見出し画像

コラム: レントゲンと飛行機旅行、どちらが被ばくが多いか②

0. 本記事のまとめ

・1回の胸部レントゲンで受ける被ばくは非常に微々たるものでした。
・ 被ばく量の判断基準を知り、それが体に対してどの程度影響を持つのかを知る事が大事です。
・私達が日常生活の中で常に受けている放射線(自然放射線)の被ばく量と医療被ばく量を比較すると分かりやすいです。

<前回の続き>

1. レントゲンを年間100回とったら

患者C: つまり、皮疹や脱毛や骨髄抑制といった確定的影響を防ぐためには吸収線量が100mGyを超えてはならない。それから、がん化のリスクのような確率的影響については実効線量が100mSv増えるごとに0.5%ずつがんによる死亡率が上昇していく、という事ですね。

Dr.Y: その通りです。その上で環境省がホームページに載せているレントゲン撮影時の被ばく量の目安を見てみましょう。

環境省 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料より引用

患者C: 1回の撮影による吸収線量は0.3mGy程度ですか。基準の100mGyと比べてとても微量なんですね。

Dr.Y: その通りです。そして実効線量は0.06mSv程度です。ですから、Cさんが年間に100回レントゲン撮影をしたとしても6mSv、やはり基準の100mSvよりもずっと低い値であると言えます。

患者C: そのくらい少ないリスクだという事ですね。

Dr.Y: ですから必要があって撮影するレントゲン1回分のリスクは、それによる診療上のメリットに比べると極めて小さいという事になります。

患者C: よく分かりました。撮影のメリットとリスクを比較して考えていかなくてはいけないという事ですね。

Dr.Y: その通りです。ちなみに呼吸器内科では、他にCT検査なども行いますね。

患者C: 胸部CTは1回あたりどのくらいの実効線量になるのですか?

Dr.Y: はい。通常の胸部CTで3〜7mSv、高分解CTと言われるHRCTで1〜3mSv程度です。もちろん無闇に何度も撮るのは良くありませんが、診断や診療に必要であればきちんと撮影した方が良いでしょう。

2. 日常生活で受ける被ばくは医療被ばくだけではない

患者C: ちなみに、最初におっしゃっていた、飛行機旅行中に受ける被ばくというのはどの位ですか?

Dr.Y: 地上にいても宇宙から降り注ぐ宇宙放射線による被ばくを受けますが、上空に行くとさらに沢山浴びますからね。例えば日本ーニューヨーク間を飛行機で往復すると0.11〜0.16mSvの被ばくを受けると言われています。

患者C: なるほど。

Dr.Y: つまり、1回のレントゲン撮影より飛行機で海外旅行に行く方が被ばく量が多いという事になります。

患者C: 海外旅行には行くくせにレントゲンを撮りたくないというのは論理が破綻していると言いたいわけですね。

Dr.Y: そうは言っていません。笑 ただ、検査ごとの放射線被ばくがどのくらいなのか具体的にイメージできると良いですね。それから、わたしたちが被ばくを受けているのは何も宇宙からの放射線だけではありません。

患者C: 他にもあるんですか?

Dr.Y: 今話した宇宙放射線の他に、土壌に含まれる放射性物質から受ける大地放射線、食品に含まれる放射性物質による内部被ばく、空気中に含まれるラドンやトロンといった放射性物質、たくさんあります。

患者C: そんなにあるんですか。私たちは常に放射線の被ばくを受けながら日々の生活を送っているというわけですか。

Dr.Y: その通りです。このように日常生活を送る中で自然に受けてしまう放射線を自然放射線と呼びますが、日本では年間2.1mSvの自然放射線に被ばくしていると言われています。

患者C: なるほど。こういう事が分かると、放射線を使った検査における被ばくのリスクがどのくらいなのか肌感で分かりますね。

Dr.Y: もちろん、世界的に見ると日本は医療被ばくが多いのも事実なので、本当に放射線検査が必要かどうかきっちり考えて検査していく必要がありますけどね。

環境省 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料より引用
環境省 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料より引用

3. 放射線被ばくは数あるがん化リスクのうちの1つにすぎない

Dr.Y: 大事な事がもう一つあります。

患者C: なんですか?

Dr.Y: 放射線被ばくは、沢山あるがん化リスク因子の中の1つに過ぎないという事です。

患者C: 確かに、タバコとか食生活とか、色々がん化のリスク因子と言われていますね。

環境省 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料より引用

Dr.Y: せっかく放射線の被ばくによるがん化のリスクに意識が及んでいるのであれば、それと同じもしくはそれ以上のがん化リスクのある生活習慣の有無についても見直す良いチャンスであると言えます。

患者C: はい。よく分かりました。

Dr.Y: 納得してもらえたのなら、これからレントゲンを撮りにいってもらえますか?

患者C: はーい。そうします。


参考文献 環境省 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料

いいなと思ったら応援しよう!