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元バレエダンサーのアイドルである綾瀬穂乃香を担当するプロデューサーが、はじめてバレエ公演「コッペリア」を鑑賞したという話

 綾瀬穂乃香がバレエから離れてアイドルになったことは知っていますし、Cuvie先生のバレエ漫画「絢爛たるグランドセーヌ」も愛読しているのですが、肝心なことに、バレエ公演を最初から最後まで見たことがなかったのです。バレエで培われたであろう穂乃香の経験や人柄ばかり楽しんでいて、バレエそのものを楽しんだことがありませんでした。

 2020年にスターダンサーズ・バレエ団によるバレエ公演「ドラゴンクエスト」が配信されたことが記憶に新しいですが、穂乃香が営業コミュで鑑賞した「ジゼル」のように、バレエそのものを感じる公演を鑑賞したい、と思っていました。

 そんな折、日本の新国立劇場バレエ団が、バレエ公演「コッペリア」を無料生配信してくださることになり、千載一遇のチャンスと、5/2 14時から鑑賞する運びとなったのです。

 コッペリア

 ドイツ作家・ホフマン(一説には「くるみ割り人形」の原作者とも)のホラー小説「砂男」を原案とし、1870年にパリ・オペラ座で初演となった作品です。コッペリアに惹かれるフランツにやき餅を焼くスワニルダが、コッペリアと共に住むコッペリウスの家に忍びこむのですが、コッペリアが人形であることを知ってしまいます。そして別に忍び込んだフランツがコッペリウスに眠らされて危機に陥ったとき、スワニルダが機転を利かせ…という、一体の人形を巡る騒動を描いたものです。

 振付師によって展開は異なっているようで、今回はローラン・プティによるものです。コッペリウスの人物像は、古典だと変わり者の老人になるのですが、プティはお洒落な紳士として登場させました。自身で振付をして演じたコッペリウスが、プティ版「コッペリア」の魅力とも言われているそうです。

 で、休憩含めて、あっという間の2時間だったのですが、楽しかった。それ以外の言葉が見つからない。バレエとはこんなに分かりやすく、楽しいのかと。

 「バレエは言葉を使わない芸術である」と熊川哲也さんはおっしゃっていましたが、本当に言葉の入り込む余地がないんです。表情や体の動きで、全て伝わってしまう。ストーリーも、感情も、全て。

 フランツ役の井澤駿さんが、スワニルダ役の米沢唯さんと踊りながらも、コッペリアにぞっこんになっているのが丸わかりなほどに表現されていたり、スワニルダも、オーケストラの生演奏に合わせて(というより、音楽に乗って)、ひとつひとつの可愛らしい動作を編み出していくんです。コッペリアの正体に気付いたときの表情は少女そのものだし、そこからフランツの危機に機転を利かせて、人形から人間になっていく身体表現は、見事と言うしかありません。

 そして先に述べた老紳士であるコッペリウスの演技は、中島駿野さんの心が豊かなのか、鍵を探すところから舞台から消えていく様子で、こんなに釘づけにされることは思いませんでした。そうかと思えば、コッペリアとのやり取りで、ミスが許されない点火やボトル空け、更にはコッペリア(人形です)と組んでの、実質ソロでの踊り。ラストシーンは物語を象徴するコッペリアに崩れ行き、悲しみと共に物語は幕を閉じる…という、プティがひとつの作品として昇華させた「コッペリア」がありました。本当に楽しかった。

 さて。

 綾瀬穂乃香のかつての夢は、「プリマになること」。米沢さんは新国立劇場バレエ団のプリンシパル、つまりプリマなので、穂乃香が夢見た憧れのスワニルダを、僕は鑑賞したことになります。

 その上で、コンクールでいくつもの賞を取っていた、つまりプロの審査員から認められていた穂乃香がぶつかった表現の壁とは何なのか、楽しくなくなった理由は何なのか、改めて考えさせられました。振付師が満足しないと思ってしまったのか、それとも、観客が楽しんでくれないのではと怖くなったのか。答えは、出ません。

 でも、一番湧き上がってきたのは、デレマスのライブで、バレエを踊ってほしいという願いでした。心が解放された今、穂乃香がソロで歌って踊れば、楽しくないわけがない。もっと言ってしまえば、バレエでデレマスのライブの歴史が変わるところを見てみたい。そこまで、願うほどの、今回の経験でした。

 確かにバレエは、敷居が高いものというイメージです。コンクールでスカラシップを勝ち取り、海外留学して、入団試験に合格し、競争を生き抜き…それだけでなく、歴史あるバレエ作品を、表現しなければいけない。でも、それが全てではありません。新国立劇場バレエ団が公演したプティ版「コッペリア」のように、言葉を使わずとも、分かりやすく、楽しい、手の届いたバレエが、あったんです。

 公演は、5/2,4,5,8の全4回 14時から。頭を空っぽにして何となく見るだけでも、楽しめます。騙されたと思って、バレエ公演を見て欲しいです。本当に、バレエが楽しくなりますから。

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 ここまで読んでいただいたみなさん、ありがとうございました。みなさんが楽しめるものを、気軽に楽しめますように。

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