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【視聴録】村上健志の俳句実況(月百句Vol.8)《自作句あり》
【はじめに】
この記事では、2021年9月2日に「フルーツポンチ村上の俳句の部屋」で、行われた俳句実況「月百句」の第8回放送に参加した記録を、私の添削句や自作句を交えてご紹介していきます。
0.オープニング
前回の「スピード重視」に手応えを感じた様子の村上さん。今回も最低5句を目指して、スピード重視で行くとのことです。
(1)プレバト!! 感想戦 ~季語選びの難しさ~
当日(2021/9/2)の直前に放送された「プレバト!!」では、名人10段という地位における『季語の選び方』の難しさを痛感させられました。
中七までは完璧という内容だっただけに、『確かに季語の印象が薄い』のは私でも分かるのですが、『じゃあどの季語を選んだら良いのか』が簡単に浮かばない所が難しいですね。
第2回の金秋戦で、千原ジュニアさんが特待生(当時)ながら3位と善戦をした秀作『御出席の葉書投函秋日和』を思い出しました。
この「秋日和」の他にも、秋の季語には「菊日和」や「鵙(もず)日和」がある。どういう季語を選ぶかで『出席に丸をした心境』が乗るといった説明があったと記憶しています。今回もそれと同様、大変悩ましい選択でした。
前週に続き、木曜夜の放送となった訳ですが、「プレバト!!」の放送直後であれば注目度も高まりますし、愚痴も喜びも共有できますからねww 今後もぜひ放送して頂けたら嬉しいです!
(2)中秋の名月へのカウントダウン
動画の中で、もう『中秋の名月へのカウントダウン始まってる?』的な発言が村上さんからあったので、それに回答しましたが、まだ大丈夫です。
この俳句実況が行われた「2021年9月2日」、昨日から9月に入ったというタイミングで、旧暦を意識しない方からすると「9月15日」あたりが中秋の名月という印象かと思います。
厳密に言うと、「旧暦8月15日」が中秋の名月に当たり、毎年(太陽暦で)何月何日になるかは変わります。年によっては10月などにずれ込むことすらあることを覚えておいて下さいねー ちなみに、今年のスケジュール感は、
旧暦7月26日 ← 2021/09/02(←配信当日)
8月1日 → 2021/09/07 : 新月
8月3日 → 2021/09/09 : 三日月
8月8日 → 2021/09/14 : 上弦の月
8月15日 → 2021/09/21 : 中秋の名月
となります。カウントダウン(アップ)が始まるのは、2021年であれば9月7日から。中秋の名月は、3連休明けの火曜日(9月21日)となります。
1.席題「生姜焼き」
そんな村上さんは、他の作業をされていて夕飯をまだ食べていなくてお腹がペコペコなご様子。そこで、1つ目の席題は『生姜焼き』を選びました。
※「生姜」は秋の季語ではありますが、流石にこれは月の季語と詠んでも、季重なりの感じは弱いと思います。
生姜焼き(しょうがやき)とは、ショウガの汁を加えたタレに漬けた肉を焼いた日本料理。豚肉を基本とするレシピであり、単に生姜焼きと言えば「豚の生姜焼き」を意味する。(by 日本語版Wikipedia)
以前クイズの問題文で気付かされたのですが、「生姜焼き」といえば普通「豚肉」の事を指して、他の肉料理のことを指さないですよね。どうして、他の種類の肉では「生姜焼き」と呼ぶ機会が少ないのでしょう? 不思議。
そんな素朴な疑問はさておき、やはり「生姜焼き」というと、庶民の家庭の代表的な料理の一つ。家庭ごとの特徴なんかも伺わせるコメントがたくさん寄せられて楽しかったです。そんな中、村上さんが詠んだ俳句がこちら。
【 1句目 】
『生姜焼きのレシピを母に聞く月夜』 村上健志
本人はイマイチみたく思いながら出した様ですが、かなりの高評価。逆に、村上さんの方が驚いていました。これは生姜焼きというチョイスも良かったと思います。手堅く出来た良い句です。
