![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/12155435/rectangle_large_type_2_12e06d9231ebf55548406898fb36970e.jpeg?width=1200)
【短編小説】それがきっと初恋でした。
ファインダーの向こうに1人の少女がいた。
セーラー服を身に纏った小柄で可憐な友人。
吹き抜ける潮風を体に受け、ふわりとスカートをなびかせて笑っている。
遠くにカモメの鳴き声。
さざ波が打ち寄せる砂浜は時折、ちゃぷちゃぷと音を立てていた。
「優子ー!」
大きく手を振って私の名前を呼ぶ。
鈴の音のような可愛い声だった。
シャッターを切る。
その瞬間を永遠に切り取るために、無機質な機械は乾いた音を上げた。
あれからもう何年経つだろう。
高校を卒業して、大学に入って。
いつのまにか大人になって、就職した私はそこで出会った男性と来月結婚式をあげる予定だ。
正直、まだ実感が湧かない。
人生は私が想像していた以上につまらないものだった。
淡々と階段を上がるように、なんの感動もなく進んでいく時間。
幼い頃は早く大人になりたいと思っていたのに、いざこうなってしまうと『あの頃に戻りたい』と願うばかりだ。
高校2年生の夏、お父さんにお下がりのカメラをもらった。
デジタル一眼レフはずっしりと重いし、私には少し大きく感じられた。
しかしガラケーで撮る写真よりずっと綺麗に仕上がるのはすごく嬉しかった。
あの頃、カメラの練習がしたいからと、幼馴染を誘ってよく散歩をした。
初めは撮られるのを恥ずかしがっていた彼女も、3回目になると自分から「ここで撮って欲しい」とポーズを決めるようになっていた。
「優子が撮ってくれる写真、好きなんだ」
撮影したものは、後日何枚かを選んで印刷して手渡していた。
自分で選んだカットだから、もちろん私もその写真が好きだった。
はにかんだ笑顔を浮かべる彼女に私はなんて返しただろうか…。
「どうしたんだ、浮かない顔をして」
窓を開けて外を見ていると、夫になる予定の人が隣にやってきた。
外からと流れ込む風は少し生暖かく、もうすぐ夏がやってくる事を私たちに教えている。
「大人になったんだなぁ…って、ちょっとセンチになっちゃった。だって私、高校生の頃となにも変わってないんだもん。なのに歳ばっかり大きくなって」
彼も苦笑いを浮かべて同意する。
「僕は優子の昔のことはわからないけど、僕自身まだ大人になったって気がしないな。…でもいつまでも子供じゃいられないよな、お互い。」
「結婚式が終わったら、きっと母さんも父さんも『孫はまだか?』ってうるさくなるもんね」
2人で笑いながら夜空を見上げる。
明るい都会の空には、いくつかの小さな星が浮かんでいるだけだった。
あの時の星はもっとたくさんあったよね。
いつもの海岸から見上げた濃紺の世界には、満天に輝く星がこれでもかと言わんばかりに散りばめられていた。
きっとどんなに豪華なお城のダンスホールだって、この天井には敵わない。
セーラー服は学生の正装。
ここがもし舞踏会場だったら、私はあなたの手をとって一緒に踊りましょうって言うのかな…。
「最近、不思議な事を思うんだ」
彼女は照れくさそうに言った。
「優子に撮ってもらった写真を見ていると、物語のヒロインになった気分になるんだ。なんだか、世界の中心に私がいるような…。
自分のこと大嫌いなのに、優子が撮ってくれる私は大好き。えへへ、ナルシストみたいでしょ」
茶化して笑う彼女が、どうしようもなく愛しかった。
ねえ違うよ、ヒロインになった気分。じゃない。
私の中のヒロインはいつだって…
「あーあ、忘れっぽくなってダメだなー。歳とると。」
「おいおい認知症か?」
冗談を言い合ってけたけたと笑った。
私はステキなパートナーに巡り合って、もうすぐ結ばれるんだ。
窓を閉めてベッドへ向かう。
化粧台の横を通り過ぎる時、金縁の小さな写真立てがふと目に付いた。
いつだったかの誕生日に、彼女がプレゼントしてくれた可愛らしいフォトフレーム。
私はたぶん、今とても幸せに暮らしています。
ねぇ、あなたは幸せですか?
セーラー服の少女は永遠の笑顔を私に向けていた。
End.2019.06.06
3つのお題をテーマに執筆《星空》《少女》《カメラ》
いいなと思ったら応援しよう!
![しのよしの](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/152861407/profile_2004119d8847bbfb88b319af1e069ff9.png?width=600&crop=1:1,smart)