喘息(4) 気道の可逆性は残されているか
この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。
主な登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
吾妻さん:40歳女性、2児の育児をしながら市役所に勤務している。ここ数ヶ月咳が続くためDr.Yの外来を受診。
1. これまでの検査のまとめ
Dr.Y:では診察に戻って、これまでの結果をまとめてみましょう。
吾妻:はい、お願いします。
Dr.Y:先月から咳が続いていて、ヒューヒュー音がする喘鳴、昼は落ち着いていて夜に悪くなる日内変動、しゃべったり空気が入れ替わった時に咳が誘発される気道過敏性、去年も同じ時期に症状を認めた季節性、などが特徴でしたね。
吾妻:はい。これらは喘息を疑う咳の特徴に合致するという事でした。
Dr.Y:さらに聴診でも気道狭窄音が聴こえて、肺機能検査でも息を吐く能力が落ちている、つまり空気の通り道が狭くなっている所見が聴診でも肺機能検査でも認められた。
吾妻:はい。吸うのは問題ないけれど吐くのが駄目、という事でした。
Dr.Y:そして胸部レントゲンでは、結核や肺癌や間質性肺炎など喘息以外の咳の所見を認めなかった。
吾妻:正確にはCTまで撮らないとわからないけれど、ある程度除外できたという事でしたね。
Dr.Y:はい。これらの結果から、気管支喘息の可能性が高いと考えます。
2. 気道可逆性とは?
吾妻:この先どうすれば良いですか?
Dr.Y:気管支喘息の特徴として気道可逆性を確認します。
吾妻:まだ何か調べるんですか(もうつかれました)。気道可逆性ってなんですか。
Dr.Y:気道可逆性とは狭くなった気道が再び広がる性質の事です。つまり狭くなったまま固まってしまっているのか、再び広がる余地があるのか。例えばタバコ肺のCOPDでも気道可逆性がないのが特徴です。
吾妻:なるほど。どうするのですか?
Dr.Y:気管支拡張作用のある薬品をネブライザーで吸ってもらって、もう一度肺機能検査を行います。
吾妻:またやるんですか、あの検査。
Dr.Y:正確な診断のために必要なので。
吾妻:そこまでしなくても、もう喘息って事で良いですよ。いっぱい話していっぱい検査して、もう疲れました。
Dr.Y:こういうのは最初の診断がとても重要なんです。最初の診断を曖昧にしてしまうと、治療がうまくいかなかった時に、治療の強さが足りないのか、治療の方向性が間違っているのか判断できなくなります。
吾妻:診断に確信が持てていれば治療を強化するけれど、逆に診断が間違っていたらいくら強化しても意味ないですもんね。
Dr.Y:そういう事です。それではこれから処置室に行って、ネブライザーで気管支拡張薬を吸入してきてください。終わったらそのままさっき肺機能検査をやった部屋へ。処置室の看護師さんと検査室の技士さんには私の方から伝えておきます。
吾妻:はいはい。
Dr.Y:では、行ってきてください!
3. 気道可逆性試験で改善あり
<<<<<<<<30分後>>>>>>>>
吾妻:行ってきました。
Dr.Y:お疲れ様です。検査結果は気管支拡張薬を使う前後での1秒量の変化で評価します。1秒量とは先ほど一気に息を吐いてもらったときに最初の1秒間で吐いた空気の量です。
吾妻:閉塞性障害の基準になっているのは1秒率でしたね。今回は1秒量ですか。
Dr.Y:色々あってややこしいですよね。
吾妻:どの位の改善で気道可逆性ありとするんですか。
Dr.Y:吸入前値に比べ,1秒量が12%以上かつ200 mL以上増加した場合、可逆性ありと判断します。
吾妻:吾妻さんは吸入後の1秒量は1.92L (1920mL)でした。吸入前の1秒量が1.64L (1640mL)だったので、1920-1640=280mlの改善、(1920-1640)/1640=17.1%の改善ですね。
Dr.Y:これで気道可逆性ありと言って良さそうです。
吾妻:そうすると、診断はいよいよ喘息という事になりますか。
Dr.Y:はい。
吾妻:ようやく・・・。診断がついてホッとしてますが、一方で自分が喘息だった事に対してショックです。
Dr.Y:これから喘息の病態と治療について分かりやすくお伝えするので、正しく理解していきましょう。
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については自己判断せず、必ず主治医に相談してください。
参考文献:日本喘息学会 喘息診療実践ガイドライン2024(協和企画)