喘息(1) 長引く咳〜吾妻さんの場合
この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。
主な登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
吾妻さん:40歳女性、2児の育児をしながら市役所に勤務している。ここ数ヶ月咳が続くためDr.Yの外来を受診。
1. 長引く咳〜吾妻さんの場合
Dr.Y: こんにちは。Dr.Yです。今日はどうしましたか?
吾妻: 1ヶ月ほど前からずっと咳が続いているんです。最近は咳で夜も目が覚めてしまいます。
Dr.Y: それは大変ですね。今は落ち着いて話せているようですが。
吾妻: 今は落ち着いているんです。咳が出るのはいつも夕方から明け方で・・・。
Dr.Y: ということは日中は全く出ないですか?
吾妻: 日中はあまり出ないですね。でも長くしゃべったり冷蔵庫の冷気を吸ったりすると咳が出ます。ゲホゲホッ、ほらこんなふうに。
Dr.Y: こんな風に咳が続くのは初めてですか?
吾妻: そう言えば、去年も同じくらいの時期に咳が続いてつらかった気がします。あと、風邪をひくといつも1ヶ月くらい咳だけ残ってしまいます。
Dr.Y: 他には何か特徴がありますか?
吾妻: そういえば、夜に咳をしているときにヒューヒュー音がします。
Dr.Y: お話だけ聞くと、喘息の症状にとても似ていますね。
吾妻: どのような点が似ているのですか?
Dr.Y: まず、咳が3週間以上続いている点。それから咳が出る時間帯が夜間に集中している点。会話や冷気など外部刺激の敏感な点。毎年同じ季節に長引く咳を繰り返している点。これら全て喘息の咳に特徴的とされています。
吾妻: 確かに普通の風邪にしては長すぎるし、鼻水も無く喉も平気なのに咳だけ残るのは変だと感じていたんです。
Dr.Y: これは喘息を疑う患者さんの問診チェックリストです。今後、咳が長引いて病院を受診する時はあらかじめチェックしていくと良いですよ。
吾妻: こんなにたくさんあるんですね。咳があって小項目の中の一つでも当てはまれば喘息を疑うという事ですね。
Dr.Y: 当然このチェックリストを満たすだけで診断確定というわけではありませんが、喘息を疑うきっかけみたいに考えてもらえば良いです。
吾妻: でも項目が多すぎて、全部読むのが面倒ですね。
Dr.Y: 確かに面倒ですね。私が特に大事だと思うところをまとめてみますね。
2. こういう咳は喘息っぽい
Dr.Y: 患者さんが自分で判断できる「症状」に関してざっくりまとめると、長引く咳、喘鳴(ぜんめい)、季節性変化、日内変動、気道過敏性の亢進の5つが重要、という事になります。
吾妻: 長引く咳の目安というのは?
Dr.Y: 目安として、3週間以上続く遷延性咳嗽のことです。
吾妻: 喘鳴(ぜんめい)とは?
Dr.Y: いわゆるゼエゼエヒューヒューの事です。
吾妻: 季節性変化は何を指しますか?
Dr.Y: 毎年決まった季節に悪化すること。
吾妻: 日内変動とは?
Dr.Y: 1日の中で咳の出る時間と出ない時間が決まっている。特に夜間〜明け方が多いです。
吾妻: 気道過敏性とは?
Dr.Y: この表には香水とか線香が書かれていますが、その他に冷気や匂い、会話などで咳が誘発されやすい場合に気道過敏性が亢進していると考えます。
吾妻: どうしてこれらの症状は喘息に特徴的なんですか?
Dr.Y: 例えば風邪のようなウイルス感染だけでこんなに長く咳が続く事は少ないですね。それから喘息はダニやカビの繁殖する夏だとか、花粉の多い春先や秋など、悪化する季節が人それぞれ決まっている事が多いので毎年同じ季節に悪化する傾向があります。
Dr.Y: また夜間は気温も下がるし副交感神経が優位になることで喘息発作が誘発されやすい。それから喘息では気道で炎症が起きて敏感になっているので外部刺激に対して敏感になっているんです。
3. こういう背景があると喘息っぽい
Dr.Y: それから小項目の「背景」については、子供の頃喘息だった、家族に喘息がいる、アレルギー素因がある、の3つが重要という事になります。
Dr.Y: 吾妻さんは「症状」の項目はほとんど当てはまっていますね。背景に関してはどうですか?
吾妻: 花粉症があるのですが、これも当てはまりますか?
Dr.Y: 花粉症はアレルギー性鼻炎に含まれるので、アレルギー素因もありと考えられますね。
4. 一気に息を吐くと聴こえやすい「気道狭窄音」
Dr.Y: それでは診察に入りましょう。(聴診器を胸に当てて)ではゆっくり深呼吸してください。
吾妻: スーーハーー、スーーハーー。
Dr.Y: 一見、正常な呼吸の音に聴こえますね。では次に大きく吸って、その後に力強く一気に吐き出してください。
吾妻: スーーーー、ハーーーーピー。
Dr.Y: 最後にピーって音がしましたね。
吾妻: 自分でも分かりました。夜に咳が出ている時の音と同じです。これは何の音なんですか?
Dr.Y: これは空気の通り道が狭くなっている時に聴かれる音ですね。末梢気道の狭窄音と呼んでます。
吾妻: 普通に呼吸している時は聴こえないのに。
Dr.Y: 咳をしたり、今みたいに強制的に息を吐き出す時は気道が狭くなっている音を検知しやすいのです。このような音は喘息やCOPDにおいてよく聴かれる音です。
吾妻: COPDとは?
Dr.Y: COPDは、正式名称が慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)と呼ばれる病気で、いわゆるタバコ肺です。タバコの影響で肺が壊れたり気道が狭くなったりします。
吾妻: 私、タバコは吸いませんし周りにも喫煙者はいません。
Dr.Y: そう考えると、ますます喘息が疑わしいですね。とはいえ、これだけで診断確定とはいきません。まず、長引く咳をきたしやすい他の病気を除外する必要があります。
吾妻: 長引く咳をきたしやすい他の病気とは?
Dr.Y: 色々ありますが、見逃してはいけないのは、結核、肺がん、間質性肺炎など
吾妻: 他の病気を除外するために何をすれば良いですか?
Dr.Y: そうですね。最低でもレントゲン撮影が必要です。これからレントゲン室に行って胸のレントゲン写真を取りましょう。
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については記載された情報を基に自己判断せず、必ず主治医に相談してください。
参考文献:日本喘息学会 喘息診療実践ガイドライン2024(協和企画)