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喘息(3) 吸う力と吐く力、どっちが落ちる?

登場人物:
Dr. Y:総合病院の呼吸器内科に勤務する男性医師。今年で40歳になる。趣味はお酒と筋トレ、スポーツ観戦全般、プログラミング。既婚。2児の父親。
吾妻さん:都内で外資系メーカーに勤務する女性。34歳。趣味は読書とマラソンと古墳巡り。既婚だが子供はいない。

吾妻さん「肺機能検査、終わりましたー」

Dr.Y「お疲れ様です。うまくできましたか?」

吾妻さん「大変でした。検査技師さんがスパルタで、何度も何度もやり直しさせられたんです。。」

Dr.Y「それは大変でしたね」

吾妻さん「『息を吸ってー』とか『吐いてー』とか『一気に吐いてー』とか、こっちが咳が出て苦しいのに、人の気持ちも知らないで(ぶつくさ)」

Dr.Y「そうですよね。こっちは咳が苦しくて良くしてもらいたくて来てるのに、なんでさらに辛い思いをさせる検査をさせるのか」

吾妻さん「本当にそうですよ。これはそんなに大事な検査なんですか?」

Dr.Y「まさに、喘息で最も大事な検査と言っても過言ではありません。お辛かったと思いますが、こればかりは仕方ないと思ってあきらめてください」

吾妻さん「でも、私この検査苦手です。きっとうまくできなかったと思います」

Dr.Y「この検査をした人はたいていそういう事をおっしゃるんです。それでもうまくとれてる事が多いので、きっと大丈夫ですよ」

吾妻さん「そうですか」

Dr.Y「逆に、この検査が好きですとか得意ですという意見はほとんど聞いたことがありません」

吾妻さん「そうなんですね!」

Dr.Y「では一緒に結果を見ていきましょう」

吾妻さん「なんだか項目が多すぎて、どこを見ればよいのか」

Dr.Y「そうですね。肺機能検査は細かく見ると結構奥が深いのですが、始めて目にする患者さんはまずここがわかりやすいんじゃないでしょうか。」

Dr.Y「大きいボックスが正常、拘束、閉塞、混合の4つの部屋に分かれていますが、色がついている部屋が吾妻さんの大まかな呼吸機能の分類を表しています」

吾妻さん「私は『閉塞』ですね。」

Dr.Y「呼吸には息を吸う能力と吐く能力がありますね。吸う能力が落ちていると拘束、吐く能力が落ちていると閉塞、両方落ちていると混合になります」

吾妻さん「拘束も閉塞もどっちも嫌な響きですね・・・。私は『閉塞』なので、吐く能力が落ちているということですか」

Dr.Y「そうです。もう少し詳しく見ていきましょう。このボックスの色のついている中にポチッと点が打ってあるでしょう。これが吾妻さんの肺機能の正確な位置です」

吾妻さん「閉塞エリアの中では比較的正常に近いところにいますね」

Dr.Y「そうですね。この点の横軸の『%VC』というのは肺活量を表しています。」

Dr.Y「これに関する具体的な数字が横の表に記載されています」

吾妻さん「肺活量、肺活量、、、あった。このVCというところですね。実測値、予測値、予測率、と3つ数字が並んでいます」

Dr.Y「実測値が実際のリットル数、予測値は吾妻さんの体格から計算するとこのくらいあって欲しいというリットル数、予測率は前者を後者で割って100をかけた数値です」

