見出し画像

CVCの手引き~⑤人材・スキル強化~

前回のNoteの記事「CVCの手引き~④事業部門の巻き込み~」では、事業会社のCVC活動に事業部を巻き込むためには、学習しながら進める組織学習を意識して進めることが大切だとお話しさせていただきました。そして、その同じ考え方で、CVC担当メンバーの人材・スキル強化ができると予告させていただきました。今回は、その人材・スキルに焦点を当てて説明をしたいと思います。

日本では、私もそうでしたが、クレイトン クリステンセンさんの「イノベーションのジレンマ」に引き続き、最近は、「両利きの経営」(チャールズ・A・オライリー, マイケル・L・タッシュマン 著)が多くの事業会社の中期経営計画で人気です。その中にでてくる知の深化と探索のうち、前者は日本の事業会社で言えば、既存のキャッシュカウの事業部、所謂本業に相当するものであり、その環境下では、継続的な改善やロードマップがある世界で合理的な判断がされる世界だと思っています。これに比べて後者は、事業会社にとっては、CVCによる新たなイノベーションや、新規事業の探索に相当するものだと思っています。

だとすると、多くの日本の事業会社にとっては、探索に相当するCVCは今ま経験したことのない、ロードマップや正解のない世界だといえます。そのような場合、どのように仕事を進めていけば良いのでしょうか?

今回のテーマである「人材・スキル」の観点で話すとすると、第一にできることは何でしょうか? そうです、社内にそのような人材・スキルがなければ外部から経験者や専門家を調達するしかありません。そして第二にそれら経験者や専門家と一緒に働くことで、自分化していくことになります。そして第三の段階は、自分で独り立ちしてやりたくなります。すなわち学習することで、人間が育つように、CVCプログラムを実行するための「人材・スキル」も学習することで獲得することができます。

それではどのような人材・スキルが必要かということですが、CVCを実行するために必要な能力は、大きく分けて2つあります。詳しくは、KPMG編「実装CVC」のP.217にて述べさせていただいていますが、それらは、「投資能力の向上」であり、もう一つは「事業育成能力の向上」です。内容的には、どちらも事業会社で働いている方であれば、座学とOJTで習得することは可能です。またレベル的にも、事業会社で働く、人事、財務経理、法務・知的財産、事業部の従業員の方達が十分に学習できる範囲にあります。

これからCVCを始めようとされるリーダーの方には、先ずは自分自身の棚卸をして、自分一人できることとそうでないことを認識しましょう。それからCVCチームを社内で横断的に編成することをお勧めします。私が以前のNoteでお話したように、既存事業部の事業部長さんは人材を出してくれないので、事業部の企画部門から週に1度半日だけで良いからと、パートタイムで巻き込みたいメンバーを指名しましょう。そして、本社部門の人事、財務経理、法務、知財部門からも同様に、パートタイムメンバーでCVCに興味のある人材を集めましょう。そのチームメンバーとブレストを行い、皆さんの事業会社の能力・スキルのレベルをSWOT分析をします。その結果、足りない能力・スキルが明らかになれば、それを外部から調達することを、チームの総意として、担当役員に報告し、さらに経営会議で全社の役員に説明して、理解とサポートを得ましょう。私が経験をしたやり方は、先ずは外部のVCへのLP出資から始めて経験を積み、それから二人組合を組成して、足りない人材・スキルのアウトソーシングをしました。

そして、これら施策を実行に移し、成功や失敗の経験を隠さず、全てチーム内で共有し、それらをまた経営会議で年に2回ほど全て報告し、見つけた新たな課題と今後の対応策について理解とサポートをもらいましょう。そうやってまた新しい経験をし、新たな知を得ましょう。これらのPDCAサイクルを、個人→チーム→組織→経営→実行→経験→新たな知を得るという具合に繰り返すことで、組織学習を渦巻きのようにしていくのです。

私はこれこそが、知の探索、すなわちCVC活動そのものだと思います。そのような活動の中で、人材は育ち、スキルは向上し、チームや組織、会社も探索できる両利きの経営となっていくのではないのでしょうか?

既存事業部は例えれば立派な大人たちが、改善を積み上げながら進化し続けようとするものなので、大人にとっては失敗が許されない環境にあります。 新規事業、イノベーション、CVCによる探索は、幼児が学習しながら成長するようなもので、まだどのような大人になるのか分からないけれど、失敗は成功のために必要な経験です。このことを良く理解して、それぞれの事業会社の事業環境や社風を良く理解して、それぞれに異なる、独自の知の探索のやり方、すなわち独自のCVCや人事考課を設計していくお手伝いをさせていただいております。

このように、私は日本の多くの事業会社にとって、CVCはマストだと思っています。 ご同意いただけるならば、次回は、⑥ソーシング強化、そして最後は、⑦協業の推進についてお話ししたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?