喘息(2) 「レントゲンで異常なし」
この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。
主な登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
吾妻さん:40歳女性、2児の育児をしながら市役所に勤務している。ここ数ヶ月咳が続くためDr.Yの外来を受診。
1. 「レントゲンで異常なし」は何のため?
吾妻:レントゲン撮ってきました!
Dr.Y:おかえりなさい。では一緒に見てみましょう。
吾妻:お願いします。
Dr.Y:我々呼吸器内科医はレントゲンを見る時に見逃しがないようにある程度決まった順番でチェックポイントを見ていくんですが、全部伝えていると混乱させてしまうので簡潔に。
吾妻:勿体ぶらないで早く教えて下さい。
Dr.Y:結論から言うと、肺に異常な影はありませんでした。透き通っていてとても綺麗ですね!
吾妻:本当ですか?良かったです。
Dr.Y:心臓の大きさもスリムで問題なさそうですね。
吾妻:安心しました。異常がないという事ですね・・・ん?ということは喘息もなかったという事ですか?
Dr.Y:いえ、そもそも喘息の異常所見がレントゲンにあらわれてくる事は非常に少ないです。
吾妻:・・・じゃあ何故レントゲンを撮ったんですか?私は意味のない検査をやらされたのですか?
Dr.Y:いえ。レントゲンを撮りに行く前に私が何と言ったか覚えていますか?
吾妻:えーっと、咳が長びく他の病気を除外するため、でしたっけ。
Dr.Y:そうです。例えば結核とか、肺がんとか、間質性肺炎とか、そういう喘息以外の危険な病気がないかどうかを調べるためです。
吾妻:ではレントゲンで喘息を見つけにいったのではなく、喘息以外の病気が隠れていないかを確認したという事ですか?
Dr.Y:そのとおりです。そして、そういった病気は現時点では考えにくいと思います。
2.・・・とはいえレントゲン検査は絶対ではない
吾妻:「現時点では」?なんか誤診だった時のために保険かけてません?大丈夫ですか先生?
Dr.Y:違います。検査に絶対はないという事です。どんな検査もどのくらいの確率で病気を引っ掛けられるかという指標があります。これを「検査感度」と言います。
吾妻:コロナの時の抗原検査でどの位正確に引っ掛けられるか、という話と似てますね
Dr.Y:その通りです。コロナの時は本当は感染していてもまだ初期だったり採取方法が甘かったりすると抗原検査も陰性になっていました。
吾妻:同じことがレントゲンでも言えるわけですね。
Dr.Y:あくまで、レントゲンに写ってくるような目立った影はないから肺炎や結核などの可能性は低いと考えているわけです。
Dr.Y:本当に除外しようと思ったらCTスキャンまで撮ってレントゲンで映らないような小さい影まで探さないといけません。ただ、最初から全ての患者さんにCTスキャンまで撮るのは明らかに過剰医療ですからね。
吾妻:それで先程「現時点では」という接頭語をつけたんですね。お医者さんの説明で「明らかな異常はなかった」とか、「〜の可能性は低い」とか、そんな言い方をする人が多いのはこういった検査感度が理由なわけですね。
3. 「〜は否定的」の本当の意味
Dr.Y:もちろん医師の中には「否定的」や「除外された」とか断定的な言い方をする人もいます。
吾妻:そういうお医者さんは慎重さに欠けているのですか?
Dr.Y:笑。必ずしもそうとは言い切れません。検査の中には除外診断に適したものがあります。例えばDダイマーなど。
吾妻:Dダイマーですか?
Dr.Y:主に血栓を調べる検査なんですが、感度が80〜95%と言われており、検査の中では極めて高い部類です。その分他の病気でも陽性になりやすいので確定診断には不向きですが除外診断に向いているとされます。
吾妻:確定診断に向いている検査と除外診断に向いている検査があるということですか。
Dr.Y:その通りです。多くの場合、この2つは両立しません。あとは、本心では否定できないと思っていても、患者さんに分かりやすく説明するために、敢えて断定的な言い方をする医師もいます。
吾妻:でも、正直、断定的な言い方をしてくれた方が白黒はっきりしていて信頼できそうです。
Dr.Y:患者さんとの信頼関係を構築するために、こういうスキルが必要な場合もあります。でもやはり、極力正確な表現を伝えたいと思っています。
吾妻:お医者さんも検査の伝え方一つで色々悩むものなんですね。
Dr.Y:分かってもらえて嬉しいです。さて、レントゲンで肺癌や結核などは「現時点では」除外されたという前提で、次の検査にいきましょう。
吾妻:次の検査とは?
Dr.Y:肺機能検査。除外診断ではなく、喘息の診断に向けた検査です。
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については自己判断せず、必ず主治医に相談してください。
参考文献:日本喘息学会 喘息診療実践ガイドライン2024(協和企画)