【書籍】気候変動の真実
ニューヨーク大学教授の物理学者、スティーブン E.クーニン氏の著書の訳本(2022/3)
地球は温暖化していて、その原因は人間活動が排出する二酸化炭素であり、これを放置すると大変なことになる…という時代の "常識" には懐疑的な意見があることも、多くの方はご存知のはず。
これもそういう異端派か、陰謀論者か、あるいは特定産業の提灯持ちか…タイトルだけではそういう印象を持たれかねないが、これまでの懐疑論とは一線を画している。
著者は、二酸化炭素犯人論やそれに伴う未来予測を完全に否定しているのではなく、現在の科学ではまだ解っていないことが多すぎる、という見解を物理学者の立場から丁寧に説明している。
つまり、今の世界の気候変動施策は科学から離れてしまったところで動いている、それはなぜか、という指摘が主な内容だが、同時に興味深いのは、では我々はどう考えればよいのかという対案(プランB)を示していることだ。
それは、気候変動の原因やそれを抑える手法として科学的に解っていること(どう対応すれば効果があるか明確なこと)はその範囲でやりつつ、そもそも気候というのは自然状態でも変動するものだから、適応、つまり気候が変動しても生き延びられるような対策にリソース(資源)を割いたほうが良いのではという意見だ。
ここからは、私の感想。
これに対して、おそらく多くの環境科学に関わる人々は、予防原則の観点から反論するだろう。気候変動は証明されてから対応しても遅い、だからたとえCO2犯人論に未解明の部分があっても対策(緩和策)を始めるのだ、と(これには経済活動の拡大を牽制したいというエコロジストの意図も絡んでくる)。
しかし、予防原則というリスクマネジメント(危機管理)を考えるのならば、CO2が犯人ではないどころか、そもそもが自然の気候変動に過ぎなかったという結末も同時に想定しなければならない。だから、適応を考えておくべきという著者の意見には同意できる。
林業や森林管理の世界でも、脱炭素の波が押し寄せている。森林が脱炭素に貢献できるのかということに対してこれも賛否両論あるが、産業界が看板に掲げてしまっている以上、もはや現場では逃れられないものになっている。だけれど、やっぱり違いましたとなって梯子が外されることがあるのも、この世の常だ。
それで逃げられる人はいいが、山という"生き物"を扱う私たちはそうはいかない。
いち森林所有者の立場としてできるのは、カーボンクレジットを手札の一つとして活用させていただきつつ、そこにあまり深入り(依存)しすぎないで、いつ梯子を外されても、そして結果的に気候変動が止まらなかったとしても、活用できる森林が全滅しないような、経営が破綻しないような準備を今のうちから可能な限り同時並行でしておくことだと思う。
そのための森づくりや林業の形とは何なのか。
この本は、特に企業林の管理担当者の方々にお勧めしたい一冊。
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