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喘息(20) なんでもかんでも咳喘息?
0. 本記事で言いたいこと
咳喘息の診断は広くされていますが、過剰診断が多いと言われているのも事実です。
咳喘息の診断は実は非常に複雑であり難しいものなので、きちんとした診断は呼吸器内科で行う事をオススメします。
1. どうやって咳喘息と診断されているのか
Dr.Y:次の方、どうぞー。
小関:失礼します。
Dr.Y:小関さんですね。こんにちは。あれから2週間経ちましたが、いかがですか?
小関:はい。だいぶよくなりました。いただいた吸入薬を使って3日目くらいから、咳が減ってきたのを実感できました。
Dr.Y:今の咳の状況をもう少し詳しく教えてください。
小関:まず、夜になると発作のように続いていた咳がなくなりました。それから、日中も、ちょっとした動作で少し咳が出ますが前ほど何回も続かず、1回か2回コンコンすれば治まります。
Dr.Y:だいぶ良くなったようで良かったです。2ヶ月続いた咳が吸入薬を開始して3日で減ってきたのですから、治療が効いた可能性が高そうですね!
小関:ありがとうございます。
Dr.Y:やはり咳喘息と考えて良さそうに思います。ちなみに、日本人の慢性の咳の原因の頻度を調べると、咳喘息がトップで3〜4割を占めるとされていますが、この中には過剰診断も多く含まれているのではないかと思います。
小関:そうなんですか?
Dr.Y:日常の診療の中でも、ちょっと咳が長引いているとすぐに咳喘息という診断名がついてしまっている光景をよく目にします。
小関:ちなみに私の咳喘息の診断は何が決め手だったのですか?
Dr.Y:咳喘息の診断基準以外に、咳喘息の特徴を多く認めた事です。まずはじめに、ここに咳喘息の診断基準を示しますね。"wheezes (ウィーズィーズ)を認めない"というのは、気道の狭窄音を認めないという事です。
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Dr.Y:つまり、咳が8週間続いていて、聴診してもヒューヒューしてなくて、それにも関わらず気管支を拡げる吸入薬が有効ならば咳喘息という事になります。
小関:結構おおざっぱな基準なんですね。8週間以上と書いてますが、3〜8週間もOKなんですね。それに、気管支拡張薬が有効って判断基準があるんでしょうか。
Dr.Y:はい。この基準は非常にゆるいので、この基準だけ考えていると、他の病気も咳喘息にしてしまうので注意が必要です。
小関:診断基準が非常にゆるいというのは、どの辺がゆるいんですか?
Dr.Y:一番は、さきほど小関さんがおっしゃったように、「気管支拡張薬が有効」という項目が客観性にかけるんです。
小関:確かに、具体的な数値基準とかないんですね。
Dr.Y:「自然軽快」と「気管支拡張薬が効いて軽快」は区別がつかないですし、本当は軽快していないのにたまたまその日調子が良いだけで、「軽快→有効」と医師も勘違いしてしまいやすいです。
小関:そう考えると、この診断基準だけだと、長く続く咳は、本当に何でも咳喘息になってしまいますね。参考所見のところの項目が非常に大事なのに、それは基準には入っていないのもよく分かりませんね。
Dr.Y:はい。小関さんの場合は、この診断基準に加えて、①気道の過敏性亢進だったり、日内変動だったり、FENOが高値だったり、と喘息・咳喘息に特徴的な所見を多く認めた事、②レントゲンなどで他の病気がある程度除外されている事も合わせて決め手だったと言えます。
2. このような咳喘息の診断は注意
小関:では、この診断基準だけで診断されてしまうと、咳喘息以外の病気も広く咳喘息にされてしまう可能性があるということですか?
Dr.Y:はい。そのくらい、咳喘息というのは本来は診断が難しいのです。
小関:咳が長引いた時に受診した病院で咳喘息と言われても「本当に咳喘息なのかな?」というのは注意した方が良いですか?
Dr.Y:そうですね。もちろん診断が正しい事も多くあると思いますが、咳喘息と診断されるまでのプロセスがあまりに簡単だと、疑った方がよいかもしれません。
小関:と言いますと、具体的にどんな状況ですか?
2.1 聴診なしで咳喘息と言われたら注意
Dr.Y: 一つは、聴診してないのに咳喘息と言われた場合ですね。
小関: 聴診せずに咳喘息と診断されてしまうと何がまずいのですか。
Dr.Y: 喘息と咳喘息の違いは聴診で狭窄音が聴こえるかどうか、だけなんです。したがって、聴診をせずに両者を区別する事は絶対にできません。
小関: 本当は喘息なのに咳喘息と言われてしまう可能性があるという事ですか。
Dr.Y: はい。喘息は咳喘息より重症に位置するので、喘息なのに咳喘息と診断されると、実際より軽く見積もられる事になります。その結果、より厳格な管理が必要なのに対応が甘くなりやすいです。
Dr.Y: また、難治化した場合に喘息でしか認められていない治療もあるので、咳喘息としか診断されていないと、治療選択肢が狭まります。
小関: なるほど。
2.2 レントゲンを撮らずに咳喘息と言われたら注意
Dr.Y: それから、レントゲンを撮らずに咳喘息と言われた場合、肺癌や肺結核、間質性肺炎などの重大な病気が除外されていません。
小関: レントゲンでどのような事が分かるのですか?
Dr.Y: 胸部レントゲンは、肺で起きている異常を検知しやすいですが、気道の病変は検知しにくいという特徴があります。
Dr.Y: 肺癌や肺結核、間質性肺炎などは肺の病気なので胸部レントゲンで異常が認められますが、喘息や咳喘息は気道に病変があるため、異常がうつりません。
小関: なるほど。という事は、喘息や咳喘息のような気道の病気と診断する前に胸部レントゲンで肺の病気の可能性を除外しておく必要があるという事ですね。
Dr.Y: そのとおりです。
2.3 咳喘息の診断は呼吸器内科で
Dr.Y: このように、咳喘息の診断というのは、かなりアバウトなので注意が必要です。他の病院で「咳喘息」と診断されたという人が私の外来に来ると、「咳喘息と診断された時にどんな診察や検査をされましたか」と聞くようにしています。
Dr.Y: その時に、咳喘息ですとは言われたけれど聴診もされていません、レントゲン撮っていません、という方が時々いらっしゃいます。そういう時は前医での咳喘息の診断は信用せず、自分でもう一度診断を考え直すようにしています。
小関: なんでもかんでも咳喘息にされてしまうのは嫌ですね。なんだかこわくなってきました。
Dr.Y: 普通のクリニックでは、自分の専門以外の診療科も診なくてはいけないので大変だと思います。例えば心臓が専門だったりお腹が専門だったり、というような先生に、咳喘息の正確な診断をしてもらうのは難しいという意見も理解できます。
小関: では患者としては、どうしたら良いですか。
Dr.Y: 咳喘息はきちんと呼吸器内科が専門のところで診断してもらうのが一番だと思います。
Dr.Y: 誤って咳喘息と診断される事で、①本来不要な治療を受ける事になる、②重大な他の病気を見逃す事になる、の2つのデメリットがあるので、これらは絶対に避けるべきです。
参考文献
日本呼吸器学会 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン 2019