ラジオNHK-FM「アニソン89秒の世界」を振り返る
【はじめに】
この記事では、2021年11月23日(勤労感謝の日)にNHK-FMで放送された、ラジオ特別番組「アニソン89秒の世界」を振り返ります。
0.オープニング
23時00分の時報の直後に、花澤香菜さんの「せーのっ!」という掛け声から始まり、神前暁がタイトルコールからのピアノ演奏で幕を開けたこの番組。
花澤香菜さんがNHKラジオでMCを務めるのは恐らく、2011年度に担当した「エレうた!」という“コンピュータ合成ソフト(要するにボカロなど)”を使った楽曲を紹介する(新しすぎる)番組以来10年ぶりかと思います。
キーワード「89秒」について、『89はキリの悪い数字』だが「90秒のアニメの尺のうち、前後0.5秒は前後の番組とのバッファー(余白)として設定するため、アニソンクリエイターは89秒で納品する」との説明が、神前さんからなされました。
今日のゲストは、「アニソン界の貴公子なのに“三枚目売り”をしたがる所がイラッとする」と神前さんに語って紹介された方が本日のゲスト!(↓)
※ただ、厳密には“三枚目売り”してるのはカタカナのオーイシマサヨシで、今日はクリエイター/シンガーソングライターである大石昌良とのこと。
1.『恋愛サーキュレーション』
アニソン番組を担当していたり、生粋のオタクである大石昌良さん『物語』シリーズでの最推しが花澤さん演じる「千石撫子」とのことで、冒頭の「せーのっ!」に相当高まったご様子。その掛け声について、
「せーのっ!」ありきで曲を作るはずがない。通常、言葉のつく部分は作詞家マターだが、「せーのっ!」については作曲家である自分発信であることが語られ、神前さんの声での可愛らしいデモ音源がオンエアされます。
続いてラップ部分についても、神前さんが「ここはラップでーす」みたいに適当に歌ってデモ音源を作ったという話題になりますが、それは実際の音源が用意されることな……い代わりに、『試しにやって下さい』との指示が。
今や、中国など海外でも大人気の同曲を、結局TVサイズ歌いきるという豪華な幕開けとなりました!
2.『ようこそジャパリパークへ』
「自分も『萌えソン』作曲家と言われることが多い」と前置きした上で神前さんが選んだ大石さん製作の1曲目は『ようこそジャパリパークへ』です。
作詞も担当する大石さん、この「ドッタンバッタン」は音符も言葉も同時に出てきたパートとのこと。
ちなみに、当時流行っていた「似てる曲を教えてくれるアプリ」にこの曲を掛けると、通常3曲ぐらいしか出てこない候補曲が、ズラーッと30曲ぐらい出てきたんだそう。確かに聞いてみると色んなモチーフを詰め込んだ楽曲、
オープニングは「アルプスの少女ハイジ」みたいなホルン
『笑い笑えばフレンズ』のとこのコード進行はブルース感
(女の子が歌っていなければ結構な感じ)
各所はブルースっぽいのに、まとめて聴くと最先端のアニソンにしか聞こえないという「まとめ方」が上手いなと、神前さんは絶賛をしていました。
それの最大の要因は「BPM」だったと大石さんは振り返っていて、BPMが1でも違えば曲の雰囲気が変わってしまうと語っています。(ただ、花澤さんの様な歌い手側からすると息継ぎとかが大変だそうですがww)
シンセサイザーVer.で、製作委員会に初めて提出した「デモ音源」は、殆ど出来ているものの、完成版と比べると若干リテイクがなされた跡があり、
冒頭にホルンの音がない
← ずばり「ハイジっぽいホルンの音」という発注があった尺やBGMを確保するため、サビ後(君をもっと知りたいな)
の部分を2まわし から1まわし に短縮する「節約」
といった「苦肉の策」(結果的には正解)が取られたことも明かしました。
個人的には、「89秒という尺」が決まっていて、そこに盛り込むための工夫というのが、「17音という俳句の器」が決まっていて、そこに盛り込むために音数や語順を節約する過程との共通点を見つけた気がしましたねぇ。
さらに、たつき監督から「ちょっと都会的過ぎる、もっと歪というか不確定要素を入れて欲しい」というオファーがあり、そこで入れたのが「クイーカ」という民族楽器の音だったそう。
大石さんが思わず「ゴン太くんの声」とタネ明かししてしまいましたがww(ここNHKですよww) 元はブラジルの打楽器で、「けものフレンズ」の中で使われると、アフリカっぽさも感じる音色となっています。
しかも、この曲のイントロなどのクイーカは、大石さん自らが演奏していたそうで、楽器屋で購入し2時間教わった上で何度もリテイクしたんだとか。
