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CVCの手引き~⑦「協業の推進」について~

今まで7回に分けてお話してきたCVCの手引きもいよいよ最終回です。

事業会社のCVCが、IVC(Independent VC)や、政府系VC、PEと根本的に異なる点は、新規事業を自ら興そうとしているという点です。すなわち戦略リターンが初期段階においては主目的であるという点にあります。事業会社が本業で稼いだ利益を、将来の新規事業育成のために社内のR&Dや設備投資に投資するように、外部の経営資源に投資して、協業を通して新規事業という新たな成長エンジンを新たに手に入れる事が目的です。

したがって、CVCの手引き「①経営との握り」で申し上げた通り、協業目的のスタートアップへの投資、そしてその投資をきっかけに、どのようにスタートアップと協業していくのかという能力を身に着けることは、CVCの手引き「④事業部門の巻き込み」と「⑤人材・スキル強化」と関連して、今の日本の事業会社にとっては、身につけておかなければならない必須の能力といえます。

この他社と協業する能力と並んで、その前段階として、どのようにスタートアップに投資するべきかという投資能力については、既にこのCVCの手引き「②目的に応じた投資方針の策定」、「③迅速な意思決定構造の設計」、「⑥ソーシング強化」において議論させていただきましたので、それらをご参考にしていただくとして、今回は協業について少し深堀りさせていただきたいと思います。

先ず第一の論点は、協業をオープンイノベーションと仮定した場合、その反対語のクローズドイノベーションと比較してお話しをすすめると、その相似点と相違点が論点として出てくると思います。

まず相似点ですが、それは、オープンイノベーションでもクローズドイノベーションでも、どちらにも、3つのキャズム(魔の川、死の谷、ダ―ウインの海)が存在するということです。世間ではこれらのキャズムはスタートアップ固有の課題だと思っている方が多いですが、実はこれらは大企業である事業会社のR&Dにおいても全く同じ課題を抱えているのです。大企業のR&Dは既存品の改良が多くなっているので、単に失敗の確率が低いだけであり、新規の開発に取り組んだ場合には、同様の3つの課題をクリアしなければいけません。

次に相違点は何でしょうか?それはスタートアップで上記の3つのキャズムをクリアできないと、パイプラインは通常一つしかありませんから、資金ショートとなり、倒産の危機に瀕するということです。大企業の場合には、失敗しても他に多くのパイプラインや仕事もあり、失業することもなく給料をもらい続けることが可能です。したがって、この相違点をよく理解して事業会社のCVCの皆さんはスタートアップと付き合わないと、協業において、相手を思いやった行動をすることができなくなります。

次の論点は、運よく上記の3つのキャズムを乗り越えて、IPOやSPAC、またはM&Aされたとします。IVCや政府系VC、そしてPEにとっては、一般的にはExitと考えられていますが、事業会社のCVCにとってはどうでしょうか?

私はこれらは事業会社のCVCにとっては、Exitではなくて、次の課題に向けての新たなスタートでしかないと経験上思っています。

それは何故でしょうか? 冒頭申し上げた通り、事業会社のCVCの目的は新規事業を獲得することです。したがって、投資したスタートアップがExitすることはそのためのまだ第一歩であると考えるべきであって、まだ新規事業を獲得できたとは言えないということです。すなわち、この論点は、何をもって協業の成功と認識するかです。実はこの論点に関しての研究はあまりなされていないと感じます。書籍やネットの情報をあたっても、この論点に真正面から取り組んでいるレポートは数少ないです。 おそらく世の中に発表されている事例がまだ少ないからかもしれませんが、実はその論点は、IPO後の新規事業育成をカバーする、もっと長期の時間軸での考え方を持つことの必要性を述べています。

世の中にはIPOはしたけれど、上場後赤字がずっと続いている企業もあります。赤字が続いていても株価がついている企業もあれば、さえない企業もあります。スタートアップ投資が財務目的であるのならば、適当な時期に株を売却してしまえば良いのですが、事業会社のCVCは違います。

日本のCVCの第4次ブームはおよそ10年くらい前にスタートしました。その際に事業会社のCVCの数は一桁だったようですが、最近の調査では、日本の事業会社のCVCは200社を超えるレベルにまで発展してきているそうです。日本の産業の競争力を取り戻すためには、CVCがマストであると考えている我々にとりましては、大変喜ばしい情報なのですが、世間に発表されているCVC関連のニュースはあくまでも、スタート時点のファンドレイズ程度の情報だけで、その後それらのCVCがどのように運営されて、どのような結果になっているかについては、ネットを見ても殆ど情報発信されていません。

そこで仕方なく、そのような経験談にアクセスするためには、経験者によるコンサルテングを受けたりとか、オンラインでのセミナー発信に参加するなりして情報収集しなければいけませんが、10年経つとファンドの平均存続期間が過ぎる時期に相当するので、そろそろ多くの日本企業が様々な成功と失敗の経験を積んでいるはずだと思います。

前述の投資能力については、ある程度演繹的に学習することができるのですが、協業能力は帰納的に学習していくしかありません。したがって、各事業会社が、協業の失敗と成功の経験から学習したものを、その次のフェーズのCVCの設計に役立てていくことが大切になります。そのように学習する組織になっておければ、変化する時代に合わせた、各事業会社独特のパワフルなCVCを作り上げていくことができます。

このシリーズの最後の回のNoteとして、このことを申し上げさせていただいて、次回よりは、また異なった切り口での情報発信させていただければ幸いです。

私が、IPO後の世界で、本当の新規事業を興すために、どのような考え方が必要かを学んだかについて、ご興味のある方はご連絡ください。 自身の経験からのみならず、他社の異なる事業体のCVC様にアドバイスさせていただいた経験から、更に追加学習させていただきましたので、皆様とも是非議論させていただきたいと思います。

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