女子W杯の放映権の買い手探しが難航した理由
来る7月20日、サッカー女子W杯オーストラリア&ニュージーランド大会が開幕する。もちろん日本もこの大会に参加し、2011年大会以来3大会ぶりの世界一を目指す。しかし、日本国内はとても大会どころではない話題で持ちきりだった。
今月13日、JFAは、NHKが女子W杯の日本戦を放送することでFIFAと合意したことを確認したと発表した。開幕までわずか1週間というタイミングでの発表となり、サッカー界は驚きと安堵の入り混じる光景となった。今回は、一体なぜここまで放映権の交渉が難航したのかについて、新聞記事等を参考に探っていきたい。なお、あくまでここに書くことは推測であり、新聞記事等の内容も事実とは異なる可能性があることをご理解いただきたい。
原因① 高騰する放映権料
多くの記事で報じられているのは、今回のW杯の放映権料が高騰しているということである。昨冬の男子W杯でも話題となったが、サッカーの国際大会の放映権料は年々高騰している。今回の女子W杯も、そのトレンドに則り各テレビ局及びネット上の配信サイトには手の届かないような値段設定がなされていたと推測できる。
また、昨今の男女平等を目指すムーブメントによる影響も少なくないと思われる。FIFAは女子W杯における賞金を前回大会から増額しており、将来的には男子と同等の金額にすることを目指している。そのための資金を放映権料によって賄おうとしていると考えられる。
参考までに、男子W杯カタール大会での放映権料はおよそ200億円程度であったという見方が主流である(報道機関により数十億円単位の差異がある)。それに対し、インファンティーノ会長いわく女子の大会ではせいぜい数億円(良くて十数億円)しか放送局が提示してこないようである。
原因② 国内での注目度
震災直後の日本に活気をもたらした2011年大会。あれから12年が経ち、当時主力として活躍していた澤、大野、宮間などは軒並み引退。今大会のメンバーで世界一を経験しているのは熊谷だけとなった。当時は、スポーツ紙の一面に「なでしこ」、「澤」の文字が躍り、国民の認知度も高かったが、現在のなでしこジャパンで日常的にサッカーを見ていない層から認知されている選手は、ほとんどいないだろう。
何かしらサッカーについての情報を見ている人なら名前を聞いたことのある選手は多いと思うが、男子で言えばおそらくJ1中堅チームのレギュラークラスか、それ以下の認知度だろうというのが、ざっくりとした感覚である。今後、本大会に向けて若干の露出は増えるだろうが、過去にそうであったように、やはり結果を出すことが女子サッカーを盛り上げる一番の近道だろう。
原因③ 他競技との競合
ここまでは女子サッカーにおける内的要因を取り上げたが、その他に今大会特有の外的要因もあったと思われる。それは、他のスポーツとの競合である。
今年はバスケットボールとラグビーのW杯がほぼ同時期に開催される。どちらも4年間隔で開催されてきたが、バスケットボールは男子サッカーW杯と同じ年の開催を避けるため、前回大会から例年のペースより1年遅れての開催されている。これにより、ラグビーW杯や女子サッカーW杯と同じ年に開催されることとなった。
また、以前は日本代表の注目度がそれほど高くなかったが、八村などのNBAプレイヤーが登場し、ここ数年で特に盛り上がりを見せている。そして、今大会は日本も開催国に含まれており、開催国枠での出場が決まっていることから、2015年大会から人気が高まっているラグビーと合わせて「W(ダブル)ワールドカップ」(この名前は日本テレビが使っている)として、テレビに映る機会が増えている。
バスケットボールは、全試合をDAZNがライブ配信し、1次Rにおける日本代表の試合うちドイツ戦が日本テレビ、フィンランド戦とオーストラリア戦がテレビ朝日でそれぞれ生中継される(2次R以降のテレビ放送は未定)。一方のラグビーは、J SPORTSが全48試合を生中継する他(オンデマンドでも視聴可)、NHKが日本代表の予選2試合を含む15試合、日本テレビが日本代表の予選3試合を含む19試合を放送する。
それに加え、現在バレーボールのネーションズリーグが開催されており、BS-TBSで放送されている。さらに、9月にはFIVBパリ五輪予選/ワールドカップバレー2023が開催され、これはフジテレビが独占中継することが決まっている。
このように、NHKと大手民放である日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビは既に他の競技の放送が決まっていた。ネットの配信サービスでも、DAZN、J SPORTSが大きめの放映権を抱えていた。その他にスポーツ中継をする可能性がある配信サービスと言えばABEMAや新しいdocomoのサービスであるLeminoが挙げられるが、前者は男子W杯から立て続けの放送となってしまい、後者は既に来日する海外クラブの親善試合の放送が決まっていることから、新たにサッカーの大会の放映権を獲得するメリットは無い。
こうした状況が、今大会の放映権の買い手探しをより一層難しいものにしていたと考えられる。
おわりに
以上3つが、買い手探しが難航した主要因と考えられる。特に3つ目の問題は、今後も4年ごとに確実に向き合わなければいけない問題となるだろう。なかよしこよしでなんとかなる世界ではない以上、女子サッカーなりの魅力を発信し価値を高めていくことが必要となる。