〜「理科は面白い!」 と 「理科は将来の役に立つ」〜 2つの動機づけは学業達成といかに関連するか

本記事は ”理科教育Advent Calendar 2020” の2日目の記事です。が,公開が遅れて3日目になってしまいました。大変申し訳ありません。

さて,12/2の記事を担当するのは,12/2に誕生日を迎えた原田勇希という者です。(祝ってください!)
私は理科教育学の(おそらく自他共に認める)基礎研究者で,心理学的な方法論に基づいて研究をしています。
昨年もこの ”理科教育Advent Calendar” の企画に参加させて頂き大変勉強になりましたので,今年も寄稿させていただきたく思います。


まず内容に入る前の前書きをしたいと思います。
今年はコロナ禍の影響で2020年9月の「日本理科教育学会全国大会」がオンライン開催となりました。それは大変残念ではありましたが,一方でオンライン開催の良さも目立ちました。特にZOOMを通して若手の研究者や理科教師の皆様と交流できたことはとても刺激的でした。
その中である先生が「『理科教育学研究』に書いてある研究は理解できないので,読まない(意訳)」とおっしゃっておられました。
私たちは科学者ですので,研究課題に対して可能な限り厳密に検証しようと努力し,論理構成やバイアスの少ない統計的手法などを必死に考えて論文を書いているのですが,良かれと思って行ってきた努力の末が「理解できないので,読まない」につながるのか…と思い,少々ショックでした。
色々と考えさせられましたが,やはり論文では厳密性は犠牲にできないので,何か他の媒体で発信していくことも重要なのかなと思っていたところでした。


ということもあり,今日は理科教育の基礎研究の面白さを "伝える" ことに振り切って書いてみたいと思います。

もちろん基礎研究ですから,科学的な厳密性も可能な限り残します。そのため,「正しさ」については,教師や研究者の直感よりは保証できる可能性が高いのではないかと思います。
ただ,基礎研究ですから,今日この記事を見て,すぐに明日の授業が変わる…ということはないと思います。「教室における直近の有用さ」については,教師の皆様が日々実践の中で培っておられる実践知に軍配が上がると思います。

それでは,これより先では,私が最近検討した理科の動機づけ(学習意欲)に関する研究を題材として,基礎研究の世界にご招待いたします。



※ 本稿では ”動機づけ(motivation)” という心理学の術語を,日常言語の ”学習意欲” と同義のものとして捉えます。厳密な定義や重複した点,相違点等について気になる方は鹿毛(2012)を参照してください。

※ 本稿では,中学校理科を念頭において話を進めます。ですが,小学校や高校でも共通する点は多いと考えています。


理科の動機づけ(学習意欲)のいろいろ

子どもはなぜ,学校や家庭で理科を学習しているのでしょうか。もちろん強制力が働いているからという回答は正しいです。そして子どもによって様々でしょう。

今回は話をシンプルにするため,あえて2つの動機づけに注目します。

1つは「理科は面白い!」という動機づけです。
心理学における動機づけ理論の一つである ”期待-価値理論” では,こうした動機づけを ”興味価値” と呼びます(e.g., Eccles & Wigfield, 2002; Wigfield & Eccles, 2000)。
興味価値が高い子どもは,低い子どもよりも,外部から観察すると意欲的に取り組んでいるように見えると思います。例えば,学習の持続性が高く,自ら課題を追究する傾向や余暇の時間で課題に従事する傾向があります(e.g., Duric et al., 2006; 解良・中谷,2014)。
これは,当たり前ですよね。


もう1つは「理科を学習すると,自分の将来に役に立つ」という動機づけです。
理科教育の世界では ”有用性” というと,”日常生活での有用性” を指すことが多いのですが,今考えたいのは,自身のキャリア上などにおける道具的な有用性です。
具体的には…
「理科を学習すると高校入試で役に立つ」
「理科を学習することは,将来の就職の際に役に立つ」
「世の中で成功するためには,理科の勉強は重要だ」

といった動機づけです。眉間にしわが寄った理科教師の方も多いかもしれません。
心理学における動機づけ理論の一つである ”期待-価値理論” では,こうした動機づけを ”利用価値” と呼びます(e.g., Eccles & Wigfield, 2002; Wigfield & Eccles, 2000)。
これまで理科教師の方々とお話しさせていただく機会もありましたので,「利用価値は良くない動機づけだ」と考えておられる先生方も多数いらっしゃることは理解しています。
しかし,利用価値も実はそれほどネガティブな動機づけではありません。例えば,利用価値を高く認知している子どもほど,理科授業中に批判的思考(critical thinking)を働かせる傾向があることや(原田・三浦・鈴木,2018),授業や学習課題に対して意欲的な取り組むこと(解良・中谷,2014),将来の進路希望やコース選択などに影響すること(e.g., Duric et al., 2006)などが示されています。


