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喘息(24) タバコ肺と喘息



0. 本記事のまとめ

・タバコ肺(慢性閉塞性肺疾患; COPD)は、喫煙による肺の病気です。
・COPDと喘息が合併している事があります(ACOと呼ぶ)。
・COPDの治療のみだと喘息の悪化を招く恐れがあります。


1. タバコ肺と喘息は合併する事がある

Dr.Y: どうしましたか。

吾妻: 以前から父がよく咳をしているんです。それで何年か前に近くのクリニックでタバコ肺と言われ吸入薬による治療をしています。

Dr.Y: タバコ肺で吸入薬の治療ですか。おそらくCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の事ですね。喫煙の影響で肺がスカスカになったり痰が絡んだり呼吸が苦しくなったりする病気ですね。結構タバコ吸ってたんですか?

吾妻: 以前はかなりのヘビースモーカーだったんです。それで、そこのクリニックは一般内科なんですが、CTでそう診断されてからは禁煙しています。

Dr.Y: 良かったですね。禁煙がまず第一歩ですからね。禁煙した後に吸入薬による治療をしているわけですね。良さそうに思いますが。

吾妻: はい。問題は、タバコ肺の治療をしているにも関わらず何年も咳が続いている事なんです。

Dr.Y: そうなんですか。

吾妻: しかも、その咳が、喘息がひどい時の私の咳と似ていて。

Dr.Y: どう似ているんですか?

吾妻: まず、昼と夜で咳の頻度が全然違っていて、夜間から明け方に何度も咳き込むんです。それに昼間もふとした拍子に突発性の咳がずっと続くんです。

Dr.Y: なるほど。喘息に特徴的な「症状の日内変動」と「気道過敏性」があるのですね。

吾妻: そうなんです。そこでふと思ったんですけど、先生。タバコ肺の人だって喘息になる事はあるでしょう。

Dr.Y: はい。これは良くあります。喘息とCOPDが両方ある病態に対して、ACO(Asthma and COPD overlap; 喘息とCOPDのオーバーラップ)という名前がついています (1)。両者の合併がたまたまなのか関連しているのかについてはまだ結論は出ていませんが。

吾妻: 結構多いんですか?

Dr.Y: はい。国内のいくつかの医療施設でタバコ肺と診断された人に、喘息の補助診断として使われるFENOの検査をしたところ、16.3%が高値を示したという報告があります (2)。

吾妻: そうなんですね。でも、父の場合はもうタバコ肺に対して吸入薬の治療を行なっているので、喘息があったとしてもちゃんと治療できていますよね?

2. タバコ肺に対する吸入薬だけで十分なのか?

Dr.Y: いえ、そうとは限らないです。というか、そうではない可能性の方が高いと思います。

吾妻: どうしてですか?

Dr.Y: タバコ肺、すなわちCOPDで使う吸入薬と喘息で使う吸入薬は決定的に異なる点が一つあるからです。

吾妻: そうなんですか?何が違うんですか?

Dr.Y: 吸入ステロイドが入っているかどうかです。COPDで使う吸入薬の多くには、炎症を抑えるステロイドが入っておらず、気管支を広げる薬しか入っていません。

吾妻: そうなんですか?同じ吸入薬による治療なのに、どうしてCOPDと喘息で内容物が異なるんですか?

Dr.Y: 喘息もタバコ肺も気道に炎症が生じて気道が狭くなる病態ですが、喘息では好酸球というステロイドが効きやすい炎症である事が多いのに対し、タバコ肺では好中球というステロイドが効きにくい炎症である事が多いからです(注)。

吾妻: なるほど。それでタバコ肺の治療に使う吸入薬の多くにはステロイドが入っていないのですね。

Dr.Y: そうです。それで、もし本当は喘息とタバコ肺の両方ある人が、タバコ肺の診断しかついておらずステロイドの入っていない吸入薬だけ使っていたらどうなると思いますか?

吾妻: 喘息の炎症が抑えられず、発作を起こしやすくなってしまいます。

Dr.Y: その通りです。発作が起こらなくても、時間と共に肺機能がどんどん低下していってしまいます。

3. タバコ肺で喘息を疑ったら

吾妻: なるほど。では、タバコ肺の人も喘息を合併していないかどうかはチェックしておいた方が良いという事ですね。

Dr.Y: はい。そうです。タバコ肺と言われた人でも、1日の中で決まった時間に症状が悪くなる(日内変動)、1年の中で同じような季節に症状が悪くなる(季節性変動)、冷気や匂いなどの刺激で発作的に咳が出る(気道過敏性亢進)、といった喘息の特徴を認める場合は、一度疑う必要があります。

吾妻: 父にも伝えてみますね。今行っているクリニックは一般内科で呼吸器内科が専門ではないみたいなのですが、どうすれば良いでしょう。

Dr.Y: タバコ肺と喘息の区別、または合併している事を診断するには、気管支拡張薬による可逆性の検査や、FENO、アレルギー検査、拡散能検査など、専門的な検査を要するので、一度呼吸器内科専門の施設を受診してみる事をお勧めします。

吾妻: そうしてみます。ありがとうございます。


(注)実際のところは、喘息でも好中球性の炎症が見られる事があり、また好酸球性の炎症であってもステロイドが効きにくい病態も存在します (3)。ここでは分かりやすさを重視してかなり大雑把な説明をしましたが、本来はここまでクリアカットに分けられるものではありません。


参考文献
1. 日本呼吸器学会 喘息と COPD のオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap:ACO) 診断と治療の手引き第 2 版
2. Tamada T, Sugiura H, Takahashi T, et al. Biomarker-based detection of asthma-COPD overlap syndrome in COPD populations. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2015;10:2169-2176. doi:10.2147/COPD.S88274
3. Israel E, Reddel HK. Severe and difficult-to-treat asthma in adults. N Engl J Med. 2017;377(10):965-976. doi:10.1056/NEJMra1608969

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