喘息(9) 吸入ステロイドの副作用をどう考えるか
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。
■登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
吾妻さん:40歳女性、2児の育児をしながら市役所に勤務している。ここ数ヶ月咳が続くためDr.Yの外来を受診し、喘息と診断される。
1. 吸入ステロイドの血中移行は微量である
吾妻:声がれと口腔カンジダ以外に吸入薬による副作用は何かありますか?
Dr.Y:LABAの成分が動悸や手の震えを起こすことがあります。
吾妻:吸入薬に入っているステロイドによる副作用もあるんじゃないですか?
Dr.Y:一部の例外はありますが、基本的に大したことはないです。
吾妻:でもステロイドって、副作用がたくさんあると聞くので怖いですね。
Dr.Y:吸入薬の場合、ステロイドが気道に直接作用するので、内服薬よりも微量で済みます (1)。
吾妻:なるほど!
Dr.Y:しかも、そこから血中への移行分はさらに極めて少ないです。吸入薬なので。
吾妻:吸入薬だとなぜ血中移行分が少ないんですか?
Dr.Y:普通の内服薬は消化管で吸収されて、血中に入って、そこからいろんな臓器に働きますよね。
Dr.Y:吸入薬だと、直接気道にくっついて作用するので、血液中を介さないからです。気道にくっついた後に微妙に血中に入ることはありますが、非常に僅かな量です。
吾妻:でも、塵も積もれば・・と言いますようね。わずかな量でも毎日使い続けるとやはり体内に蓄積されてきちゃうんじゃないですか?
Dr.Y:…うっ
吾妻:そういえば、さっきも『一部の例外はありますが』とか言ってましたよね。さあ、どうなんですか。
2. 全身性副作用リスクに関する報告も存在する
Dr.Y:確かに、長期の吸入ステロイドでも体に影響があるかもしれないという報告は、これまである事はあるんです。
吾妻:やはりあるんですか!
Dr.Y:たとえば、2013年の英国からのデータで、高用量の吸入ステロイドを使用している人で肺炎または下気道感染症のリスクが2.04倍増加したという報告があります(2) 。
吾妻:えっわずかであっても、副作用のリスクが上がるなんてこわいです。
Dr.Y:さらに、小児に対する副作用として、ブデソニドというステロイド剤の入った吸入薬で治療された思春期前の子供が成人した時の身長がプラセボ群よりも平均1.2 cm低かったという報告もあります(4)
吾妻:身長にも影響があるんですか・・・少しでも副作用のリスクがあるなら、できるだけ使いたくないですね。
3. リスクとベネフィットを天秤にかけるとやはり使うべき
Dr.Y:いえ。副作用というのは、その薬の有効性とセットで考えるべきで、吸入ステロイドを使うことで得られる喘息のコントロールと天秤にかけて、どちらが優先されるかを考えなくてはいけません。
吾妻:もし喘息のコントロールが得られないとどうなりますか?
Dr.Y:喘息のコントロールが悪いとリモデリングと呼ばれる、気道の壁が硬く狭くなったまま元に戻らない状態になります。
吾妻:年がら年中ヒューヒューいってるわけですか。
Dr.Y:はい。こうなると治療の反応も悪くなり、その人の生活の質を確実に悪くします。こうした現象を吸入によって防ぐ事ができると分かっているのに、わずかな肺炎のリスク上昇とか小さな副作用を気にしすぎて吸入薬を使わないのは、トータルで見た時に圧倒的にデメリットが大きいと思います。
吾妻:わずかなリスクを気にして大きなメリットを捨ててしまってはいけないということですね。
Dr.Y:はい。さらに言うと、喘息のコントロールが得られず発作を頻繁に起こしてしまうと、内服や点滴でもっと大量のステロイド投与が必要になる事が多いです。
吾妻:そうなんですね。悪くなってしまったら、結局もっと多くのステロイドを使わなくてはいけないんですね。
Dr.Y:そうならないためにも、日頃からしっかり吸入ステロイドを使い続ける必要があるわけです。
吾妻:良く分かりました。では、これから家に帰って、毎日しっかり吸入薬を使っていこうと思います。
Dr.Y:お大事になさってください。次の外来は2週間後に入れておきますね。
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については自己判断せず、必ず主治医に相談してください。
引用文献;
1. 滝澤始 「喘息治療薬の考え方・使い方 ver.2」 中外医学社
2. McKeever T, et al. Chest. 2013;144(6):1788-1794. doi:10.1378/chest.13-0871
3. Kelly HW, et al. N Engl J Med. 2012;367(10):904-912.