花見
久し振りに母に会いに行く。
妹と甥っ子も一緒だった。
あと数日で76歳の誕生日を迎える母と
食事をしようと妹が誘ってきたのだ。
この春、中学3年になったばかりの甥っ子は、なんとステーキにハンバーグを追加して食べている、人生で一番の食べ盛り期だものね、こんなものなんだろうと
子どものいないワタシはその食べっぷりをしばし見学。
食事が終わったら近所の公園にお花見に行きたいと母が言い出した。
今が見頃だと同じケアハウスの仲間から聞いたらしい。
すっかり歩く速度が落ちた母とゆっくり公園に向かう、情報とは違い満開とまではいかないが、目の前にきれいな桜の園が現れた。
思えば母や妹とお花見をしたのは
55年の人生できょうがはじめてかも知れない、
しかも誘うことなど一度もしたことがない母が言い出しっぺ。
じゃ、私はここで。
ここまっすぐ行ったら駅だから、まっすぐね、兎に角まっすぐ。
そう言って、あっという間に母は帰ってしまった。
「誘うことなど一度もしたことがない言い出しっぺの本人が」…だ。
そして、私たちはまっすぐ歩いた、
妹たちとも別れ、帰りの電車で
きょうのお花見に行こうは何だったんだろうと考えていた、母は私たちを単にあの公園まで案内し桜を見せてくれたんだ、そう思った、自分が行きたいのでもみんなでお花見をしたいのでもなく
若い母親が小さな子に春の景色を見せてやりたいと思うように、私たちをあの公園まで連れて行ってくれたんだ。
母と子の立場が逆転してもうどの位の時間が経っただろう。
ずいぶん長い間、こんな感覚を忘れてしまっていた。
母が母に戻った春の日。
ふと、母との別れがもう近くまで来ている気がした。
#母 #桜#ケアハウス
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