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民間防衛(リスクマネジメントのこと)

※ 2011/4/10 excite blog から転載

東日本大震災以降、リスクマネジメント(危機管理)の話がメディアやネット上のオピニオンを賑わしている。

阪神淡路大震災や新潟中越地震の際も危機管理については様々な議論がなされた。今回の災害において自衛隊、警察、消防、地方自治体、民間の分野でその成果が生かされている事例を散見することができたのは、数少ない救いの一つでもある。

昨年(2010年)から、森林管理・林業経営のひとつの提案として「近自然森づくり」の理論を整理しているが、スイス在住の山脇正俊さんがまとめた近自然の概念(いかに豊かに生き延びるか)は、スイス人のリスクマネジメントが源流だ。列強諸国に囲まれながら生き残ってきたスイス人のことを山脇さんは"危機管理の達人"と評しているが、その考え方の一端をご紹介したい。

彼らのリスクマネジメントの考え方は「民間防衛」という書籍で知ることができる。

民間防衛はスイス連邦政府が1969年に編纂・発行したもので、当時はスイス国内の全世帯に配布されていたそうだ。基本的には戦争に備えるための本であるが、飛び交う情報をどう読み取るか、備蓄のありかた、など災害に備えるために参考になる記述も多い。

原則論も具体的対策も両方記載されていて、前者の中から抜粋したものを以下に列記する。

<まえがき> より(連邦法務警察長官のことば)
…われわれは、脅威に、いま直面しているわけではありません。しかしながら、国民に対して、責任を持つ政府当局の義務は、最悪の事態を予測し、準備することです。…

<我々は危険な状態にあるのだろうか> より
…われわれは、受け身に立って逃げまわる権利を与えられていない。われわれは、あらゆる事態の発生に対して準備せざるを得ないというのが、最も単純な現実なのである。

<深く考えてみると> より
…親たちがわれわれのことを心配してくれたように、子供たちのことを考えよう。自由と独立は、われわれの財産の中で最も尊いものである。…

<国の自由と国民それぞれの自由> より
…共同体全体の自由があって、初めて各個人の自由がある。我々が守るべきはこのことである。

<国家がうまく機能するために> より
…民主主義は、何も生み出さないでじっとしていることと、破壊的に転覆することとの間に通じる、狭い、山の背のような道を用心深くだどらなければならない。
 各人の義務は、この法則に従って生き生きと生きることである。公の問題に無関心であることは、この義務に忠実でないことを意味する。すべての破壊を欲することは反逆である。
 法は、われわれすべてを拘束するが、われわれを守るものでもある。われわれも法の制定に参加しなければならない。もし、制度の改善のために何もせず、共同体の管理に参加しないならば、自分たちの制度について不平を言う資格はない。…

<自由に決定すること> より
…われわれが遺産として残すこの家の屋根の下で、われわれの子孫が満足する生活をおくれるようにするためには、みんながこの家を、常に、より人間的なものに働く必要がある。…

<われわれの義務> より
…いずれにせよ、われわれの義務は、被害を最小限に食いとめるために、最悪の事態に備えることである。…現代の科学技術は、人間の手に実に強大な力をゆだねているので、ちょっとした失敗が、はかり知れない重大な結果をもたらす可能性がある。こうして、たとえば、原子力の平和利用に伴う事故から、一地域全体が放射能で汚染される危険すらあり得るのだ。単に技術の面だけでも、われわれは常に危険にさらされている。効果的な防衛方法は、間に合わせにつくるわけにはいかないのだ。

<国土の防衛と女性> より
…自分の任務を、義務を、はっきりと自覚している者は、混乱や恐怖に直面しても、それに簡単に巻き込まれるようなことはない。…

<蜂蜜は、いつも流れ出ているわけではない> より
…買いあさりに加わることは、自分の社会連帯意識の低さ、つまり、自分勝手なことをしたのでは社会が成り立たないという意識が欠けていることを、暴露するだけでなく、自分が有事の備え、蓄えを怠っていたことを証明するにほかならない。

このあと、備蓄すべき物品のリスト、自警組織の作り方、原子爆弾が投下されたときの避難方法、放射線に関する詳細な知識、諜報活動による内部分裂工作への対処方法、国が占領されたらどう行動するかなど、最悪の事態に備えた具体的で生々しい記述が続き、読んでいると正直げんなりする本だ、、が、全て大事なこと。

実際のスイスは周辺国からの度重なる圧力、森林の伐り過ぎによる洪水の頻発、最近ではスイス航空の破綻など、様々なダメージを受けてきた歴史を抱えている。にも関わらず、特別な資源もない小国が、世界最高水準の一人当たりGDP、金融界への影響力、化学・工業製品への信頼を勝ち取っている事実を分析するとき、この民間防衛の精神を無視するわけにはいかないだろう。

やはり興味深い、目の離せない国だ。

そして危機管理を考えるたびに思うのは、日本の伝統「言霊(ことだま)」のこと。つまり「そんな縁起でもないこと言うんじゃない」という考え方のことである。

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