空に 風に
吉川葉子
さるすべりのピンクの花が
二階の窓の正面に
たくさん咲いてゆれていた
すう と
母の さいごの息が 止まった
夏の終わりの 午後
わたしは
ぽっかりと
気もちに空洞ができたようになってしまった
どこに いったのだろう
空のなかなのか 風になったのか
蝶々が飛んでくればここに? と思い
お月さまのむこうにいるのだろうかなんて
まるで小さなこどものようなことを思う
そんな日の続くある夜 夢をみた
父と母がいっしょにいて
わたしを安心させるように母が言った
あのね
お父さんといっしょにいるから。
だいじょうぶだから。
┉┉┉いっしょにいるんだ
だいじょうぶなんだ
夢の言葉を信じて
わたしの心は平らかになった
空に 風に お月さまのむこうに
ふたりでいるのだね
わたしも 元気にやっています
※詩誌「爪」146号
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