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いつもと同じ 中由紀子


夕飯はいらないよ
夫のひとことに胸のうちが小躍りする
いつもと同じ顔でイッテラッシャイと送る
さあ食器を洗おう掃除をしよう
洗濯物を干す布団を干す
くるくるとうごくうごく
いつもより頑張ってうごく

いつもなら昼の仕事が片づくと
夕方の仕事が始まる
けれど今日はちがう
今日の午後は私のもの
その気持ちお見通しと
洗濯物も風に小躍りする

干した物は乾いてたたんで
掃除機も早目にひっこんで
それもこれも済んだ終わった
今日こそ毛布にくるまって本を読む
そのうちとろとろ眠くなって
長い午後に浸ろう
ガラス戸をしめてカ―テンをとじて
ひっそりと午後は立ち止まったままだ

どれくらい陽はかたむいたのか
カ―テンの隙間から
床に這う西陽のすじをたどる
部屋の隅がもやもやしてきた
こうしてはいられない
もやもやが闇になってふえて
さみしくなりそうだ

毛布をはねのけて起きあがらなくては
灯りを点けなくては
台所の蛍光灯がぱちんと目をさました
ぱちんぱちんぱちん
まな板も蛇口もシンクも
カゴにあげた茶碗も目をさました

夕闇が側に寄ってこないように
お湯を沸かしてゆげをのぼらせよう
やさいを洗えば水は賑やかに踊る
やさいを刻めばまな板はいい音で鳴る
とんとととんとと歌って
鍋の豚汁がおいしいにおいになる
ここまでくればだいじょうぶ
凍えた手で帰る夫を待てばいい
いつもと同じ夜がきた


* 2016年4月詩誌「爪」121号中由紀子作品

毎日が退屈なほど当たり前に過ぎる…
これほど有難い奇跡は無いと痛感いたします
2011年3月11日…深く頭を下げ4月号の作品となりました。

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