2022年/年間ベストアルバム10選
Nas “Magic”
実際は2021年クリスマスイブに急遽配信で発表された通算15枚目のアルバム(※半年以上経ってようやくフィジカルリリースされたので、イレギュラーながら2022年作としてカウント)King's Diseaseシリーズなど、近年絡みまくりのHit-Boyとほぼ二人で作り上げた全9曲29分16秒。収録時間はコンパクトながら、ラップは近年で最もキレを感じた。初っ端 'Speechless' から粉飾無しの渋トラック上で、最早シグニチャーのようなNas印の声質に、脅威のリズムキープでスムースなフローを披露。まだまだ底知れない。サクッと聴けるので、ちょっと出かける移動時などヘビロテ。
お気に入り:Track 1 / Speechless
Big Thief “Dragon New Warm Mountain I Believe In You”
ニューヨーク州ブルックリンで活動中のインディーフォークバンドによる5thアルバム。前作 "Two Hands" 前々作 "U.F.O.F." が割とオルタナティブな印象だったのに対し、今作はより牧歌的なフォークソングが主軸に。エイドリアンの繊細なものから力強いものまで変幻自在の歌声は相変わらずで、時折みせる歪んだギターによるポストロック/シューゲイザーみも最高。11月に観た来日公演では、異常なまでにアレンジされた楽曲とクソうるさく長いギターソロ(褒めてます)が披露され、当然ながらライブバンドとしての地力もエグかった。
お気に入り:Track 17 / Simulation Swarm
OFF! “Free LSD”
LA拠点のハードコアパンクバンドの3rdアルバム。2014年の前作 "Wasted Years" をそんなに熱心に聴き込んだ記憶もないので、ぼくらのキースモリス!ぼくらのOFF!が帰ってきた〜というほどのテンションでもなく、本当に気まぐれに試聴したら鬼カッコ良くてたまげた。どうやらベースとドラムが交代したようで、調べたらベースは...And You Will Know Us by the Trail of Deadのメンバーで、ドラムはFlying Lotusに参加してたりソロでも活動してるジャズドラマーらしい。どうりで凄まじく手数の多い鬼太鼓。アルバムにスキット的に挿入された小曲は完全にジャズ。キースモリスも70歳を目前に控えた老人とは思えないハードコアパンクボーカル。絶えず新譜チェックしてた自分えらい!な出会い&作品。
お気に入り:Track 2 / Time Will Come
Volcano “Fool 2 Tha Game”
2022年チェックしたメタル/ハードコアの中で最も衝撃的だったのはこの作品。オハイオ州で活動中のBEATDOWN HARDCOREバンドで、話題の作品を発表しまくっているDAZEからのリリース。とにかくハードコアmeetsヒップホップのグルーヴが素敵で、手数多めでカンカン鳴り響くスネアにモッシュパートへの転調もイカつい。彼らがパフォーマンス中のフロアは地獄かも。EPなので5曲/12分しか収録されていないが、何度もリピートしてまう中毒性を孕んでいる。今最もフルアルバムが楽しみなハードコアアクト。
お気に入り:Track 2 / Disciple
Combo Chimbita “IRE”
コロンビアからニューヨークに拠点を移し活動中のカリビアン・ミュージックバンドによる3rdアルバム。トロピカル/サイケデリック/ヒップホップ/R&B/ダブの要素をごちゃ混ぜにしたような桃源郷ミュージック。確かPitchforkのレビューを漁っていて、不思議な色使いのアートワークに惹かれて試聴したのがきっかけ。ボーカルの呪術的な歌唱や英語以外の言語での節回しがとても新鮮だった。歌詞の内容が分からないので、さまざまなレビューサイトを読んだところ、性的マイノリティ、COVID-19、ブラック・ライヴス・マターなどがトピックとして扱われているらしい。特に日本で持て囃される様子もないので、来日は無さそうだが、ぜひライブが観てみたい。