さて,興味価値利用価値の2つの理科の動機づけを紹介しましたが,
「Aさんの動機づけは興味価値だ」,「Bさんの動機づけは利用価値だ」といった捉え方(類型論)はあまり正しくありません。
ある1人の子どもの興味価値と利用価値の両方とも高い(低い)ということは,十分にありえるからです。実際,両者の間に正の相関があることは多くの研究で再現されている知見です。
つまり,「Aさんは興味価値が高く,利用価値はそれほどだ」,「Bさんは興味価値が低く,利用価値がとても高い」という考え方(特性論)の方が適切だということになります。

では,これらの前提を踏まえた上で,次のことを考えてみましょう。


興味価値,利用価値 と 理科の学業達成の関係性は?

理科の動機づけを高めようとする教育的実践の意義の中には,動機づけが高い学習者ほど学業達成が高くなりやすいことがあります。
もちろん,主としてペーパーテストで測定される学業達成には還元できない意義も否定しません。
ですが,話をシンプルにするために,まずは動機づけと学業達成の関連性を考えていくことにしましょう。

今,一口に学業達成と表現しましたが,定期テスト,入試問題,小テスト,思考力問題…など,何を測定しているかによって,動機づけとの関連性が変わる可能性もあります。
このままでは議論が錯綜してしまいますので,今回は国際的に合意が得られている指標から理科の学業達成を考えることにします。
具体的には,TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)で測定される「理科の到達度」です。
2015年に実施されたTIMSSにおける理科は,物理(国内における,エネルギー領域),化学(粒子領域),生物(生命領域),地学(地球領域)の4領域から偏りなく,また知識,応用,推論の能力を測定できるよう設計されています。

ということで,今回は,このTIMSS2015で測定された学業達成と動機づけの関連について考えていきます。


きっと理科教師の皆様は,「興味価値が高い子どもほど,学業達成も高い」と思われると思います。
では「利用価値」についてはどうでしょうか。利用価値を「よくない動機づけ」と思われる先生方の中には,「利用価値が高い子どもは学校の定期テストや入試問題は解けても,国際学力調査で出題されるような問題には太刀打ちできないはずだ」とお考えになる先生方もいるかもしれませんね。

では,実際のところどのような関係なのでしょうか。
以降ではこれを検証可能な問いにするため,興味価値,利用価値の指標を定義していきます。

興味価値,利用価値,学業達成の指標

以降では TIMSS 2015 International Database で公開されている日本の中学校2年生のデータセットに基づいて分析を進めていきます。

◆ 興味価値の指標

まず理科の興味価値を定義します。
TIMSS2015では,生徒を対象とした質問紙調査を行っています。そこには以下のような項目群が含まれています(国立教育政策研究所,2017)。

項目1:理科の勉強は楽しい
項目2:理科の勉強はしなくても良ければいいのにと思う(反転項目)
項目3:理科はたいくつだ(反転項目)
項目4:理科ではおもしろいことをたくさん勉強している
項目5:私は,理科が好きだ
項目6:理科の授業が楽しみだ
項目7:理科の実験をするのが好きだ
項目8:理科は私の好きな教科の一つだ

今回は,この 8項目の回答に共通している心理的特性を興味価値と定義しました。
要するに,これら8項目で測定された特性を興味価値としたと考えていただいて差し支えありません。


◆利用価値の指標
次に理科の利用価値を定義します。
TIMSS2015では,生徒を対象とした質問紙調査を行っています。そこには以下のような項目群が含まれています(国立教育政策研究所,2017)。

項目1:他教科を勉強するために理科が必要だ
項目2:自分が行きたい大学に入るために理科で良い成績をとる必要がある
項目3:将来,自分が望む仕事につくために,理科で良い成績をとる必要がある
項目4:理科を使うことが含まれる職業につきたい
項目5:世の中で成功するためには理科について勉強することが重要である
項目6:理科を勉強することで,大人になってより多くの就職の機会を得られる
項目7:理科の成績が良いことは大切だ

