喘息(7) 相性の良い吸入薬を選びましょう
この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。
主な登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
吾妻さん:40歳女性、2児の育児をしながら市役所に勤務している。ここ数ヶ月咳が続くためDr.Yの外来を受診し、喘息と診断される。
1. デモ機を使って吸い比べ
Dr.Y:それでは、いくつか吸入薬をお見せします。いろいろ種類があるので、一緒に選んでいきましょう。
吾妻:お願いします。
Dr.Y:吾妻さんが今回使う吸入薬はステロイドとLABAが組み合わさったものなので、レルベア(エリプタ)、アテキュラ(ブリーズヘラー)、フルティフォーム(pMDI)、シムビコート(タービュヘイラー)、アドエア(ディスカス)の5つを用意しました。
吾妻:カッコ内のエリプタとかブリーズヘラーというのは何ですか?
Dr.Y:最初に書いてあるのが薬品名で、カッコ内がデバイスの名前になっています。デバイスというのは吸入薬をつめる小型の入れ物の事です。吸入薬は製剤だけでなく、どのようなデバイスを使って吸入するかも大事です。
吾妻:薬剤とデバイスがセットになってるんですね。
Dr.Y:はい。実際の薬剤を使っていろいろ試すと、過量投与になってしまうので、今回はデモ機を使いましょう。
2. 1日1回で良いレルベア、アテキュラ
Dr.Y:では、まずこのレルベアから試してみましょう。エリプタというデバイスを使って、薬剤を気管支に届けます。カバーを開けて、口に加えて、力強く吸ってみてください。どうですか?
吾妻:まずカバーをあけて、、カチッと。
Dr.Y:カバーをあける時の「カチッ」という音は、デバイスの中でブリスターという薬のシートがあいて吸入口にセットされた事を示す音です。では吸ってみてください。
吾妻:スー。あっ結構粉っぽいです。でも、カバーを開けて咥えて吸うだけで良いので、簡単でやりやすいですね。
Dr.Y:そうですね。レルベアは1日1回で良い点、吸入の操作が簡便な点が魅力的です。またカウンターが大きいので、残量が分かりやすいのも◯ですね。
吾妻:とても使いやすそうです。あと、吸う時少し甘い味がしますね。
Dr.Y:薬剤に乳糖が含まれているので、吸入時にわずかに甘みを感じる事があります。
吾妻:逆にレルベアを使うデメリットはありますか?
Dr.Y:粉が大きいので吸うのに力がいることです。また、粉っぽいので吸入時にむせやすく、副作用として声枯れ(嗄声)が多い印象があります。
吾妻:1日1回の製剤は他にもありますか?
Dr.Y:こちらも1日1回の製剤、アテキュラという名前です。これはブリーズヘラーといって薬の入ったカプセルと吸入デバイスが別になっているのが特徴です。
吾妻:なるほど。カプセルをいちいち詰めるのは面倒ですが、1日1回ですし、慣れれば大丈夫ですかね。
吾妻:蓋を開けて、中にカプセルを詰めて、両側のボタンを押してカプセルに穴を開けて…と。スーーカラカラカラ。
Dr.Y:良いですね、うまく吸えている時は、デバイスの中でカプセルが浮いて回転するので、そのようにカラカラ音がすれば正しく吸えている目安になります。
吾妻:アテキュラはマウスピースが咥えやすく吸いやすいですね。
Dr.Y:もし、吸入後に蓋をあけてみて、カプセル内に粉が残っていたら、カプセル内が完全に空になるまで追加で吸入してくださいね。
吾妻:でも、1日1回より、1日2回きっちり使いたいという人もいるんじゃないですか。
3. 1日2回のシムビコート、フルティフォーム、アドエア
Dr.Y:その場合は、1日2回タイプのシムビコート、フルティフォーム、アドエアなどですね。まずこのフルティフォームからいきましょう。
Dr.Y:これはpMDIというデバイスで底を押すと霧状の粒子が出てくるので、それを口に咥えて吸入するデバイスです。フルティフォームは内部が薬剤と噴霧ガスが分離しているので、吸入前によく振る必要があります。
吾妻:あっ薬が霧状に出てくるので、レルベアやアテキュラに比べるとさらに喉に優しい感じですね。
Dr.Y:はい、フルティフォームはミスト状になっているので、粉っぽさが苦手な人には適しているといえます。
吾妻:なるほど。それは良いですね。ただ噴射時間が短くてシュッと出てしまうので若干タイミングが合わせづらいですね。
Dr.Y:はい、そのタイミング合わせが人によっては難しい場合がある点は注意が必要です。あと、粉にアルコール臭が微量に感じられるため、それが合わない人には使いづらいかもしれません。
吾妻:吸入のタイミングがうまく合わせられない人は使えないのでしょうか。
Dr.Y:いえ、ご高齢の方や小児などではそういった問題がありますが、吸入口にスペーサーというものをつける事で解決される事が多いです。
吾妻:そちらの白い筒の製剤はなんですか?
Dr.Y:これはシムビコートですね。これはタービュヘイラーというデバイスで、下をカチカチっとやってから自分のタイミングで吸い上げる形になります。
吾妻:自分で吸い上げるのは簡単で良いですね。スー…あれ、先生、中身が入ってないですよ?
Dr.Y:いえ、ちゃんと入っています。このシムビコートは粉が非常に小さいので、吸っている感じが全くしないんです。
吾妻:なるほど。なんだか空気を吸ってるみたいな感覚ですが、ちゃんと吸えているんですね。
Dr.Y:シムビコートは粉が小さいので奥まで入りやすいですし、吸入の力が弱くてもちゃんと吸い込めます。pMDIのようにタイミングを合わせる必要もないので、お年寄りなどには使いやすい仕様になっています。
吾妻:最後のアドエアはどうですか?
Dr.Y:アドエアは、レルベアと同じ製薬会社が出していたものです。レルベアよりも作用時間が短いので、1日2回の吸入が必要になります。
吾妻:なんかUFOみたいな形をしていますね。でも操作が簡単で、やはり自分のタイミングで吸い込めるので吸いやすいですね!
Dr.Y:いろいろ試してもらいましたがいかがでしたか?
吾妻:思った以上に、デバイスの違いというのは大きいですね。薬理作用が同じでも、使う人によって相性がありそうです。
Dr.Y:そうですね。1日の吸入回数、粉っぽさ、吸う力、噴射のタイミングに同調できるか、などいくつかの視点で選ぶと良いと思います。
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については自己判断せず、必ず主治医に相談してください。
参考文献:
日本喘息学会 喘息診療実践ガイドライン2024(協和企画)
患者目線からみた吸入療法支援(株式会社アドメディア)