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森永製菓に見るスポーツパートナーシップ 【前編】

横浜F・マリノスと森永製菓株式会社のパートナーシップは、2024シーズンで6年目を数える。
そのスタートは、パートナーシップの活用法も、F・マリノスの持つ資産活用も、予算さえも「どうしたらいいかよくわからない」状況だった。
それでも、一歩ずつ着実に取り組みを進め、2023シーズンにはオフィシャルパートナーからトップパートナーへとステップアップ。
この間、森永製菓はどのようにF・マリノスを見て、パートナーシップを捉えていたのだろうか。
森永製菓株式会社執行役員 マーケティング本部健康マーケティング部⻑佐藤実氏に、その舞台裏を聞いた。



スポーツパートナーシップを結ぶのならばサッカーは欠かせない
ー地縁もある横浜F・マリノスとパートナー契約を締結

「パートナーシップという言葉を使っていますけど、実情は何をするのか。何をしたらいいのか分からない企業もたくさんあると思います。旧来型の「スポンサーになる」=「ロゴを出す」イメージが強いと言いますか……。実際、私たちもパートナーシップ契約は手探りで、スモールスタートを切りました。でも横浜F・マリノスとのパートナーシップでできることは、いろいろある。5シーズンをともに過ごし、学びながら活用してきて、今があります」
2019シーズンからF・マリノスのパートナーとなった森永製菓株式会社の執行役員 マーケティング本部健康マーケティング部⻑の佐藤実氏が、これまでを振り返る。

先述の通り、F・マリノスと森永製菓は、2019シーズンにパートナーシップ契約を締結。その背景には、
「森永製菓が展開している『inブランド』は、スポーツやスポーツ栄養を軸足にしているブランドです。製品が誕生した30年以上前からトップアスリートのサポートは行ってきていましたが、私が(inブランドを扱っている)健康マーケティング部⻑になった2018年当時、国内でメジャースポーツとも言えるサッカーとの関わりはありませんでした。それではスポーツ界との関わりが弱いのではないか。パートナーシップを結ぶのであれば、若年層の競技人口の多いサッカーは欠かせないと考えたことが、一つのきっかけです」(佐藤氏)

加えて、Jリーグは地域密着を大切にしており、ファン・サポーターとのエンゲージメントも高いことにも着目していた。
だだ、Jクラブは全国各地に存在する。
なぜ、F・マリノスだったのか。
「森永製菓には横浜市鶴見区に工場と商品開発をする研究所があり、地縁があること。そして、eスポーツチームを持っていたことも大きかったですね。当時『inブランド』としてeスポーツに注力しようと考えていたので、それならばサッカーと合わせたパートナーシップをしようと、契約締結に至りました」


忘れられない無観客試合でのバナー掲示
ー恒例化したマン・オブ・ザ・マッチのパフォーマンス

F・マリノスのパートナーシップは、ユニフォームにロゴが入るトップパートナーをはじめ、オフィシャルパートナー、オフィシャルスポンサーと3つのカテゴライズがある。
森永製菓が締結したのは2つ目のオフィシャルパートナーだった。

 もともと森永製菓は、「スポーツやスポーツ栄養を軸足にしている『inブランド(inゼリーやinバープロテインなど)』が主力製品にあり、かつては橋本聖子さん(現参議院議員)、近年ではテニスの錦織圭選手など、多くのアスリートやプロチームをサポートしている」企業だ。
スポーツとの縁も深い。
それでも、
「2018年頃まではトップアスリートへの製品提供や広告への起用などが主だった活動で、ブランドロイヤリティを高めることやマーケティングにつながるような形でのパートナーシップは経験がありませんでした。当然、よくわからないことが多く、パートナーとしての予算もどこまで捻出していいのかという状態。スモールスタートでした」(佐藤氏)

手探りな状況で船出をした1シーズン目は、「トップチームへの『inゼリー』や『inバープロテイン』といった製品の提供や購買促進キャンペーン」が主な取り組みだったが、シーズン終盤には出口の見えない未曾有のコロナ禍に突入。 
「何かをしたくてもできない状況で、計画していたものではないことをやるしかなく……。2020年はすごく特殊な期間でしたし、パートナー初期のころは決して順調ではなかったですね」

セールス面を期待したキャンペーンなどは継続が難しく、コロナ禍の様々な制限もある。
森永製菓として「ブランディングに注力していこう」と切り替えたものの、何ができるのかも分からない。
苦難の状況下で、それでも実施後に手応えを感じるできごとがあった。
それが「無観客試合でのバナー掲示」(2020年7月8日明治安田生命J1リーグ第3節vs湘南ベルマーレ)。