今回は,この 7項目の回答に共通している心理的特性を利用価値と定義しました。
要するに,これら7項目で測定された特性を利用価値としたと考えていただいて差し支えありません。


・・・・ 研究者向け情報・・・・
統計学的には,カテゴリカル因子分析によって潜在変数を抽出し,以降ではその潜在変数を興味価値,利用価値として扱い相関係数や回帰係数を求めます(カテゴリカル変数を含む構造方程式モデリング)。推定方法にはロバスト最尤法を用いました。
・・・研究者向け情報ここまで・・・


◆学業達成の指標
TIMSS2015の学業達成の指標はやや特殊です。というのも,学校で行われている一般的なテストのように,各問題ごとに配点を割り当てて合計得点を求めるという方法ではないのです。
TIMSS2015では,項目反応理論というテスト理論に基づいて個人の学業達成の指標が求められます。項目反応理論は大変興味深い統計モデルなのですが,今回はその説明は割愛します。

TIMSS2015の学業達成指標は,TIMSS1995の国際平均点を500点,標準偏差を100点としてスケーリングされています。分かりやすいところで言うと,いわゆる偏差値(平均50,標準偏差10)の考え方と似ています。
ざっくりとした話をすると,TIMSSにおいて500点とはおおよそ国際的な平均点を指し,600点とはおおよそ国際基準における偏差値60を指すものと思っていただいて構いません。

ちなみに,日本は国際平均と比較すると学業達成はかなり高い水準ですので,日本の平均点は500点を上回ります。TIMSS2015における日本の中学校2年生の成績は571点で,シンガポールに次いで2位という成績です。

今回は学業達成の指標として,このTIMSS2015の得点を用いることとします。

これで全ての変数の指標が揃いましたので,以下では関連性を調べていきます。


・・・・研究者向け情報・・・・
TIMSS2015では,項目反応理論に基づき個人の学業達成の事後分布を求め,そこから5つ値を発生させたものである Plausible Values(PVs)をデータセットに含んでいます。以降の分析では,現在最も推奨されている方法を採用することとし,PV1からPV5のそれぞれにおいて統計量を求めその平均を取る方法によって推定値を求めました。(Mplusの "TYPE = IMPUTATION" を使用しました)
・・・研究者向け情報ここまで・・・

興味価値,利用価値 と 学業達成の間の相関係数

◆ 相関係数とは
2つの変数の間の関係性を示す最も代表的な指標の一つに,相関係数(Pearsonの積率相関係数)があります。
電流を I ,抵抗をRと表すような感覚で,相関係数は一般に r で表します。
「片方が大きくなるにつれて,もう片方も大きくなる」ような関係性のことを正の相関といい,このとき相関係数は正の値を取ります(r>0)。

「片方が大きくなるにつれて,もう片方は小さくなる」ような関係性のことを負の相関といい,このとき相関係数は負の値を取ります(r<0)。


◆興味価値と学業達成の相関係数
それでは,理科の興味価値と学業達成の相関係数を求めてみます。
興味価値 と 学業達成 の間の相関係数は,0.342 と推定されました。

相関係数の値は正ですので,「興味価値が高い子どもほど,学業達成も高い」ことが示されたと言えます。
0.342の相関係数がどの程度なのかの目安を示すものとして,擬似的なデータではありますが,下の図 を参照していただければと思います。

図1


それほど強い相関とは感じられないかもしれませんが,実は興味価値と学業達成の相関はこの程度であることが他の研究でも見積もられていますので,これは再現性のある知見です(Schiefele, Krapp, & Winteler, 1992)。


◆利用価値と学業達成の相関係数
それでは,理科の興味価値と学業達成の相関係数を求めてみます。
利用価値 と 学業達成 の間の相関係数は,0.333 と推定されました。

相関係数の値は正ですので,「利用価値が高い子どもほど,学業達成も高い」ことが示されたと言えます。
0.333の相関係数がどの程度なのかの目安を示すものとして,擬似的なデータではありますが,下の図を参照していただければと思います。

図2


ここまでの結果をまとめると,「興味価値も利用価値も同じくらい学業成績と相関している」を言えそうです。


興味価値,利用価値 から 学業達成を予測する回帰式

興味価値と利用価値が学業達成と正の相関を持つことはわかりました。
では,例えば興味価値が 1標準偏差(偏差値にして10相当)高いと,学業達成は何点くらい高まるのでしょうか。その関係式を求めてみたいと思います。

