【参加録】村上健志の俳句実況(月百句Vol.12)《自作句あり》
【はじめに】
この記事では、2021年9月16日に「フルーツポンチ村上の俳句の部屋」で、行われた俳句実況「月百句」の第12回放送に参加した記録を、私の添削句や自作句を交えてご紹介していきます。
「プレバト!!」の金秋戦の予選が終わった直後ということで、木曜日の20時スタート。今回は、スピードを意識するだけでなく、「1時間」で終了するという更なる縛りを設けての「俳句実況」となりました。
1.席題「頭痛」
最初の席題は「頭痛」と決定。ちょうど秋も半ばに差し掛かって、台風14号が勢力をあまり落とさないまま日本列島を横断するという予報が出た当日。また、「月」って何か人間の体に(悪くも)作用しそうな感じがしますね。
村上さんは「頭痛持ち」ではないらしいのですが、人によっては本当に死活問題で、日常生活を送ることが難しくなるほどと聞きます。まして、遠出や不慣れな生活に身を置かなければならなくなると、さぞかし大変でしょう。
そういった「人」の存在を、「モノ」に託した村上さんの1句目がこちら。
【 1句目 】
『薄月夜リュックの底に頭痛薬』 村上健志
季語が「薄月夜」であることで、「頭痛」とも呼応し合っています。
森口瑤子さんの『花疲れリュックの底の底に鍵』などにも共通するリュックの底にあるドラマの句ですね。多分、持病のない人がリュックに入れるのは頭痛薬ではないと思います。
例えば、バス旅行なら「乗り物酔い」とかでしょう。だからきっとこの作者は「頭痛」に不安を抱いているのだろうと想像できます。本当に素敵です。
《 Rx自作句① 》
村上さんは「頭痛」という季語をモノに託しましたが、私は「頭痛」という現象にフォーカスしてみました。例えば、こんな句いかがでしょう。
①『お見舞いの君には頭痛のフリを 月』 Rx
イメージしたのは、ちょっと気になる異性のクラスメイト……流石に妄想が過ぎるかww でも個人的には好きなシチュエーションなので詠みました。
あと、鍼なんてのも出来たら詠んでみたいなと思ったアイディアでしたね。
2.席題「髪型の名前」
村上さんは、1句目を終わった段階で、かなり悩んだと焦っておられましたが、実際には(冒頭の雑談もあったので)10分ちょっとで1句が完成しています。やっぱり意識することは大事ですね。
2つ目の兼題は、「頭痛」からはもう少し広がって「髪型の名前」に決定。
こういうときのアイディア出しに役立つのが、「ネットの一覧」でしょう。有りがちなものからニッチなものまで揃っているものは、それらを眺めているだけでも句材が見つかりそうです。
ちなみに、村上さんは、2句目も10分ほどは悩んではおられましたが、結構すんなり出来上がりました。
【 2句目 】
『浴室のオールバックや夜半の月』 村上健志
これは本当に基本に忠実な型で、非常に手堅くまとまっていると思います。「浴室」ではなく「風呂場」などとするのも提案されていましたが、村上さん、考えましたが音数的にしっくり来なかった様です。
でもこうしてサクサク作っていくのは大事ですねー
《 Rx自作句② 》
私も先ほどリンクを貼った「ピクシブ百科事典」などを使って、まだあまり俳句になっていなさそうな髪型の名前を探してみました。例えば、
②-1『辮髪とは絡みさうなる文字や 月』 Rx
東アジアの北方民族の髪型として、世界史の資料集等でも見かけるであろう「弁髪(べんぱつ)」を詠んでみました。我ながら、テーマが無ければ出来ない句だったなぁww と感じてしまいます。
ちなみに、コメント欄で私は「大銀杏(おおいちょう)」と書きましたが、「大相撲秋場所」と力士の大銀杏は相性良い気はしますが、やっぱり漢字で「銀杏」と入ってしまうと、そこに引っ張られるでしょうから、句作するのは案外難しいのかも知れませんね。
もう1個、こんな髪型を詠んでみようと思いました。村上さんは、配信内で「ツインテール」などを現実にはあまり見かけないと仰っていましたけど、こちらもかなり見かける機会少ないと思いますよ? 『縦ロール』です。
②-2『控えめに縦ロールして月の夜は』 Rx
画像はアニメに特化したものですが、現実世界の女性がなさる「縦ロール」はオシャレで主張控えめな印象を受けました。まあこれも妄想ですわww
3.席題「矢印」
先ほどの「髪型」に比べて、実景を確保するのが難しそうな席題の「矢印」が3つめの席題。矢印って世に溢れているはずですが、改めて思い出そうとしても浮かんでこない、そんなテーマだと思いました。
思い思いの矢印が飛び出す中、私もコメントをさせて貰った「順路」というアイディアから、村上さんはこんな句を作られました。
【 3句目 】
『矢印に逆らい進む月の寺』 村上健志
大きな寺社だと、由緒ある順序で「順路」と書かれた矢印がありますよね。まあ、そんな順路を示すほどの大きい施設だと、「月」の浮かぶ夜の時間帯には境内などに入れないという村上さんの判断も一理ありますが、とってもオシャレで個人的には好きです。
ちなみに、私としては、コメントでも書いたとおり、
【 Rx添削案 】
『「順路→」から逆らい進む月の寺』
というのも考え、村上さんにも納得して頂けましたが、まあ今回の席題が、「矢印」ですから、その言葉を残したいという作者のご意見を尊重させてもらいました。「寺」と「逆らい」を持ってくるあたり、流石は名人です。
《 Rx自作句③ 》
♪ 上がってんの? 下がってんの?