そして、メロディーについても、半音進行だったり、「Oh, welcome to the ジャパリパーク!」の部分の「パーク」が完結せず半音上げている所などを細かく神前さんが関心しておられました。
3.『もってけ!セーラーふく』
大石さんが推したい神前さんのアニソンは、『もってけ!セーラーふく』。ちょっとどころじゃなく変わっている楽曲ですよねー
番組名が「アニソン89秒の世界」ですが、冒頭の寸劇を含めて89秒なので、曲そのものは85秒ぐらいで提出をしたという所から始まるあたり、アニソンクリエイターによる番組らしい着眼点です。
曲がショート(尺より短い)ではあるものの、完成されていたので、埋める場所もなく、かといってBPMを下げると曲の雰囲気が変わってしまうので、ならば「寸劇とかセリフ」を入れようという結論に落ち着いたそうでした。(今だったら怖くて出来ないとのこと)
大石さん一番凄いなと思ったのが「コード」で、「コード進行というが、進行しない。一個(F7)=ワンコードでCパートまで行っちゃう勇気」を絶賛していました。
30小節以上ワンコードという長いタメを作った上で、「B♭」が入ってきた時の開放感が心地よいと大石さんは分析してました。(神前さんはそういうことを考えずに作っていたそうで、紆余曲折の跡をデモ音源で吐露します)
直後に流れた門外不出の「ファースト・デモ」は、ある意味オシャレですが現在の曲とは似ても似つかない感じで、大石さんは「手を叩いての爆笑」。神前さんは「ちょっと困ってる感じが出てる」と評していました。
この第一稿は、『全然ダメ』で『何か違う』と言われてしまって、全面的にリテイクすることに。ただ、『聞いたことない感じ』を求められたとて、「聞いたことない曲は作れない」と思いながら、現在の形になっていったんだそうです。
4.『インパーフェクト』
神前さんが最近の曲で特にスキだったのが「インパーフェクト」だったそうです。
「なんなら自分が書きたかった、こういう曲スキなんです。」と神前さんに言わしめる様な楽曲で、改めて自分で聞いた時に「89秒への収め方が綺麗」と語った『インパーフェクト』は、ロボットアニメ『SSSS.DYNAZENON』の主題歌。
大石「今まで放送されてきたロボットアニメってたくさんあると思うんですけど、その中で今まで使われてきた音だったり歌詞だったり音符感だったりって脈々とアニソンファンの方の中に受け継がれていると思う。そういった方々をちょっと刺激したいなと思って」アレンジなどを工夫したとのこと。
冒頭のシンセサイザー(16分音符のピコピコ)は完全に『アクエリオン』
楽器の構成とかも『創聖のアクエリオン』を参考にしていたと語りながら、結局、『インパーフェクト』をTVサイズ歌いきってしまいましたww 花澤「もうライブですよ~」と歓喜してしまいます。また、神前さんは大石さんの歌唱にピアノを演奏しながら、
モーダルインターチェンジ(借用和音)
ブラックアダーコード(分数aug)
※不協和音的なのを2小節「聞かせたかった」だろうな
など、必殺技のようなww 音楽専門用語が連発しながら神前さんに分析をされ、大石さんも恥ずかしくなる程のアニソン・音楽愛が展開されました。
大石「良く聞いてますね! 下手こけないですね!」 神前「相互監視社会みたいなww」 大石「ディストピアの始まりや!」と語り合いました。
筋肉のように、縮めて伸ばして。「緊張と解放」の連続を意識した楽曲だったとのこと……
5.エンディング
と語っているうちに、早くも50分番組のエンディングを迎えることに!
と語り、締めに。アニソンの聞き方については、神前「最初は何も考えずに聞いて、覚えた頃に細かく聞いてみると面白いかも知れないです」と聴取者に語りかけました。
出演者(私含め)がレギュラー化希望! な感じの締めくくりとして、最後に「せーのっ!」で締めようとする3名。
しかし、花澤さんが「せーのっ」の前の「せーのっ!」を言おうとしてタイミングが合わず、gdgdのままエンディングを迎えるという辺り、ある種の「花澤さん」らしさだったり、NHKらしさを感じる締めとなりましたー
番組内でオンエアされたデモ音源については、NHKのラジオアプリ「らじる★らじる」で、放送終了後1週間(すなわち、11月30日まで)は聞けますので、ぜひ興味ある方、間に合いましたら聞いてみて下さい!
では、次回(あるかは未定ですが)の記事でお会いしましょう。Rxでした。