学業達成をY,興味価値を X1,利用価値をX2として,Yの期待値 E[Y] を表す式は,切片をa,傾き b1, b2 を用いて,

E[Y] = a  +  b1X1  +  b2X2

と表せます。b1は興味価値(X1)が 1単位(ここでは 1 標準偏差)増加すると,学業達成の期待値(E[Y])がどのくらい変わるかを示す指標となります。
この式の切片aと, b1,b2 を求めることができれば,興味価値と利用価値から学業達成を予測する関係式が作れそうです。
求めてみましょう。

結果は…

E[Y] =  571.85  +  17.40 X1  +  15.79 X2
(E[Y]は学業達成の期待値,X1は興味価値,X2は利用価値)

と推定されました。
ちなみに,興味価値の平均をX1 = 0,利用価値の平均をX2 = 0 としています。
また,興味価値も利用価値も 1 標準偏差(偏差値10に相当)を 1 としています。

つまり,興味価値も利用価値も平均的な子どもについて考えるときは,X1 にも X2にも0を代入するだけでよいのです。
そうすると,切片a の 571.85 が残ります。
これは「興味価値も利用価値も平均的な子どもの学業達成の期待値は 571.85点」であることを意味しています。

そして重要なことは,X1 の符号も X2 の符号もともに正であることです(X1>0,X2>0)。
「興味価値が 1 標準偏差高いと,学業達成の期待値は17.40点上昇する」ことと,
「利用価値が 1 標準偏差高いと,学業達成の期待値は15.79点上昇する」ことを示す結果です。
(より正確には,興味価値の変動を考えるときは「利用価値が一定ならば」という条件がつきます)

この結果を素直に解釈すると,「興味価値も利用価値も学業達成に正の影響を及ぼすと考えられる」という結論が導けそうです。

興味価値,利用価値と学業達成の曲線的関係

しかし,ここでもう少し深く考えてみましょう。
先ほどの式,
E[Y] = a  +  b1X1  +  b2X2
は,中学校数学で学習する一次関数がベースになっており,切片と傾きで E[Y] を予測しています。
言い換えると,興味価値,利用価値と学業達成の関係性について,直線的な関係を想定しているということになります。
多くの研究ではこのような直線定な関係を想定して,統計モデルを構築し,分析結果に基づいた考察をしています。

しかし今回は,その仮定を疑ってみましょう。
「興味価値と学業達成の間には曲線的な関係がある」かもしれませんし,
「利用価値と学業達成の間には曲線的な関係がある」かもしれません。

曲線的な関係を分析する方法は様々あるのですが,今回は最もシンプルな二乗項を用いたモデルを検証していきましょう。

つまり,
E[Y] = a  +  b1X1^2  +  b2X1  +  b3X2^2  +  b4X2
という式で表していくことを考えます。( X1^2 は,X1の二乗を表します)
この式では二乗項が加えられていることから,高校数学で学習する二次関数がベースとなるモデルです。

もし本当に,興味価値,利用価値と学業達成が直線的な関係にあるとしたら,このモデルを分析すると,b1, b3 がほぼ 0 と推定されるはずです。
なぜなら,このとき二乗項は消えますので,結局最初の直線関係を想定した式と一致することとなるからです。
それでは推定してみましょう!

・・・・研究者向け情報・・・・
観測変数を用いて二乗項や交互作用項を分析すると,そもそもの尺度の信頼性が理想的でないために,積項の信頼性が観測変数よりもさらに低下してしまい,係数を過小評価したり,検定力が低下したりする問題が生じます。そこで本項ではMplusの "TYPE = COMPLEX RANDOM" における ”xwith” 記法を用い,潜在変数として二乗項を定義し,係数の過小評価を防ぎました。また検定力は大規模な調査データであるTIMSSを用いることでひとまずクリアできたものと考えました。
・・・研究者向け情報ここまで・・・


結果は…

E[Y] =  576.10  + 17.53 X1  − 4.01 X2^2  + 15.30 X2 
 (E[Y]は学業達成の期待値,X1は興味価値,X2^2は利用価値の二乗項,X2は利用価値)

と推定されました。
興味価値については二乗項が消えました(統計的に有意でない結果でした)。
そのため「興味価値と学業達成は直線的関係である」と考えても良さそうです。
(より正しく言えば,二次関数で近似できるような曲線的関係があるとはいえない…となるのですが)