『肉じゃが』や『カレーライス』等と比べても、素材も調理方法もシンプルな印象がある「生姜焼き」「のレシピを聞く」ことにどんなドラマが含まれているのか、早速、世界観が色濃く出た作品が生まれたと思います。
ちなみに、コメントで『兄にしても面白そう』とありましたが、同感です。『生姜焼きのレシピを兄に聞く月夜』:違うドラマが立ち上がってきそう。これ、父・母・兄・姉の誰でもうまく演出できそうですねー
《 Rx自作句① 》
私がふとコメントし、村上さんに拾って頂けたのが、『お弁当に入っている生姜焼き』でした。冷えてちょっと脂が白っぽくなってるという光景です。
①『生姜焼きの脂白んでゆく朝月』
これは推敲の余地が多分にありそうですが、とりあえずこの形で載せます。朝の青空に浮かぶ白い月の色を取り合わせる事で何とか俳句にした形です。
というか、普通は『生姜焼き』を俳句に入れたら、その匂いと色が周囲へと移っちゃいますよ! お弁当じゃないですがww
2.席題「シャンプー」
続いても、毎回のように選ばれている印象のある日常のグッズから、今回は『シャンプー』です。これもなんか「短歌」向きな気もしちゃいますがww
シャンプー(日本語版Wikipedia)
『原語はヒンディー語で「マッサージをして頭皮、毛髪を清潔に保つ」……洗髪自体を「シャンプー」「シャンプーする」と言う。』
村上さんは、このありきたりな句になりそうな席題に対して、全く想像もしていなかった路線の作品を出します。「CMのシャンプー」から着想を得て作ったのがこんな作品。
【 2句目 】
『シャンプーのCMのごと月の道』 村上健志
満月の光が水面に指して、まるで月に続く道の様に見える情景を「月の道」と形容することがあるそう。一般的な歳時記には載っていませんが、ここは『月百句』に掲載する句として、秋の作品として捉えましょう。
そして、シャンプーのCMで良くある「キューティクル抜群の女性の髪」を「月の道」の比喩に使うという独特の感性から出来上がった作品です。この詳細については、31分過ぎの村上さんのお喋りでお確かめ下さい。
《 Rx自作句② 》
私も「シャンプー」で句を作ろうと思います。まずは「CM」の句から。
②-1『シャンプーのCM恥ずかし十日月』
平成の中頃までは、シャンプーのCMというと、腕から上だけのカットで、女性が髪を洗っている映像が最後に流れるパターンが大半だったように記憶しています。実際どうだったかはもう忘れてしまいましたが、多感な頃は、自分よりも年上な女優さんとかが髪を洗ってるCMだけで、いささかドキッとした様な覚えがあります。続いて、
・詰め替えがめんどくさい!
・使い始めは香りを楽しめるけど、段々匂いに慣れちゃう
などとコメントされていた「N」さんに惹かれて作ったのがこんな句です。
②-2『居待月きみのシャンプーにも慣れて』
あれか、寧ろ短歌っぽいというか、こっちの方が「CMのキャッチコピー」っぽくなっちゃってるかww でも、シャンプーの匂いに「慣れる」というのは、人によってタイミングが違うから面白いですよねー。
3.席題「地名」
ここまで30分で2句作っている村上さん。3つ目の席題には「地名」という極めて広いものが選ばれました。「地名」というテーマに真っ向勝負せず、「東京」も「日本」も、それこそ「地球」に「月」だって地名だ! なんてコメントも来ていましたが、まあまあここは修行ですからww
全国各地の地名がコメント欄で飛び交う中、村上さん、おもむろにこんな句を出してきました。それがこちら。
【 3句目 】
『敵味方どっちだ 東京の月よ』 村上健志
「プレバト!!」でも意識して「五七五の定型」を心がけてるという村上さんですが、今回は大胆な破調で来ました。東京の月への呼びかけということで最後まで迷って1音『よ』を最後につけて発表されました。
東京という街に染まってしまって、『月』ですら敵・味方を疑ってかかってしまう姿。これが別の地名だったらまた違ったものになるあたり、これだけのものを10分そこらで作ってしまうのは流石「名人」の一言です。
《 Rx自作句③ 》地名:月出の中央構造線
