造林学を強化しよう
日本の林業や森林管理が様々な問題を抱えることに関心を寄せていただける方は、日に日に多くなってきているように感じています。各地域で森林を軸とした事業が興され、一見活況を呈しているようでもあります。
しかし、その内実に目を向けると、「森づくり」の視点がどうも弱いなと思わざるを得ません。すなわち、前提や価値観は時代とともに変わっているのに、資産づくりのシステムがなかなか変わっていかないのです。
林業振興の先進事例地として取り上げられる地域でも、森づくりのプランは従来のままだったりします。それぞれの現場ではそれでは続かないことはとっくに気がついていて、そのための戦略づくりに取り組み始めたところもあります。
全部を一気に変えてはダメ。でも時間がかかることだからこそ、少しでも一部でも良いから早く始めたい。
造林学という林学・森林科学の分野があります。森林生態、樹木生理、森林土壌、あるいは景観にまでおよぶ幅広い分野を扱う学問・研究体系で、森林・林業関係の大学を出た人は必ず履修している…はずですが、研究の進歩や社会のニーズの変化でアップデートがあるので、常に追い続けなければならないもの。これからは気候変動も考えなければなりません。
造林のことを今では森づくりとも表現しますが(イコールではないという意見もあります)、そもそも生きのび=地域社会の持続を目的とするならば、造林と利用は車の両輪のはず。でも、どうしても目立つ(とっつきやすい)のは後者の方になってしまいます。
今あるものを無駄なく使い倒すことはとても大事です。しかし、それは流通に乗ってからの話であって、「捨てるくらいなら安く売ってよ」の先に幸せがあるかというと森林所有者の立場としては疑問ですし、山側も山側で、高く買ってくれないとただ嘆いているばかりではダメ。
造林と利用…同じ人が両方を深めて行けたら、そんなによいことはありませんが、スーパーマンはそうそうはいないもの。あれもこれも一人でやろうとしないで、それぞれの分野が得意な人達同士で連携するのが現実路線になるのでしょう。
そして山側の問題。経済も環境もあきらめないために、私はいまいちど造林学に目を向けませんか、と呼びかけます。
造林学は私達に明確な答えを与えてくれるわけではありませんが、森づくりという答えのない問いに対して考え続けるためのヒントにあふれています。再投資コストを減らすための知恵は、この中にもあるはず。
現場でいかに科学をうまく使うか。組織や地域で取り組む際にどういう仕組みが必要なのか。自分がフリーランスになってやりたかったことのひとつです。
以下は、個人的に勉強してみたいと思う方への推薦図書です。上から順次読んでいくと理解が深まるでしょう。
未来に残す森づくりのために - 造林・育林実践技術ガイド
川尻秀樹著/全林協, 2023
https://www.ringyou.or.jp/publish/detail_1837.html
造林学ワークブック - 森林科学の学び方
上原巌著/理工図書, 2023
https://www.rikohtosho.co.jp/book/3156/
森づくりの原理・原則 - 自然法則に学ぶ合理的な森づくり
正木隆著/全林協, 2018
https://www.ringyou.or.jp/publish/detail_1467.html
WEBサイトならココ!
森づくりの技術(造林技術研究所)
https://silviculturetech.com/
もちろん、本を読んだだけで技術が身につくわけではありません。しかし、現場を実際に進めるうえで、「ああそういうことか」と気がついたことを言語化するのに、かならず役に立つはずです。
それは、森づくりの道しるべを地域で共有する際に、これからの時代ではとても効果的だと思うのです。
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