皆はっきり言っとけ!(上がってる!)
『マルシェ』/KICK THE CAN CREW
早速、約20年前の紅白出場曲を振り返りましたが、上下左右、様々な思いの籠もった「矢印」に思いを巡らせつつも、最初に浮かんだのは、数学II・Bに登場した「ベクトル」でした。
③-1『大問5.は解けぬベクトル窓に月』 Rx
大学入学共通テストでも選択問題のベクトルは大問5.だったみたいなので、「模試」のイメージで作りましたが、うまく行っているかは微妙ww
4.席題「イヤフォン」
続いてのテーマは「イヤフォン」と決まりました。矢印に比べると、実体験も実景も描きやすい作品ではないでしょうか。
スピードを意識した結果、最初の句から「11→10→9→8分」みたいな感じでどんどん作句ペースが上がっています。もっと良い季語を求めていましたが、結局『月を待つ』に落ち着き、こちらの句が完成します。
【 4句目 】
『月を待つイヤフォンジャック抜きとって』 村上健志
ただ「イヤホン」を抜くだけでなく、「イヤフォンジャック」ごと抜き取るという部分に、オリジナリティの確保を目指した作品。確かに、イヤフォンジャックを抜くのってちょっと気持ちいいですよねww
《 Rx自作句④ 》
さて、イヤホンというと個人的には声優ユニット・イヤホンズを思い浮かべてしまいつつ、私も作句していきましょう。
アニゲ関連から、2021年9月15日(旧暦8月9日)のニュースとして、Nintendo SwitchがBluetoothに対応するアップデートをしたというものがありまして、イヤホンという語は入っていないんですが、こんな句を作ってみました。お遊び8割でご了承ください。
④-1『弦月やBluetoothをSwitchに』 Rx
そして、もう1句。イヤホンを仕事場に置いてみました。
④-2『指示待ちのイヤホン 月夜のラジオ室』 Rx
「指示待ち」は「プレバト!!」などでも使われているので、拝借してる感はありますが、それでもやっぱりこの「言葉の経済効率の良さ」が光ります。
5.席題「工場」
勢いに乗って5句目まで作る村上さん。それも1時間というタイムリミットを設けて、意識して作っているからだと思います。
村上さんも「タイムスタンプ」を設定していて、気づかれたと思いますが、1句ごとに作句時間が短くなっているという非常に良い状態でした。
工場の夜景に、煙突に、と発想を広げていく村上さんですが、作句開始から僅か5分というところで、ある気づきを得て、今日5句目が完成しました。
【 5句目 】
『月に雲故郷は煙突の町』 Rx
↓
『月に雲ふるさとは煙突の町』
「故郷」というと、多くの人が田舎(田園風景)を無意識に想像してしまうけど、人によっては「工場町」を故郷とする方もいるはず。そんなことに思いを馳せての作品だそう。(村上さんが工場町出身ではないそうですんで)
確かに、季語を始め、詩歌・俳句の世界では「固定観念」な最大公約数的な印象の持つ力が強いと思うので、これは確かに良い気づきの作品ですね。
ちなみに、下に添削例として書かせてもらっているのですが、「雲故郷」と漢字が連なってしまうので、音数的にも「ふるさと」と平仮名で書いても、誤読を避けられるし良いかなと思って提案させてもらい、村上さんにも採用していただけました。
「煙突の町」とすると、必ずしも工場だけでなく、銭湯や温泉街などの読みも自然と出来ますから、奥行きの広い作品になっていると思いました。
《 Rx自作句⑤ 》
さて、こんな綺麗な作品が出来た後に、私の「工場」の句のターンですが、ここは少し社会問題に切り込もうと思います!(大風呂敷)
⑤-1『更待月『女工哀史』は百年前』 Rx
最初に「工場」と言われて思い浮かんだのが、『女工哀史』でした。やはり学生時代に社会科(歴史)の授業で、劣悪な労働環境を教わった時のことが印象に残っていまして。
そして、『女工哀史』の発表が1925年ですから、約100年前です。決して、遥か昔と呼べるほど過去のことでないことを再認識しました。
だって日本国内もそうですが、世界にはこうした現状がありますでしょう。中田敦彦のYouTube大学でも取り上げられた「闇」です。
⑤-2『宵闇の瓦礫に供花ラナ・プラザ』 Rx
【おわりに】
今回も「テーマ」が無ければ、まず作句しなかったような作品が次々と生み出された印象でした。皆さんはどんな句が印象的でしたか?
私も作句が進んでいます。皆さんも、もし機会があれば1句捻ってみてね!
①『お見舞いの君には頭痛のフリを 月』
②-1『辮髪とは絡みさうなる文字や 月』
②-2『控えめに縦ロールして月の夜は』
③-1『大問5.は解けぬベクトル窓に月』
④-1『弦月やBluetoothをSwitchに』
④-2『指示待ちのイヤホン 月夜のラジオ室』
⑤-1『更待月『女工哀史』は百年前』
⑤-2『宵闇の瓦礫に供花ラナ・プラザ』