喘息(28) 難治性喘息と決めつける前に②
(前回の続き)
0. 本記事のまとめ
・喘息の診断で正しいのか何度も確かめるのは、診断根拠となる所見が時間とともに変化しやすく、また最初の診断の時点でそもそも喘息以外の病気を完全に除外できているわけではないからです。
・喘息と間違われやすい他の肺の病気としては、肺癌や結核、間質性肺炎など緊急を要するものや、副鼻腔気管支症候群、逆流性食道炎、アトピー咳嗽など頻度の高いものがあります。
1. なぜ何度も喘息の診断を確かめるのか
十条: 喘息が難治性と決めつける前に「そもそも本当に喘息の診断が正しいのか」をもう一度考え直さないといけないという話でしたね。
Dr.Y: その通りです。
十条: それは喘息以外の診断の可能性についてもう一度調べるという事ですか。
Dr.Y: はい。そうです。
十条: でも、最初の診断時に一度考えてるじゃないですか。何故、2度も同じ事をやるんですか?私の上司がよく言ってますよ。一度の確認で済むところを二度も三度もやるのは3流の所業であると。
Dr.Y: ビジネスではそうかもしれません。でも病気では違います。理由は2つ。
十条: 何ですか。
Dr.Y: 1つ目は、病気は時間と共に進行するということ。進行するということは、病気の手がかりもそれだけ増えています。
十条: つまり、初期は見つからなかった他の病気の証拠が前よりも見つけやすくなっている可能性があるという事ですか。
Dr.Y: その通りです。例えば、細菌性肺炎だって、最初は咳とか痰が絡む程度しか所見がないわけですよ。当然、レントゲン撮っても大した所見は映らない。この時点で診断しようと思っても無理難題です。
十条: まあ、どんな病気も最初は軽微なものから始まりますからね。
Dr Y: それが進行してくる過程で、熱が出たり息苦しさが増えてきたりして、これは普通の風邪ではないと。もう一度レントゲンを撮ってみると今度はバッチリ肺炎像が写っているというような感じです。
十条: なるほど。つまり、どんな病気も時間が経つにつれて手がかりが増えてくるから診断の難易度が下がってくるという事ですね。
Dr.Y: その通りです。そして、2つ目は、最初の時点では大体の検査しかしていないという事。
十条: ちょっと。大体の検査だったんですか。それは困りますよ。きちんと最初から100%の検査をしてくれないと。
Dr.Y: 本当にそうでしょうか。では質問です。十条さんは、3日前からお腹の調子が悪くて下痢をしている時にいきなり大腸カメラをしましょうと言われたらどう思いますか?
十条: えっいきなりですか。3日前からだから普通にウイルス性胃腸炎とかじゃないですか。お腹の調子が悪いだけで大腸カメラはやりすぎのような気がします。
Dr.Y: そうですよね。では、その症状がいつまで経っても改善しなくて1ヶ月後に下痢が悪化していたら?
十条: 流石にウイルス感染だったら2週間も経てば良くなっているだろうし、他の病気じゃないかなとも思うので大腸カメラはやってもらうかもしれないです。
Dr.Y: でも、最初から100%の検査を行うのであれば、最初の時点で大腸カメラをしておくべきではないですか?
十条: ・・・確かに。
Dr.Y: でもそれは当然です。疑わしい病気というのは経過とともに刻々と変わるので。最初から全ての可能性をカバーする事は出来ません。
十条: その時その時で、優先順位をつけて検査していくという事ですか。
Dr.Y: はい。患者さんの負担、医療者の手間、医療費などの観点からも、診断のための検査というのは不足してもいけませんが過剰になってもいけません。
2. 難治性喘息と考える前にもう一度除外しておくべき疾患(緊急性あり)
十条: それで、具体的には喘息以外のどんな疾患を念頭に検査をするのですか。
Dr.Y: 要は喘息の治療をしていても良くならず、咳がずっと続いているわけですよ。なので、長いスパンで罹患しているような診断を考える事になります。
十条: なるほど。
Dr.Y: 特に見逃したくない診断名を具体的に挙げるなら、肺がん、結核、非結核性抗酸菌症、気管支拡張症、間質性肺炎、肺真菌症など。これらは、放っておくと命に関わったり不可逆性の変化をきたす事になるので、注意が必要です。
十条: 見逃したくない診断だけでもこんなにあるんですか。どうやってこれらの病気の有無を調べるんですか。
Dr.Y: 胸部CTを撮るとかなり情報量が増えるので、そうしましょう。あとは、痰の検査をおこなって、痰の中に結核菌やがん細胞が入っていないかを調べる事になります。
十条: 痰の検査までするんですね。CTだけでも不十分という事ですか?
Dr.Y: 例えば、病変が気管支に限局していたりするとCTでもはっきり写らないことがあります。気管支に出てくるような癌や、気管結核や喉頭結核のように、気道に限局した病変をとる病気がこれに該当します。
3. 難治性喘息と考える前にもう一度除外しておくべき疾患(頻度が高い)
Dr.Y: あとは、先ほど挙げた疾患ほど緊急は要しないけれど鑑別しておかなくてはいけない疾患を3つ。
十条: 教えてください。
Dr.Y: 逆流性食道炎、副鼻腔炎気管支症候群、アトピー咳嗽です。
十条: これらはどうして重要なんですか?
Dr.Y: 慢性の咳を訴える患者さんの中で、喘息や咳喘息の次に頻度の高いものたちだからです。
十条: 先ほどのものは緊急性の高い病気の一覧で、今度は頻度の高い病気の一覧という事ですね。
Dr.Y: その通りです。
十条: 逆流性食道炎は胃液が食道を逆流してきてしまう病気、副鼻腔気管支症候群は副鼻腔炎の影響で気管支も悪くなって咳が出てしまう病気ですね。アトピー咳嗽は何ですか?
Dr.Y: アトピー咳嗽とは、喉の周辺の粘膜が敏感になって咳の反射が起こりやすくなってしまう疾患です。
十条: 喘息の気道過敏性とは異なるんですか?
Dr.Y: はい。喘息の気道過敏性というのは気管支周囲の平滑筋という筋肉組織が関わっているのですが、アトピー咳嗽は気道過敏性は関係ありません。
十条: そうすると、喘息で使うような気管支拡張薬は無効という事ですか?
Dr.Y: まさにその通りです。アトピー咳嗽の場合は、花粉症の時に使うような抗ヒスタミン薬が有効とされています。
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