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2023 F・マリノスレビュー J1第1節 vs川崎フロンターレ

1993年5月15日に始まったJリーグは、今年で30周年を迎える。その記念すべきシーズンの開幕戦で相対するは、開幕当時はまだJリーグに参加しておらず、近年ではシルバーコレクターとも揶揄される、長きにわたりあと一歩のところで優勝を逃し続ける期間を抜け、確固たるスタイルと圧倒的な強さを手にした川崎フロンターレと、オリジナル10にして未だJ1の舞台から落ちたことがなく、30年前の開幕戦でも同じく川崎のクラブと戦った、横浜F・マリノスだった。

試合は、開始早々に相手GKのパスをエウベルがカットし、そのボールを西村がゴールに流し込んでF・マリノスが先制。その後は一進一退の攻防が続き、両者とも決定機を作りつつもスコアを動かせない時間が続いたが、38分にCKのこぼれ球をエウベルが体勢を崩しながらも右足で押し込み、リードを2点に広げた。後半に入ると、川崎は家長に代えて新加入の瀬川を投入し主導権を握る。70分には、佐々木のクロスを瀬川が落とし、最後は脇坂がシュート。また、74分には、脇坂の意表を突くパスからマルシーニョがシュートを打つが、いずれも得点には結びつかない。すると84分。川崎が攻めあぐねる中、ピッチ中央でF・マリノスの西村がFKを獲得すると、素早いリスタートからマルコスジュニオールが抜けだし、GKと1対1に。急いで戻ってきたジェジエウがボールに足を伸ばすも、惜しくも届かず、むしろ足を引っかけてしまい痛恨のPK献上。VARの介入の結果、ファールはPA外と判定され、決定機を阻止したジェジエウは一発退場となった。その後、川崎がアディショナルタイムに1点を返すも反撃はここまで。直近の6年間でシャーレを独占する2チームによるオープニングマッチは、昨シーズン王者の横浜F・マリノスに軍配が上がった。

この試合のスタッツを見てみると、支配率では川崎が63%に対し横浜が37%、シュート数でも16対9と、川崎が試合を優位に進めていたことは間違いないと言える。しかしながら、決定機の質と局面での守備でF・マリノスが上回り、勝利をものにする形となった。今回は、川崎の攻撃とそれに対するF・マリノスの守備に注目して分析していきたい。

まず、川崎のポゼッションについて特徴的だったのが、山根の位置取りである。中継でもたびたび触れられていたが、本来のポジションは右SBでありながらも、この試合ではボランチのような位置でボールを受けることが多かった。

オーソドックスな4-3-3の立ち位置

試合開始直後では図のように特別な可変をしない立ち位置でボールを保持していたが、F・マリノスのプレスを抜け出すことができず、結果的にかなり早い段階で相手にリードを許してしまった。この時も西村が車屋からチョンソンリョンへ連続したプレスを行い、足元でつなぐ選択肢がなくなったことで山根(脇坂?)へのパスがエウベルにカットされ失点してしまった。

19分 山根が位置を変え決定機が生まれる

一方で、15分頃から山根が内側に入ることでパスコースが生まれ、前へボールを運ぶことが可能になった。実際に19分のシーンでは、内側に入った山根がボールを受けることで橘田が前を向けるようになり、落ちてきた宮代、上がってきた佐々木とつないで空いたスペースに遠野が抜け出し、この日最大とも言える決定機を作り出すことに成功した。

ただし、そのような状況においても川崎がそれほど攻勢に出れなかったのは、渡辺皓太や喜田の献身的な守備があったからである。先ほどの図にも示したが、必ずしも山根はフリーでボールを受けることができたわけではなく、多くのシーンにおいて渡辺皓太がプレスをかけていた。それによって川崎は自由に攻撃を組み立てることができなかった。また、脇坂や家長が中盤に降りてボールを受けに来るシーンも何度かあったが、この時は喜田がついていくことでフリーにさせなかった。

後半に入ってもこのスタイルは変わらなかったが、試合の展開は前半よりも川崎優位で進んでいたように思える。その理由としては、F・マリノス陣地でボールを保持する時間が増えたことが考えられる。川崎は、敵陣においてはいつも通りのコンパクトかつ的確なパス回しで相手を翻弄した。

ではなぜそのような状況が増えたのかというと、前半に自分たちがやられていたことを、後半は自分たちがF・マリノス相手にやってのけたのだ。すなわち、CF とウイングの片方をもって相手の両CB を抑え、ボランチにはIH の選手がつくことでパスコースをつぶした。前半もこのようなことをやっていなかったわけではないが、大きく変わった点としては後方の選手の連動が挙げられる。

例えば、前半にはGKのオビから右SBの松原へ浮き球のパスを通すシーンが見られた。しかし、後半にはそこへ佐々木が出ていくことで選択肢を消した。その分右ウイングの水沼がフリーになる可能性は高まるが、スピードのある選手ではないこととGKからは距離があることから、カバーするには車屋の存在だけで十分だった。

F・マリノスにとっての課題と考えられるのは、このようなプレスを打開する方法である。ロペスや西村がターゲットとなることもあるが、相手にジェジエウのような屈強なCB がいる場合は必ずしもパスを受けられるとは限らない(それでもなおロペスは強いが)。川崎の場合は山根の特殊な位置取りをそのオプションとして用意したが、果たしてそれがどれだけこれからの試合で効いてくるか、そしてF・マリノスにとっての打開策はどのようなものになるのか、両者のこれからがより楽しみになる一戦だった。

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