私も、「地名」を盛り込んだ句を作ろうと意気込んだのですが、そもそも論として「地名」というテーマがあまりにも広くて途方にくれました。だって
こんな記事を作るぐらい「地名の俳句」に触れている人間としては、ほぼ「フリー」と言っても良いテーマですよ、こんなの!ww
ということで今回は、『月百句』に入れるにふさわしい地名を考えました。そしたらやっぱり「月」を地名に含むものだろう、と。
③『野分だつ月出の中央構造線』 Rx
これまた「アポロ杯」に出したの以上に技巧的に心酔した作品になってしまいました。解説をしますと、
『月出の中央構造線(月出露頭)』とは、三重県松阪市内にある大規模な「中央構造線」の露頭(地層などが露出している場所のこと)の名前です。
そして、「野分」が古くからの言葉で台風のことを指し、上五の実の季語「野分だつ」とは、「台風が近づいて風が吹き始める」印象の言葉です。
本来、「月百句」の趣旨とは外れてしまいますが、この句は「月(の)出」という季語っぽいものを固有名詞の中のものとして『虚』とし、この固有名詞の存在を知っていなければ意味が伝わりづらいという作品なのです。
こういうのも「月」と「地名」というテーマならではで出来た俳句ですな。
4.席題「一物仕立て」
『40分で3句できている』のを早いとコメントしたところ、村上さんは自らを鼓舞する声として捉え、奮い立たせて4つ目の席題に向かいます。それが大変むずかしいとされる『一物仕立て』の句です。
村上さんの句では、名人昇格を決めた『夜晴れにペリッと剥がせそうな月』や今回披露した『シャンプーのCMのごと月の道』は「一物仕立て」っぽい作品ですよね。もちろん今回の配信で初めて聞いた方も多いかと思います。『一物仕立て』とは一体何か。
「一物仕立て」:季語のこと(成分)だけで一句が出来上がっている句
と私の記事の中では要約していました。世の中の9割以上の句は、「取り合わせ(二物衝撃)」といって、季語とそれ以外の要素を組み合わせて作られた俳句です。「一物仕立て」の句は、全体の1割にも満たないほど希少で、なぜ珍しいかと言えば作るのが格段に難しいからです。
具体例を一つご紹介します。江戸時代中期の代表的な俳人である与謝蕪村(よさ・ぶそん)の名句に関する動画内での私のコメントを引用します。
51:14 Rx Yequal
与謝蕪村の「春の海終日(ひねもす)のたりのたり哉」は、『春の海』のことだけで俳句を作っています。こういうのを「一物仕立て」といいます。
そして、村上さんは、『春の海のたりのたりと船進む』だと、「船」という存在が出てくるから「一物仕立て」ではなくなると補足して下さいました。
58:39 犬次
月のことを客観視している句作者はいてもいいのかな?一物仕立ては
↓
59:50 Rx Yequal
本物の一物仕立ては、「普通居る作者の存在を感じさせない」から稀有で難しいんです。(そんなん10分で句を作るの無理ですがww)
思わず『ヤバいの選んじゃったなー、勢いだな勢い』と本音を漏らします。それでも、20分あまりで一物仕立てっぽい作品が出来上がります。まずは、
【 ボツ句 】
『球から円になって満月』 村上健志
凄いことを仰ってて、「全く欠けていない真円の満月は『円(平面)』っぽく見えるが、僅かにでも欠けがあると『球(立体)』に見える」とのこと。この感性、着眼点に行き着くあたりが稀有ですよね、凄い。
残念ながら、俳句の形になっていないということでボツになりましたが、私もこれを何とか形にしようと試みています。例えば、
【 Rx推敲案 】
『欠け初めばこそ厚みを帯びてゆく満月』
みたく「球」や「円」から脱することで、月を描写できるかなと思います。それから数分、村上さんが提示したのが、
【 4句目 】
『膨らみの消えて完璧の満月』 村上健志
という作品でした。『満月』に「完璧」という言葉を付けることの是非は、人によって評価が分かれそうですが、苦心の上での一物仕立ての作品ということで、そもそも発想(着眼点)が素晴らしいと思いました!
