三秋縋「さくらのまち」感想

二度と戻らないつもりでいた桜の町に彼を引き戻したのは、一本の電話だった。
「高砂澄香が自殺しました」

澄香――それは彼の青春を彩る少女の名で、彼の心を欺いた少女の名で、彼の故郷を桜の町に変えてしまった少女の名だ。
澄香の死を確かめるべく桜の町に舞い戻った彼は、かつての澄香と瓜二つの分身と出会う。
あの頃と同じことが繰り返されようとしている、と彼は思う。
ただしあの頃と異なるのは、彼が欺く側で、彼女が欺かれる側だということだ。

人の「本当」が見えなくなった現代の、痛く、悲しい罪を描く、圧巻の青春ミステリー!


情報が出るだけで涙が出てくるくらい好きな作家である三秋縋さんの6年ぶりの作品。
発売日の2024年9月26日には、有給をとって、住んでいる田舎を飛び出し、東京の書店で特典を探し求めるなんてことをするほどの、拗らせっぷり。
ただ、その週末は予定があって、向き合う気持ちを作れなかったので、1週間後の10月5日に一気に読んだ。


~以下、少し本作の結末に触れます~
※初めてこのような感想を書くので、ご容赦をいただければと…

「目の前の友人は、本当の友人なのだろうか」

誰でもそんなことを考えてしまうこともあると思う。
特に私と同じようなミアキストたちは。

この作者は、いつも誰しもが一度は考えたことがあるようなことを題材にする。

 もしも人生をやり直せたら
 もしも自分の寿命に価値をつけるなら
 もしも自分の容姿が醜くなければ

また、「自分なんか」と思ってしまう私は、仕方なく/強制的に構築されて一緒にいる理由ができる、”言い訳のできる”人間関係が好きだ。

 仕事で仕方なく監視する必要がある
 弱みを握られて仕事を手伝わされる
 寄生虫のせいで惹かれてしまう

そんな願望やコンプレックスをもとに描く、どうしようもない/やるせない主人公やヒロインの描写がとても丁寧で繊細で優しくて、すごく心に刺さる。

そして、手放しで喜べるわけではないけれど、それでも本人たちの中では幸せと呼べるものを手に入れて終わる結末に、いつも胸が締め付けられる。

正直、今回もそんな"最高のバッドエンド"を期待していたというのが本音だから、澄香や霞、鯨井は、単純なバッドエンドであったように感じ、それがやはり残念だった。
尾上も「あの時の友人は本当の友人であったんだな」ということで生きていけるのだろうか。

でも、そんな残った感情が後味の悪さにならない、むしろ心地よいとまで感じてしまう気がする作品であり、最高の一冊であったと思う。

読書歴が浅く、他の素晴らしい作品をあまり知らない私は、この感覚は、この作者の作品でしか味わえないのだろうかと不安になる。
また数年おきくらいで新作を出していただきたい。

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