BT'63(#24 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)
交通機関・BT63と道路の整備
池井戸潤という人気小説家がいます。直木賞を受賞した「下町ロケット」や、大ヒットしたドラマにもなった「半沢直樹シリーズ」で知られています。
彼の小説に「BT'63」という作品があります。
昭和38(1963)年の大田、川崎あたりが舞台で、産業道路やトラックなどが登場します。
BTとは、ボンネットトラックのことです。
その中に、故人となった父親の写真から記憶を辿って行くシーンがありますが、川崎の政策ニュース映画に、昭和38(1963)年の産業道路が登場するものがあります。
昭和38年02月26日 六郷の立体交差道路開通
この映像を見たときに、真っ先に小説中のそのシーンを思い出しました。もしかすると作者の池井戸さんは、これを見たのかもしれないとも思ったりしますが、この小説の初出は2000年ですので、その頃は、ニュース映画自体が過去の遺物になりつつあった頃です。
時代考証の賜物とは思いますが、まさにその時代そのもので、この政策ニュース映画自体が、この小説の一部のような感覚を抱きます。
これは、昭和38(1963)年2月に六郷大師河原線の立体交差工事が完成し、開通式が行われたというニュースです。
式典の様子の後、実際に道路を走る自動車が映りますが、ボンネットトラック(BT)も登場します。川崎の駅前の京浜急行の踏切待ちをするトラックなども映ります。
東京オリンピック直前、既に川崎港を中心とした京浜工業地帯の整備も進み、高度成長に大きく弾みが掛かろうとしている時期です。
昭和30年代には、産業用のエネルギーが、石炭から石油産業に転換していき、その進展により公害を中心とした環境問題が、新たな課題となっていくのですが、それによって得られる経済発展の方が、まだ人々の価値観としては優先していた頃です。
小説には、戦後の復興期に懸命に働いて物流会社を興した社長が、成功を納め、その成功に若干飽食している姿が描かれていますが、この昭和38年は、貧困、戦災と復興、豊かさとの汽水域だったように思われます。
ここに映る昭和38年の街並みの向こうには、そうした人々が本当に暮らしていて、こうやってトラックを運転して、経済を支えていたのでしょう。昭和20年代半ばから残されている神奈川ニュース、川崎政策ニュース映画には、時代の空気が詰め込まれています。池井戸ファンは必見です。
川崎は、京浜工業地帯を抱えていることもあり、道路整備がしばしば取り上げられます。
立体交差に関しては、昭和31(1956)年の「立体交叉道路開通」でも取り上げられています。こちらは、通称市電通りと呼ばれている場所で、川崎の子供たちには、プール道路という俗称もあり、ここで泳いだという記憶をお持ちのご老人もいました。
昭和31年05月01日 立体交差道路開通
このほど川崎市内の立体交叉道路が完成しました。この工事は昭和7年に開始されたのですが、戦時中、資材の不足のために中断され、これに雨水が溜まって幾人かの子供が水死するという事件もありました。
こちらはまだトラックなどの産業用自動車の数が少なく、道路も閑散としています。立体交差ができる前の、冠水した様子や「ここはあぶない 水泳ぎ魚つりするな」という警告書きの景観は、貴重でしょう。
昭和31年から昭和38年、ほんの6年の間に、街の空気が急に変わっていくのがわかります。
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