息がリモデリングを起こしているか、の事が多いですが。
十条: J先生も同じことをおっしゃっていました。でも先生、私はタバコは一回も吸ったことがないんです。だからもう一つのリモデリングという方じゃないかと思うんですが、リモデリングって何なのか、いまいちよく分からないんですよ。
Dr.Y: リモデリングとは、日本語で「再構築」という意味です。喘息の炎症が長いことくすぶった結果、気管支の内腔が狭くなったまま固まってしまう事です。
十条: 固まってしまう・・・ということは、元に戻らなくなるという事ですか。
Dr.Y: はい。よく言われる喘息の概念として、気道可逆性というものがあります。これは、気管支拡張薬を使うときちんと喘息で狭くなった気管支が可逆性を持ってきちんと広がりますよというものです。しかし、リモデリングが起きている喘息の患者さんでは、この反応が悪くなります。
十条: どうしてこのような事が起きてくるんですか
Dr.Y: 喘息が悪化する時って気道の粘膜に炎症が起きますよね。この炎症が起きている時って、実は粘膜が壊されてしまっているんです。この壊れた粘膜をきちんと修復する機構が働くんですが、何度も繰り返しているうちにだんだん出来の悪い修復が仕上がってくるんです。
十条: 出来の悪い修復って、今私の気管支はどうなってしまってるんですか?
Dr.Y: はい。修復がうまくいかない状態が続くと、気道の壁の中腹にある基底膜という層を取り巻く平滑筋という筋肉が分厚くなってきます。その結果、気道の内腔が狭くなったまま固まってしまいます (1)。
3. リモデリングの治療に対する影響とは
十条: こういう事が起きると、今後の治療にどう影響しますか。
Dr.Y: やはり、ちょっとやそっとでは広がらなくなるので、普通の喘息の人だとすぐに作用するような気管支拡張薬が効きづらくなります。さらに吸入ステロイドも効きづらくなるので喘息全般としての治療効果が低下してしまう可能性があります。
十条: そうなんですか。なんだか、ショックです。この分厚くなってしまった平滑筋を減らす事はできないのですか?
Dr.Y: 現時点では有効な治療法は少ないと言わざるを得ません。サーモプラスティ(気管支熱形成術)といって、気管支鏡を用いて、この平滑筋を焼いてしまうという治療がありますが (2)、どこでも受けられるわけではありません。
十条: そうですか。喘息をコントロールが悪いまま放置しておくとこういう事につながってしまうのですね。
Dr.Y: しかし、喘息の標準的な治療はZ呼吸器クリニックでも受けてきたみたいですから、それにもかかわらずなぜこのような状況になってしまっているのか、よく調べないといけませんね。
十条: お願いします。
参考文献
1) Prakash YS, Halayko AJ, Gosens R, et al. An Official American Thoracic Society Research Statement: Current challenges facing research and therapeutic advances in airway remodeling. Am J Respir Crit Care Med. 2017;195(2):e4-e19.
2) 日本呼吸器学会 難治性喘息診断と治療の手引き(第2版)2023
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