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ぱるぷフィクション①

大きさの合わないゴム手袋にペラペラの制服を着たらやけに重い安全靴(今はセーフティーシューズって言うんですよ!)を履いてマフラー替わりのタオルを首に巻けば準備完了。・・・おっとマスクを忘れていた。不特定多数国籍多数のこのアメージングゾーンではマスクは必須。

だけど、ずいぶん遠くへ来ちゃったなぁ。色んな意味で。ふぅ。

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羊田裕美華(ひつじだ ゆみか)39歳。うお座 血液はB型

アルバイトで入社した書店で出会った主人と結婚。その後も同じ職場でパートとして働きつづけてあっという間の早20年。生まれ故郷の鹿児島にいた時もアルバイト先は本屋さんだったからかれこれ22年も本屋をやっていることになる。んー。この業界はご多分に漏れず時給も上がらず待遇は年々悪化するばかりですが担当している仕事に対するモチベーションのみを担保に頑張ってきた。・・・いや、そこまででもないか。だって単純にコミック好きだからねー。それだけよ本当。あとはこんなアタシでも信頼してくれる店長だったからっても大きいね。

その日は毎月届く一覧発注書の前で入荷数を消したり足したりしていると同僚社員の沢村君が慌てた口調で話しかけてきた。(まぁ、彼はいつも慌ててるんだけど。)
「お、羊田さん!大変だよ!大変だよ!店長辞めちゃうみたいだよ」

「はぁ?」
最近立て続けに来ているエリアマネージャーに呼び出された店長が事務所ですったもんだがあったみたい。だいたい何がエリアだか知らないけどツンとしてバリア張ってるだけのマネージャーの分際で現場にあーだこーだと口を出す。やれ「本部の報償金の為にこの本を売りなさい!」「返品の制限があるから仕入れしないで!あと売上あげてください!」アーホーか!どんだけ現場が頑張ってると思ってんだよ!その上、店長辞めたらどうすんだっつーの!まったくもう!

「替わりなんて誰でも出きるんじゃない?」

「(ヤバい!エリアマネージャー!)・・・やー・・それはそのあのー・・・そうだ!店長辞めちゃうって聞いたんですけど...ほ、本当に誰でもって...誰でも出来る。そう思っているんですか?」

さも当然のように笑みを浮かべながら

「はい。取次がバックアップしてくれている現状でむしろあの人は害悪でしかありませんから(笑い)だってそうでしょ?配本システムが確率されて売れた本がすぐに入るんだから社員なんていらないでしょ?」

な!あんた売り場に出てみなさいよ!減数どころかいきなり配本切られるわ、要らない雑誌がどれだけ(しかも忘れた頃に)入荷してくるのかさぁ!更に返品だってタダじゃ出来ないんだよ!それを...

「おい!羊田さん!何をくっちゃべってんだよ!早く休憩回して!・・・エリアマネージャーもさっきの件はわかりましたから今日のところはこの辺で」

「(フンッ )それでは異動の件は来週までにお返事下さい。ま、断ったら辞めてもらってもかまいませんから!ははは」

「て、店長!いいんですか!あんなこと言われて!」「いいのいいの、君たちは気にしないで。さ!レジ休憩回しましょー!」「てんちょー..」

なんだかなー。でも、店長辞めたら誰がこの店やるんだろ?まさか沢村君?ありえなーい(笑)

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結局店長は年末のシフトだけ作ってそのままスーって退職してしまった。理由は誰にも告げないままに。なんかもやもやするー。大丈夫なの?このお店。
もともと店長に拾ってもらったみたいなもんだからなー。....うん!よし!決めた!

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「えーっ!羊田さんも辞めちゃうのー!」
「しーっ!声が大きいっつーの!」
「だ、だってー。ただでさえ店長辞めちゃったのにこれでユミタンまで辞めたら...」

「なんとかなるんじゃないの?・・・知らんけど」

※この辺の詳細は割愛。フィクションですから


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はーっ、しかし働いているときは腰が痛いとか風邪ひきやすいとか、アタシどんだけババァだよ!とか思っていたけど辞めた途端超健康体wアレだわ、ストレスだね。昼まで寝て猫の面倒見ながらドラクエ三昧とか至福ですわよ。落合監督の息子ですよ。

・・・それにしても流石に1か月もこんな自堕落な生活してると飽きてきたなwお小遣いも旦那さんの分を減らすにも限度があるしね。だってお隣の野田さんの旦那さんとかお小遣い1万円だってよ!えらーーーーい!下には下がいるってうちの旦那さんにも言い聞かせなくちゃ。ユキチが言ってたらしいから。ユキチが誰だか知らないけどー。

でもどうしよっかなー

職安でシツギョー保険を貰えるのは自己都合扱いだから3か月後だしなー。フルで働くのはもう少し後にしたいし・・・職安で聞いたら「パートさんでも雇用保険に入っていれば失業手当は出ますよ。もちろん求職期間中にアルバイトも出来ます。しかし週4日勤務したら就職とみなします。許されるのは週20時間のみです。例え1日4時間勤務で4日間勤務したら16時間でもアウトです。失業保険は出ません。よく考えて求職してくださいね」

マジですかー・・・ってことは2か月で辞める前提で出来る週2回のアルバイト?

無いわー。無いってばー。面接行って「2か月間頑張ります!」とか言い出すアラフォー女子なんて門前払いでしょー。マジかー・・あと2か月プラプラするのかー(満面の笑顔で)

あ、電話だ

「もしもし」

「あ!まだ家にいたw」

「恵子かよ!そりゃいるよー専業主婦ですからw」

元同僚の恵子だ。彼女も人件費圧縮の際に書店を辞めている。

「で す よ ね ー」ハモるハモるw

「そういや、ウチの従弟が通ってるバイト結構いいらしいよ。自由で。」「あーアタシ週2日で20時間までしか働けないんだよねー」

「あ!イイみたいよ。それで」「へ?」「とにかく人を集めているらしいから応募してみれば?」

「どこなの、そのバイト先は?」

ニヤリと笑った恵子は小声で

「Different worldディファードよ」

世界的企業の名は私だって知っている

ゲームやCDなんかはそこで買ってるし。本は買わないよ。

まだ、なんかね。やっぱ書店員なんだよな。なんか抵抗がある。

「年齢関係ないから裕美華みたいなアラフォーでもイケるって」

「アンタ同い年でしょーが!」

「まぁ調べてみるけどさ。ん、ありがと」

電話を切った後に一瞬考えた裕美華は再び電話を取り上げる。

それが異世界への扉だとも知らずに

【ぱるぷフィクション第一話】

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