お気に入り:Track 7 / Yo Me Lo Merezco
OMSB “ALONE”
SIMI LABの時からずっとソロ作も合わせてチェックしているが、今作はとにかく歌心のあるフックが心地よい。ラップもより研ぎ澄まされてフローの幅も広がったように感じる。リリックの内容も20代の若さ溢れるセルフブーストから、家族を持った優しい父親のものへと成長を遂げ、ラッパーとして確実に「Next Levelの丘」に行った気がする。MVになっている 'Nowhere' と '大衆' は、リリックの内容、フックのキャッチーさも含めて、彼のキャリアでも上位の名曲だと思うので、普段ヒップホップを聴かない人にもぜひ聴いてみてほしい。
お気に入り:Track 3 / Nowhere
宇多田ヒカル “BADモード”
前作 "初恋" から約4年ぶりにリリースされたニューアルバム。Floating PointsやSkrillexなど海外アーティストを起用したハウス/ダブステップ色の「最新」と、自身の「アップデート」を合わせた『脱J-Pop』な作品。ダンスもチルも含んだバラエティに富んだアルバムで、なぜかサウナに通う時に毎回聴いていた。恒例の顔面アップを外し、アナログ感をコンセプトに敷いた作りの特殊パッケージも、音色と共にネクストステージが感じられてとても素敵。通常盤は部屋着姿のような本人と息子さんが端に映り込んだ「日常」が切り取られたような写真で、やはり「今」の宇多田ヒカルを象徴するようなアートワークだと感じた。
お気に入り:Track 1 / BADモード
たけとんぼ ”たけとんぼ”
都内を中心に活動中のフォークロックユニット「たけとんぼ」の1stアルバム。昭和を醸すヴィンテージ眼鏡に毛量が印象的な平松さんの少しもっさりした優しい唄声に、マスコットのような愛嬌のあるきむらさんの甲高いコーラスが素晴らしく、令和にこんな良質なフォークソングが聴けるなんて!と感激。これまでにもカセットテープやEPのリリースはあったが、今作はサニーデイ・サービス曽我部さんのレーベルからリリースということもあり、ようやく世間に認知される時がきたかも。ちなみに今回のリリースに合わせて、ドラムのきむらさんが脱退してしまい、今後はどんな形態で作品を作っていくのかも楽しみ。
お気に入り:Track 7 / 恋をするなら
サニーデイ・サービス “DOKI DOKI”
解散時期を差し引いても20年以上のキャリアを誇るバンドの新譜が、どうやら「最高」を更新したらしい...というわけで、今更ながらハマる。曽我部さんの歌声も高校時代に聴いたあの頃のまま。「甘い缶コーヒー」や「昔くれたミックステープ」など相変わらずなワードチョイスもイチイチ良い。そして年末12/30、初サニーデイのライブに滑り込み。最近の曲だけでなく '青春狂騒曲' '若者たち' など俄かファンの自分でもギリギリ知ってる初期名曲を連発してくれてバチボコ楽しかった。嗚呼、バンド組みたい。
お気に入り:Track 8 / 海辺のレストラン
浮 “あかるいくらい”
東京在住のSSW、浮(ぶい)の2ndアルバム。11月から2ヶ月は仕事中も移動中もほぼこれのみ。民謡、フォーク、ジャズ、クラシック、カントリーを基盤に、音と音の間に陽炎のように揺れる歌声。耳を奪われすぎず、かと言って何もフレーズが残らないわけでもないという、色々ちょうど良い塩梅で、何度も何度も聴いた。木板に貼り付けられたマット紙のブックレット、まるで詩集のように繊細な文字組、従来の横ではなく下に合わせる帯など、随所に「こだわり」が感じられるパッケージも、楽曲とセットで素晴らしい完成度。これから大晦日やお正月の人気の少ない時間帯にこのアルバムを聴きながら散歩するのが楽しみ。
お気に入り:Track 2 / あかるいくらい
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