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CVCの手引き~④事業部門の巻き込み~

 今回の課題はなぜ検討する必要があるかというと、この記事のテーマであるCVCは、事業会社が主体的に運営するものだからです。事業会社のCVCの目的は、スタートアップ投資とオープンイノベーションによって、世の中にイノベーションや、新たな事業を興そうとしていることにあります。言い換えれば、主に財務リターンを目的としているファイナンシャル系のVCにとっては、あまり直接関係のない課題なのですが、CVCにとっては、事業会社の事業部門を巻き込んで、全社的な協力を得られないと、CVCの活動を積極的に展開できなくなるので、大変重要な課題なのです。

それでは事業部門を巻き込むにはどうしたら良いか?

第一に、「①経営との握り」で述べたCVCの目的を、事業部門とそれをサポートする本社サポート部門(法務、知財、経理、人事)と共有することです。そしてその共有化の過程で、事業部門が何をしたいのか、そしてそれは何故かを、御用聞き営業することです。そして人事と共に、CVCチームという社内横断のチームを作り、各事業部とサポート部門から、企画担当相当の人材1名を、パートタイムチーム員として選出してもらうことです。CVCチームは経営戦略部門のフルタイムメンバーが事務局を務め、リーダーは経営戦略部門か研究開発部門の役員クラスが適任です。 パートタイムであれば、事業部長の了解を得ることは容易な筈です。この出発地点が一番大切です。

第二には、週一のチーム活動のなかで、イノベーションや、新たな事業の分野や、領域を決めることです。具体的には、CVCチームは社内の事業部のR&Dのロードマップを良く理解して、事業部にとっての最重要テーマは何かの分野や領域を理解することが大切です。この段階では事業部門が、「CVCって面白そうだな」とか、「知の探索に使えそうだな」と思ってもらえれば良いと思います。

第三には、この段階になったら、とにかく試運転を始めてしまうことです。当然それまでには、事務局はCVCのディールフローから、どのようにロングリスト、ショートリスト、DDや投資までやっていくのか、基本的なプロセスデザインと役割分担をしなければいけませんが、私のお勧めは、これらを仮決めしたら、あまり精緻化をせずに、CVC活動を始めてしまうことです。

どうしてでしょうか?それは、事業会社にとってCVCは、経営理論的には新たな組織学習そのものだからです。つまり知の探索という行動をすれば、それから学ぶことができる教訓や、知を得られることができます。そして、それらの知を、CVCチームの中で記憶することで、新たな組織やルール等、更に進化したCVCプログラムを開発していくことができます。そうすれば、その進化するCVCプログラムをもった事業会社は、独自のCVCプログラムを新たなイノベーションのための施策と位置付けるようになり、事業部はより自主的にCVCプログラムを実行するようになります。

事業部が自社のクローズドイノベーションで新製品を作るときには、アイデアのあとは、最近は試作レスでいきなり量産することもあります。何故ならばあまり新規に学習することがないからです。ところが、アイデアが未経験の新しいものならば、試作品を作って学習することが必要なのです。それと全く同じ考え方で言うと、CVC未経験の事業会社は、同様にCVCという新しいやり方を、学びながら改善していく方法が良いと思います。まさしくスタートアップの事業の始め方に似ていますが、事業会社の場合には全社的にはリソースが豊富なので、その余裕を使って、学びながら改善していく手法がとれるのです。そうすれば、その間に、もう一段深いレベルで事業部のやりたい事を、CVCチームとして良く理解することができます。具体的には、事業部はアイデアに悩んでいるのか、テーマはあるけれど新技術や特許に悩んでいるのか、ソフトウエアを求めているのか、新製品を求めているのか、それとも優秀な技術者を募集しているのか等々、形式知や暗黙知のある自分の会社や事業部を良く理解することは、情報の非対称のあるスタートアップの事をよく理解するのと同様に難しいものです。

この学習しながら進める組織学習を念頭におけば、CVC活動に事業部を最初から巻き込むことができます。そして、その基本的な考え方が、次回の記事で予定している、
⑤人材・スキル強化、
⑥ソーシングの強化、
⑦オープンイノベーションの推進
についてを含む、「7つの手引き」を紹介していくのに全てつながってきます。

 弊社では私の経験から、クライアント企業様との「壁打ち」をモットーとしていますが、それにより、クライアント企業様の暗黙知に触れることができて、次第に共感を得られると思っているからです。その時のキーワードは、「何故」です。この「Why」を掘り下げる壁打ちを繰り返すことで、初めて理解が深まり、それならばどうしたら良いかというアイデアが生まれてくるのではないかと思います。その意味では、皆様の暗黙知を皆様の会社に合った独自のCVCプログラムに形式知化できれば幸いと思っています。



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