ピンシャー
三間由紀子
わたしは ピンシャー
とっても 上等の犬なの
そんな風情で 尖った頤(オトガイ)を突き出して
┉ もう両面とも 見えないし
┉ 右の前足 曲がったままでしょ
┉ 耳だけは よく聞こえるけど
お隣さんは 声をひそめて
それでも 直径3cmもない かぼそい足を
ふんばって お散歩
私はピンシャー
どんな犬より 貴族なの と
鼻高々 お隣さんを従えて
ご帰宅は お隣さんの腕の中
大変ねぇ
小さな声で言ったつもりなのに
ピクンと 耳が動く
お隣さんも 私も 白髪になって
でも まだ
心遣いしなくてはならないものを 抱いて
今日
※詩誌「爪」146号
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