スイスから何を学ぶのか
※ 2017/6/25 excite blog の記事を改訂してアップデート
スイスの現役フォレスター、ロルフ・シュトリッカー氏による日本ツアーは2010年から10年に及びました。コロナ禍で2020年度から2022年度まで中断していますが、またいずれ再開できる日が、と考えています。
ここで少し振り返りを。…それはお金のこと。デリケートなことなので、書こうかどうか躊躇していたのですが、やっぱり書いておこうと思います。
スイスから人を招聘してのツアーやワークショップを主催しようとなると「コストが高いな…」という感想を直接・間接にいただくことがあります。人件費や物価が日本の1.5〜2倍の国の方々とのお付き合いになるので、私達の金銭感覚からすればこれは当然ですし、たとえば段取り次第でもっと費用対効果が上がるのではと言ったご意見があれば、これはコーディネーターの責任ですので、厳しく重く受け止め改善していかなければなりません。
スイスから呼ぶにせよ私達が向こうに行くにせよ、フォレスターには新たな拘束時間が発生し、その間は正規の仕事ができません。日本には毎年4〜6週間程度来日していましたが、その間、自分のフィールドの仕事はどうしているのかといえば、空き待ちのフリーのフォレスターなどにピンチヒッターを頼んでいます。そしてその経費の分はロルフは給料を減らされます。
人件費の極めて高いスイスでは、官民問わずシェアリングの管理は当然厳しくならざるを得ません。つまり、日本側からロルフへの支払いというのは、報酬というよりも休業補償に近い意味合いとなり(これが求められる金額の根拠)、実際には呼ばれる側からすればプラマイはほとんど発生しないということになります。
では、なぜ金銭的にプラスになるわけでもないのに日本に来てくれるのか?と問えば、彼はいつも即答します。「私は自身が学ぶために日本に来ている。違う世界に身を置き視野を広げることで、更に自分を高めることが目的だ。」と。日本の林業や森を良くしたいとか、近自然森づくりを広めるためだとかは口にしません。
この言葉の裏には「自分を高めることが日本の皆さんの利益になる、皆さんがステップアップすれば、私も更に上を目指さなければならない。それは結果的に自分のフィールドにとっても有益になるから、私の雇用主(地域住民)は私の日本行きに理解を示してくれる。そういう関係を築きたい。」という意味合いが隠されています。これが彼らなりの”両立思考”という価値観です。
その言葉の通り、ロルフは毎年次々と新しい知見や技・プログラムを披露し、日本の森を観察する眼もかなり鋭くなってきています。私達に伝えようとする時のコミュニケーションの工夫がどんどんアップグレードしているのも肌身で感じますし、当然ながらその裏では相当な努力をしているだろうことも伺えます。
そして、果たして私は彼の期待にどれだけ答えているのだろうかということを自問自答し、苦しんでいる自分がそこに居ます。ロルフに言われたから、と自分がやったことの責任を彼に依存していないだろうか。本質を見ず、やらなければならないことを面倒臭がったり、先送りにする理由を環境(例えばスイスと日本の違い)のせいにしていないだろうか。そして、自身の成長・ステップアップも大事だが、本当にやりたかったことは何なのかいつも立ち戻って考える準備はできているだろうか。
ただ、こういうことを考えられる環境自体が恵まれていることを自覚しなければならないのも事実で、その僥倖に感謝しながら、また明日から匍匐(ほふく)前進をしていこうと思います。
ロルフの言っていることは、結局のところアタリマエのことを当たり前にやるだけのことだよね、という感想を持たれる方も多いかと思います。そしてその次に「だからもう特に学ぶことはない」という方と「なぜそれが出来ないんだろう?(そこのところをもっと知りたい)」という方に二極化するのが大変興味深いところです。
確かなのは、去年のロルフと今年のロルフが違うように、本人が望まなくとも去年の私と今年の私も違うということ(良い変化か悪い変化かはまたアレですが...)。彼から学んだ/気付かされた数多くのことのうちの、大事なことのひとつ。
参考記事:
日本とスイスは違う