吾妻さん「つまり予測率は私の体格基準と比べて何%かという事ですね」

Dr.Y「その通りです」

吾妻さん「私の場合は予測率が83.3%になってます」

Dr.Y「予測率が80%を下回ると拘束性換気障害と呼ばれます」

吾妻さん「セーフですね」

Dr.Y「息を吸う能力はしっかりあるという事ですね。」

吾妻さん「これが低くなる病気があるんですか」

Dr.Y「間質性肺炎や結核後遺症といった病態があります。あとは筋力不足で低くなる事があります。その点吾妻さんは、バッチリです」

吾妻さん「学生の頃は水泳で鍛えていましたから」

Dr.Y「次にボックスの中にポチッと打ってある点の縦軸の『FEV1.0%-G』というところを見てください。」

Dr.Y「これを1秒率と呼ぶのですが、それを説明する前に、吾妻さんはいつも自分が何リットルくらい吸ったり吐いたりしていると思いますか」

吾妻さん「え、何リットルだろう。考えたこともありませんでした」

Dr.Y「通常、無意識下ではせいぜい0.5リットルくらいです」

吾妻さん「そんなもんなんですか。でもさっき肺活量は2.69リットルもありました」

Dr.Y「普段の生活ではだいぶ余力を残して呼吸しているという事なんです。これが目一杯吸って吐いてと言う指示が入ると2Lや3Lを超えてくるわけです」

吾妻さん「普段から目一杯吸って吐いてしてたら疲れちゃいますもんね」

Dr.Y「そうです。そして、このように目一杯吸った状態から一気に息を吐き出した時に最初の1秒間で何リットル息を吐けたかという数値があります」

吾妻さん「この『1秒量』という数値ですか?」

Dr.Y「その通り。よく分かりましたね」

吾妻さん「1.64と書いてあります」

Dr.Y「この単位はL(リットル)です。気道が狭くなると、この数値が低くなります」

吾妻さん「ストローを加えて息を吐き出した時に、細いストローの方が太いストローより吐きにくそうですが、それと同じ感覚ですか?」

Dr.Y「とてもわかりやすい例えですね。そのイメージで問題ないと思います」

吾妻さん「でもこの数字って病気にかかわらずそもそも個人差ありそうですよね」

Dr.Y「鋭い!1秒量が同じ2Lでも、肺活量2.5Lの人と肺活量5Lの人では意味合いが全然違います」

吾妻さん「肺活量が5Lもあったらもっとたくさん息を吐けそうですもんね。」

Dr.Y「なので、そういう事を加味して、この1秒量が肺活量に対して何%かを1秒率と呼んで、こっちで評価します。ただし正確には、ここでは努力肺活量といって一気に息を吐いてトータルで何リットル吐けたかという数値を用いています」

吾妻さん「『1秒量』と『1秒率』、なんか紛らわしいですね。この『FEV1.0%-G』の行の『実測値』のところですね。そして表の中では『〜率』なのに今度は『実測値』のところを見るんですか。」

Dr.Y「本当に紛らわしいですよね」

吾妻さん「ちなみに『FEV1.0%-G』と『FEV1.0%-T』と似たのが2つありますが、これは?」

Dr.Y「1秒量を努力性肺活量で割ったものがG、肺活量で割ったものがTです。『FEV1.0%-G』の方で評価する方が一般的なので、こっちで見ましょう」

吾妻さん「私の場合は68.3%と書いてあります・・・」

Dr.Y「基準値は70%以上で、これを下回る時に閉塞性換気障害と呼びます」

吾妻さん「私はこれに該当するようですね」

Dr.Y「最後にこの右下の波形はフローボリューム曲線といって、縦軸に息を吐く速度、横軸に肺気量を表したグラフです」

吾妻さん「普通は横軸に時間がくる事が多いですが、これは横軸が肺気量なんですか」

Dr.Y「そうなんです。なので、これはグラフをみて直感的に理解する自体が難しいので、無理にイメージする必要はありません。」

吾妻さん「そうですね。全然イメージできません」

Dr.Y「一点だけ覚えてほしいのは、このグラフの斜面が下に凹んでいる場合、気道が閉塞している事を示しているという事です」

Dr.Y「今見てきた数値をもう一度、赤枠で囲ってみますね」

吾妻さん「これで見る場所が絞られてわかりやすいですね!」

Dr.Y「本当はMMEFとかPEFとかV25/V50とか、説明していない事がまだまだあるんですが、今回は最初なので一番基本的なところだけにとどめておきますね」

吾妻さん「こういう、気道が狭くなる病気にはどのようなものがあるんでしょうか」

Dr.Y「代表的なものは喘息、COPDです」

吾妻さん「あれ、さっき聴診で喘鳴(ぜんめい)が聴こえた時に教えてくれた病気と同じですね」

Dr.Y「そうですね、聴診でヒューという音が聞こえるのと、肺機能検査で閉塞性換気障害を認めるというのは、本質的には気道が狭くなる病態という点で共通しています」

吾妻さん「気道の狭さを呼吸の音で評価したものが喘鳴、息を吐かせて数値で評価したものが肺機能検査での閉塞性換気障害、という事ですか」

Dr.Y「その通りです」

吾妻さん「もう一つのCOPDはなんでしたっけ」

Dr.Y「慢性閉塞性肺疾患と呼ばれる、いわゆるタバコ肺です」

吾妻さん「ああ、そうでした。物覚えが悪くてすみません」

Dr.Y「いえいえ、医者は無意識に専門用語を使いすぎですので。遠慮せず何度でも聞いて下さい」

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