喘息(19) 咳喘息(せきぜんそく)と喘息は何が違うの?
0. 本記事のまとめ
・咳喘息は、喘息に似た特徴の咳を認めますが、聴診で狭窄音がしない点が異なります。
・ただし気道で起きている病態は、喘息も咳喘息も一緒です。
・咳喘息を放っておくと、喘息に移行しやすいので、治療する必要があります。
1. 喘息と似た症状だが・・・
Dr.Y: (次の方は・・・初めて受診する人だな。)
Dr.Y: 次の方、どうぞお入りください。
小関: 失礼します。小関(こせき)です。
Dr.Y: 小関さんですね。はじめまして。Dr.Yです。今日はどうされましたか?
小関: 2ヶ月ほど前から咳が続いていて。熱も鼻水もないので風邪をひいたわけでもないんです。
Dr.Y: 2ヶ月も!それは長いですね。何か咳の特徴はありますか?
小関: そうですね。夜間に咳が悪化しやすいのと、日中でも涼しい部屋に入ったり冷蔵庫の冷気を吸ったりすると止まらなくなります。
Dr.Y: そうですか。日内変動と気道過敏性があるんですね。喘息に特徴的な咳と言えますが・・・こんなに咳が長引くのは初めてですか?
小関: 今までも年に1回くらいは風邪の後に1ヶ月くらい長引いてました。
Dr.Y: 今まで病気をしたことは?
小関: 特にありませんが、小さい頃、アトピー性皮膚炎がありました。あとは花粉症くらいです。
Dr.Y: アレルギー体質もあるんですね。では胸の音を聴かせてください。吸って〜吐いて〜、次は大きく吸って〜、その後は一気に吐いて〜
(聴診中)
Dr.Y: ・・・うーん。症状は喘息っぽいのに、聴診では呼吸の音はきれいですね。
Dr.Y: これからいくつか検査をしましょう。胸のレントゲン、肺活量検査、FENOです。
Dr.Y: レントゲンを撮るのは肺炎や肺がんなどをチェック、肺活量検査をするのは気道が狭くなってないか、FENOを測定するのは気道に喘息の炎症がないか確認するためです。
小関: はい。行ってきます。
2. 喘息に似た検査所見だが・・・
(検査終了後)
Dr.Y: 胸のレントゲンは正常なので特に肺炎など肺に関する病気は今のところなさそうですね。
小関: そうですか。それは安心しましたが・・・。
Dr.Y: 肺機能検査でも肺活量、1秒率、ともに問題ないので息を吸う力も吐く力もどちらもありますね。・・・いや、ちょっと待てよ。息の速度と肺気量の関係を示す波形の最後の方が若干下に凹んでいますね。
小関: どういう事ですか?
Dr.Y: 気管支の先の方が少し細くなって息を吐く力が少し落ちている可能性があります。
小関: それはどんな病気で見られる異常なのですか?
Dr.Y: 多くは、タバコの吸いすぎや喘息で見られる所見です。
小関: タバコは吸わないんですけどねえ。
Dr.Y: そしてFENOの結果は・・・27ppb。微妙に上がっていますね。
小関: FENOって何を見る検査なんですか?
Dr.Y: 息の中の一酸化窒素という成分を測る検査です。気道の2型炎症というものを反映しており、これが高いと喘息のような病態がある事を示唆します。
小関: では、喘息という事ですか?
Dr.Y: いえ。喘息と診断するためには聴診で気道が狭くなっている音が聴こえる必要があります。
3. 咳喘息と喘息の違い
Dr.Y: 2ヶ月続く咳で、咳の特徴も検査結果も喘息っぽいのに喘息の音がしない。これは咳喘息(せきぜんそく)の可能性がありますね。
小関: 咳喘息って最近よく耳にしますが・・・喘息とは違うんですか。
Dr.Y: 喘息ではヒューヒュー音がして、咳喘息では音がしません。ただ、気道で炎症が起きていて過敏性が亢進しているという点で共通しています。つまり、咳喘息は喘息の前段階のような状態です (1)。
小関: このまま放っておくと、喘息になっちゃうという事ですか?
Dr.Y: 咳喘息を無治療で放っておくと、30%程度が喘息に移行したとする報告があります (2)。そのためにも、咳喘息の治療をして改善する事を確認して診断を確定させる必要がありますね。
小関: 咳喘息の治療をして改善するようなら、咳喘息だった、という事ですか。
Dr.Y: いわゆる治療的診断になりますが、その通りです。病態が喘息と同じであるので、治療にはステロイドを含む吸入薬を用いる事になります。
小関: 薬が効いてくれると良いですが・・・。
Dr.Y: 吸入薬は吸った後の息止めをしっかりする事、そして終わった後にきちんとうがいをする事。調剤薬局でも指導してくれると思いますが、薬の効き方に大きく関わってくるので注意してください。
小関: 分かりました。
Dr.Y: では、処方箋をお渡ししますね。効果を確認するので、2週間後にもう一度受診してください。
小関: はい。ありがとうございました。
参考文献
1. 日本咳嗽学会 専門医のための遷延性・慢性咳嗽の診断と治療に関する指針 2021年度版
2. Fujimura M, Ogawa H, Nishizawa Y, Nishi K. Comparison of atopic cough with cough variant asthma: is atopic cough a precursor of asthma? Thorax. 2003 Jan;58(1):14–8.
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