「ニッパツ三ツ沢球技場での試合でした。F・マリノスさんとお話する中でバナー掲示が決まり、中継を意識して『ここに出したい』と伝えたと覚えています」
バッグスタンドの通路入口に掲げられたフラッグバナー。
通常はファン・サポーターが行き交うため、無観客だからこそ実施できた場所だ。
実際に、中継でよく映っていた。
「試合後に調査をしたのですが、配信で観戦していた皆さんの印象によく残っている結果になりました」
激動の時間ではあったが、バナー掲示などの積み重ねから、徐々に「こういうやり方がいいかな」と見えてきた。
 
「取り組みを実施するにあたっては、こちらから『やりたい』とお伝えすることもあれば、F・マリノスさんが提案してくれるものもあります。
どうしてもスポーツシーンで0から何かをやるのは、私たちからするとハードルが高い。思い浮かばいことも多いので、提案をいただきながら実施して、オリジナルになっていくというような流れになっています」

大きな結びつきとなったのは3シーズン目。
マン・オブ・ザ・マッチ(MOM)のパフォーマンスだ。
試合後に選手たちが、ゴール裏の前で巨大な『inゼリー』のパネルを使って、ファン・サポーターと喜びを分かち合う。
その姿は、2024シーズン現在も勝利後の恒例行事となっている。

「MOMはオリジナルではありませんが、パートナーになった初年度から『やりたいね』と社内で話していたものでした。社員の中にはF・マリノスサポーターもいて、『一番コアなファン・サポーターの目の前で行うから、とても印象に残るし、すごくいい』と。タイミングなどもあって2021年から森永製菓が行うことになりました。当初、飲むパフォーマンスは自然発生ではなかったかもしれませんが、今は恒例のようになっています。とても感慨深いですし、他社さんが『森永製菓みたいにしたい』と言ってくださっているのも、うれしいことですね」
MOMを含む一連の取り組みで、森永製菓が改めて感じたものもある。
それがファン・サポーターの熱量だ。

「初めてMOMを行ったとき、ファン・サポーターの皆さんの『熱』を間近で感じました。それが本当に印象深かったのをよく覚えています」


森永製菓×F・マリノス×ファン・サポーター
ーみんなが笑顔になる“三方よし”の関係を描いて

 以降、森永製菓とF・マリノスのパートナーシップにおける取り組みには、ファン・サポーターを意識したものも増えていく。
2023シーズンに打ち出した「F・マリノスを愛する皆さんとやりたい10のこと」というオリジナルプランは、その一つだ。

「目に見えるもので勝利を後押ししたい」とDAZNの試合放送でロゴを掲示したほか、「ホームゲームを盛り上げたい」と2023年7月15日(明治安田生命J1リーグ第21節vs川崎フロンターレ)には、冠試合となる森永製菓inゼリーDAY(2023年7月15日)を実施。大盛況となった。
「正直なところ、当初はファン・サポーターの皆さんの熱さをまったく分かっていませんでした。でも取り組みを進めていく中で、『F・マリノスのファン・サポーターは熱さと品の良さを持ち合わせている』ことが分かるようになりました。そうした皆さんに対して、F・マリノスさんは動画や画像、SNSも含めて情報発信を欠かしません。マーケティングもしっかりされている。『こういうことをやりたい』と相談しやすかった。そういう側面も、パートナーシップ契約を続けていくにあたっては欠かせないものになりました。実際、ファン・サポーターの皆さんに、『inゼリー』を含めた森永製菓が浸透していっていることは、SNSの反響などから毎年のように感じていました」(佐藤氏)

森永製菓が見出したF・マリノスとのパートナーシップのあり方は「三方よし」。
単にF・マリノスと矢印を向け合うのではなく、ファン・サポーターも含めたキレイな三角形で矢印が行き交う関係性だ 。

「例えば、F・マリノスさんに対して森永製菓は製品提供をするということでパフォーマンスに貢献する。逆に森永製菓はロゴの露出や製品利用でブランドイメージを作ってもらえる。チームはF・マリノスのファン・サポーターに対して元気を与える存在で、ファン・サポーターは思い切り応援をすることで前向きな活力を得る。そうした皆さんが『inゼリー』などでエネルギーチャージをしてくれる。愛用してくだされば森永製菓としても喜ばしいことです。そんなふうにWin-Win-Winの関係になれる。スポーツパートナーシップ的三方よしです。お互いにメリットを持ってやらないと意味がないし、続かない。相手を思う、立場を考えることは大切なことだと思います。やっぱり、みんながうれしいほうがいいですしね。スポーツパートナーシップにおいて利己的にならないことは、大事なことだと改めて思います」

(後編へ続く)


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