しかし利用価値については二乗項が残り,その係数の符号は負です。
そのため,「利用価値と学業達成の関係性は,上に凸の曲線で表される」といえそうです。

式を見ても,関係性が直感的に分かりづらいので,それぞれの動機づけをX軸,学業達成をY軸にとったグラフを見て,関係性を考えていきましょう。

図3


繰り返しになりますが,X軸(興味価値,利用価値)は平均を 0 ,標準偏差を 1 としていますので,X軸が 1 ということは,興味価値や利用価値が平均よりも 1 標準偏差分だけ高い場合を意味していると考えてください。(興味価値や利用価値の水準を偏差値で表したとき,10相当分だけ高いという意味です)

グラフで見ると分かりやすいですね。
「興味価値は高ければ高いほど,学業達成も高い」という関係性があるといえそうです。

一方,利用価値については,
「利用価値は高いほど学業達成も高い傾向にはあるが,その傾きは利用価値が高くなるほどに小さくなる」といえそうです。
X軸が 0 以下のときは平均の傾きが非常に大きいのに対し,X軸が 0 以上,すなわち利用価値が平均よりも高い条件では,平均の傾きはかなり小さくなっていることが読み取れるかと思います。
(もちろん,頂点のX座標よりもXが高くなると,ここからは学業達成が落ち始めるという解釈もできそうですが,頂点のX座標付近である 平均+2標準偏差相当の個人はそれほど人数がいないので,そこまで正確なことは言えないと思います。人口の多い 平均 ± 1 標準偏差付近の ”傾きが徐々に小さくなる” 傾向を,無理やり二次関数でフィットさせたことに由来するアーチファクトである可能性が高いと思いますので,そこに踏み込んだ解釈はやめておきます。)

この結果から理科教育に示唆を導出する

推定されたモデルをもとに,理科教育に対して示唆を導出してみましょう。
まず興味価値ですが,「興味価値は高ければ高いほど,学業達成も高い」と解釈でき,またその関係性は直線的なので,
「理科に対する興味価値が低い子どもの興味価値を伸ばせば学業達成は上がるし,またそもそも興味価値が高い子どもの興味価値をさらに伸ばしても,学業達成は高まる」可能性があるといえそうです。
やはり興味価値が持つパワーを感じます。(こうして培われるのが,現場の感覚ならぬ,基礎研究者の経験的感覚…でしょうか)

一方の利用価値ですが「利用価値は高いほど学業達成も高い傾向にはあるが,その傾きは利用価値が高くなるほどに小さくなる」という関係性でしたので,
「理科に対する利用価値が低い子どもに対してそれを高めてやると学業達成は上がるが,そもそも平均以上くらいの利用価値を持っている生徒のそれをさらに伸ばしても,学業達成はあまり上がらない」可能性があるといえそうです。この結果を見たときは,私はなるほどと思いました。

「理科ができたって自分の将来には何も関係しない」と公言するほど,全くと言っていいほど理科に利用価値を見いだしていない子どもに対しては,理科を学ぶことで得られる入試やキャリア上での有用性を説くことは,意義深いのでしょう。

一方で,平均的な水準まで,理科の学習が自分の将来と関係すると考えている子どもに対して,さらに「これを学ぶと将来の道が開けるぞ」と説いたところで,学業達成はそれほど変化しないのかもしれません。

この基礎研究によって,2つの異なる動機づけについて,学業達成との関連性についての機能的差異を明らかにすることができました。
この結果は,子どもを正しく評価(アセスメント)し,その結果によってどのような動機づけを高めてあげるべきか異なってくることを示唆しているようです。現場での根拠を持った教育実践に貢献できるのではないかと思います。

おわりに

今回ご紹介したのは理科教育における基礎研究の一例です。面白い世界だなと思ってもらえたら嬉しいです。反響があれば論文以外にもこうした方法で研究成果を発表していきたいと思います。

私には実践経験がありませんし,それと同じように理科教師の皆様にとって基礎研究はとっつきにくいものであったかもしれません。だからこそ「理解できないので,読まない」とおっしゃられたのかと思います。

実践経験が豊富な理科教師の皆様がこのような基礎研究マインドを身につけたら,本当に無敵だと思います。
このような基礎研究的な考え方も学んでみたいけど,統計学はダメだ…とお考えの先生方は,
ぜひ日本理科教育学会が企画しているオンラインセミナー「理科教育学研究のための統計分析入門」(12/19, 土)にご参加頂ければと思います。
とても分かりやすく統計分析について教えてくれます。

研究の輪が広がっていき,多くの先生方とたくさんの議論ができることを楽しみにしております!

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