喘息(3) 吸う力と吐く力、どっちが落ちる?
この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。
主な登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
吾妻さん:40歳女性、2児の育児をしながら市役所に勤務している。ここ数ヶ月咳が続くためDr.Yの外来を受診。
1.肺機能検査は大変
吾妻:肺機能検査、終わりましたー。
Dr.Y:お疲れ様です。うまくできましたか?
吾妻:大変でした。検査技師さんがスパルタで、何度も何度もやり直しさせるんです。
Dr.Y:それは大変でしたね。
吾妻:『息を吸ってー』とか『吐いてー』とか『一気に吐いてー』とか、こっちが咳が出て苦しいのに、人の気持ちも知らないで・・・(ぶつくさ)。
Dr.Y:そうですよね。こっちは咳が苦しくて良くしてもらいたくて来てるのに、なんでさらに辛い思いをさせる検査をさせるのか。
吾妻:本当にそうですよ。これはそんなに大事な検査なんですか?
Dr.Y:まさに、喘息で最も大事な検査と言っても過言ではありません。お辛かったと思いますが、こればかりは仕方ないと思ってあきらめてください。
吾妻:でも、私この検査苦手です。きっとうまくできなかったと思います。
Dr.Y:この検査をした人はたいていそういう事をおっしゃいます。それでもうまくとれてる事が多いので、きっと大丈夫ですよ。
吾妻:そうですか。
Dr.Y:検査結果をお見せしますね。
吾妻:これだけ見せられても何も分かりませんね。
Dr.Y:それはそうですね。肺機能検査は細かく見ると結構奥が深いのですが、始めて目にする患者さんはまずここがわかりやすいんじゃないでしょうか。
2. 息を吸う力と吐く力
Dr.Y:大きいボックスが正常、拘束、閉塞、混合の4つの部屋に分かれていますが、緑色の部屋が吾妻さんの該当するところです。
吾妻:私は『閉塞』ですね。これは・・・?
Dr.Y:呼吸に関する力のうち、吸う力が落ちている=「拘束」、吐く力が落ちている=「閉塞」、両方落ちている=「混合」になります。
吾妻:私は「閉塞」なので、吐く能力が落ちているわけですね。
Dr.Y:そうです。これらに関する具体的な数字が横の表に記載されています。まず吸う力を数値で示す肺活量。
3. 肺活量から分かる事(息を吸う力)
吾妻:肺活量、肺活量、、、あった。このVCというところですね。実測値、予測値、予測率、と3つ数字が並んでいます。
Dr.Y:「実測値」が実際の測定値、「予測値」は吾妻さんの年齢、性別、身長から計算した予測値、「予測率」は前者の後者に対する比率です。この「予測率」を「%VC(パーセントブイシー)」と呼びます。
吾妻:私の場合は%VCは83.3%です。
Dr.Y:%VCが80%を下回ると拘束性換気障害と呼ばれ、吸う力である肺活量が落ちている事をさしますので、吾妻さんは大丈夫ですね。
吾妻:肺活量が低下する病気があるのですか?
Dr.Y:間質性肺炎や結核後遺症など。あとは筋力不足で低くなる事があります。その点吾妻さんは、バッチリです。
4. 1秒率から分かる事(息を吐く力)
Dr.Y:ちなみにさっき検査をしている最中に、息を吸って吐いてを繰り返した後「大きく吸って一気に吐いて」と指示されたと思います。
吾妻:はい。先生の聴診の時と同じような事をされました。
Dr.Y:その時に最初の1秒間で吐いた空気の量が全体の何パーセントかを表したものがこの「1秒率」です。表中の『FEV1.0%-G』がこれに該当します。
吾妻:ちなみに『FEV1.0%-G』と『FEV1.0%-T』と似たのが2つありますが・・・。
Dr.Y:『FEV1.0%-G』の方が一般的なので、こっちで見ましょう。
吾妻:私の場合は68.3%と書いてあります・・・。
Dr.Y:1秒率の基準値は70%以上で、これを下回る時に閉塞性換気障害と呼びます。気道が狭くなり吐く力が落ちているわけですね。
吾妻:ストローを加えて息を吐き出した時に、細いストローの方が太いストローより吐きにくそうですが、それと同じ感覚ですか?
Dr.Y:とてもわかりやすい例えですね。そのイメージで問題ないです。
5. フローボリューム曲線から分かる事
Dr.Y:最後にこの右下の波形はフローボリューム曲線といって、縦軸に息を吐く速度、横軸に吐いた量を表したグラフです。
吾妻:横軸は時間ではなく吐いた量なんですか。
Dr.Y:そうなんです。なので、これはグラフをみて直感的に理解する自体が難しいので、無理にイメージする必要はありません。
吾妻:そうですね。全然イメージできません。
Dr.Y:一点だけ覚えてほしいのは、このグラフの斜面が下に凹んでいる場合、気道が閉塞している事を示しているという事です。
6. 肺機能検査の結果用紙で見ておく場所
Dr.Y:今見てきた数値をもう一度、赤枠で囲ってみますね。
吾妻:これで見る場所が絞られてわかりやすいですね!
Dr.Y:本当はMMEFとかPEFとかV25/V50とか、説明していない事がまだまだあるんですが、今回は最初なので一番基本的なところだけにとどめておきますね。
吾妻:こういう、気道が狭くなる病気にはどのようなものがあるんでしょうか。
Dr.Y:代表的なものは喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)です。
吾妻:あれ、さっき聴診で気道狭窄音が聴こえた時に教えてくれた病気と同じですね。
Dr.Y:そうですね、聴診でヒューという音が聞こえるのと、肺機能検査で閉塞性換気障害を認めるというのは、本質的には気道が狭くなる病態という点で共通しています。
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については自己判断せず、必ず主治医に相談してください。
参考文献:日本喘息学会 喘息診療実践ガイドライン2024(協和企画)