ちなみに私はコメント欄での推敲案として、
【 Rx推敲案 】
『膨らみきつて本当の満月』
というのを提示させてもらいました。「消えて」と「完璧」を少しマイルドにしてみたらどうなるかなって思って。色々これも推敲が出来そうです。
《 Rx自作句④ 》チャレンジの「一物仕立て」句
私も軽いノリで作ることにしました。自身初となる「一物仕立て」の『月』俳句です。「一物仕立て」の句の作り方については、夏井いつき先生の著作にもあるやり方で挑んでみました。
本の中で授業を受ける俳句初心者の方もやっていた手法とは、コメント欄でGustavさんという方が仰ってた、季語そのものを良く観察するというもの。今回は、実物の「月」を見る余裕が無かったので、Google画像検索を通じ、まじまじとしげしげと月の画像を観察して、新たな発見を見つけるのです。
そこで私が作った「一物」っぽい作品がこちらです。
④『ティコから四方に剥けさうなる満月』 Rx
皆さん、ティコってご存知ですか? 『七つの海』じゃないですよ? 一応これ「一物」のつもりで作ってますからね。
ティコとは、月の南部にある巨大なクレーターです。(名の由来は天文学者ティコ・ブラーエ) その大きさは数百年前から知られ、現代でも双眼鏡で識別することができるほどです。
これが私には、蜜柑やトマトなどの蔕(へた)の部分に見えたのです。
ティコは月の部分の名称ですから、「鷹の羽」や「どんぐりの先端」みたく『二物』というより『一物』の範疇と捉えて欲しいそんな句です。村上さんの『ペリッとはがせそうな月』のリスペクト作品でもあると捉えて下さい。
※極端に言ってしまえば、この「ティコ」というのも、月の「地名(3つ目の席題)」を兼ねた作品でありますねww
5.席題「ぬいぐるみ」
最後のテーマは、こちらも身近な存在である「ぬいぐるみ」です。何となく今回は「短歌」を作りやすそうな席題が選ばれている印象がありますね。
私はあまり子供の頃から「ぬいぐるみ」を持ちたいと思わなかったですが、老若男女を問わず愛好家が多い「ぬいぐるみ」。やっぱり最初に連想するのは「テディベア」のようです。
私もセオドア・ルーズベルト米大統領のあだ名に由来するなんてトリビアを交えつつ、「ぬいぐるみ(テディベア)」エピソードに思いを巡らせます。村上さんは俳句をやる人間にとっては、「テディ」の部分を2音に縮めて読むのか「テディー」と伸ばして3音とするのかが気になるようですがww
そうこうしてるうちに流石は村上さんという着眼点の句が出来上がります。やはりお優しい方なのでしょう。家族の光景から、ほっこりするこんな句。
【 5句目 】
『テディベアの声は低音月の雪』 村上健志
熊のぬいぐるみである「テディベア」を、大人が子供に「声真似」をする時って自然と「低音」になりませんか? という投げかけを込めた作品です。くまのプーさんは比較的高い声ですが、テディベアで「あやす」時の声は、確かに自然と低くなっているような気もしてくる、面白い気付きの句です。
ちなみに、私なら、『低音』が少し固い気がしたので、
【 Rx推敲案 】
『テディベアの声まね低き父や月』
みたく分離してみました。如何でしょうか? では、私の5句目です。
《 Rx自作句⑤ 》
生配信の中でも「水族館」のお土産コーナーの『ぬいぐるみ』という発想が非常にキラキラしていたので、今回それで作ってみました。
⑤『月涼し水族館にぬいぐるみ』 Rx
今回は下手な小細工を使わずに、オーソドックスな作り方をしてみました。何のぬいぐるみかも明示せず、水族館の特徴も言わない。でもそれなのに、何故か愛着や哀愁が詠み手に伝わったら良いなと考えた次第です。
【 おわりに 】
今回も、スピードを意識した俳句実況となりましたが、「一物仕立て」など難しいテーマがありつつも1時間半で5句できれば上出来だと思います。
私もやったことのないアプローチで6句できましたので、楽しかったです。
①『生姜焼きの脂白んでゆく朝月』
②-1『シャンプーのCM恥ずかし十日月』
②-2『居待月きみのシャンプーにも慣れて』
③『野分だつ月出の中央構造線』
④『ティコから四方に剥けさうなる満月』
※1『欠け初めばこそ厚みを帯びてゆく満月』
※2『膨らみきつて本当の満月』
⑤『月涼し水族館にぬいぐるみ』