競馬の歴史を学ぶ ~無敗での古馬混合G1制覇~

【はじめに】
2021年の「大阪杯(G1)」は、5戦無敗の牝馬レイパパレが4番人気という評価を覆す圧勝で、大きな話題を集めました。2・3歳限定競走とは各段に難しくなる「無敗で古馬混合G1を制覇した(JRA)馬」を見ていきます。

(0)無敗での古馬混合G1制覇の難しさ

レイパパレが特筆されるのは、芝の「古馬混合G1」を、4歳になってから、無敗で制覇したという点です。しかも、決して相手に恵まれた訳ではなく、完勝した内容だったからこそ、その評価は更に高まりました。

2・3歳戦であれば、キャリア的にも「無敗」でG1を制覇することは、そこまで珍しくありません。また、1930年代頃まで遡れば、

・1934年 帝室御賞典(春・東京) ミラクルユートピア
・1935年 帝室御賞典(春・東京) クレオパトラトマス

は、いずれも現3歳、ダービー前に開催された帝室御賞典を制しています。しかし、戦後の八大競走を見ても、さすがに「無敗で古馬混合競走を制覇」した事例は見当たりませんでした。それこそ、時代は前後しますが、

・1984年 ジャパンC3着 シンボリルドルフ
・2005年 有馬記念 2着 ディープインパクト
・2020年 ジャパンC2着 コントレイル

無敗のクラシック三冠馬も、初の古馬挑戦となったレースで連勝が止まっていることからも、その難しさがお分かり頂けるかと思います。

(1)2002年・エリザベス女王杯 ファインモーション

デビュー戦で牡馬相手に圧勝をするも、骨折により8か月の休養。フランスオークスへの遠征の話もあったという逸材は、3歳夏に復帰すると北海道の条件戦を5馬身差で連勝。さらに、ローズS → 秋華賞まで制して、土付かずの5連勝でGIホースとなります。

4→5→5→3→3 1/2馬身差と底知れぬ強さを見せるファインモーションに古馬混合戦である「エリザベス女王杯」でも1.2倍断然一番人気となります。

馬場鉄志アナウンサー
「ファインモーション、新しい歴史の扉、今開かれました!
 歴史的なスターの誕生です、ファインモーション!」

エリザベス女王杯を勝った翌月、「有馬記念」に挑戦し、1番人気に押されるも、同世代の牡馬シンボリクリスエスに1秒差の5着と敗れ、7連勝での有馬記念(無敗)制覇とはなりませんでした。
その後もGIIを2勝はしましたが、GIを勝つことは出来ず、15戦8勝で引退。

ちなみに、「ニコニコ大百科」は、こんな言葉で締めくくられている。

かなり人間に振り回された感が否めない。
人間によって損なわれた偉大な馬のプライドは、誰によって償われるのか。ある馬とファインモーションを見ていると悲しくなってしまう。

ちなみに、全く同じく5連勝で秋華賞を制し、エリザベス女王杯制覇を目指した2006年のカワカミプリンセスは、1位入線も12着降着となり、連勝ストップ。その後も6歳まで走って1度も勝てず引退しています。

(2)2019年・チャンピオンズC クリソベリル

続く2例目はダート界から。2019年のクリソベリル。新馬戦を7馬身差圧勝すると、半年後の条件戦も同じく7馬身差の圧勝。秋にかけて、ジャパンダートダービーなど交流重賞を3連勝、通算5戦5勝で中央競馬に戻ります。

秋の「チャンピオンズC」では、4.4倍の2番手評価となったものの、ゴールドドリーム、インティ、チュウワウィザードといった実績馬を相手に、無傷6連勝でのGI制覇を果たします。

中野雷太アナウンサー
「古馬の壁など関係なし! 着差は僅かを……6連勝、無傷の6戦全勝! 5番・3歳馬クリソベリル、新王者に就きました!」

3歳までを無敗で終えたクリソベリルは、翌2020年、第1回「サウジC」に出走するも初の敗戦となる7着。そして、ドバイワールドCも開催中止となりましたが、国内復帰し、帝王賞とJBCクラシックと交流GIを連覇します。

しかし、連覇を目指した2020年のチャンピオンズCでは1.4倍の1番人気に押されるも、(翌年のドバイワールドCで2着となる)チュウワウィザードの4着と、国内初黒星を喫しました。

(3)2021年・大阪杯 レイパパレ

ここまでの例はいずれも3歳時のGI制覇でした。しかし、4歳になって初めてGIに挑戦したのが、2021年・大阪杯に出走した「レイパパレ」でした。

3歳1月にデビューし、休養あけの6月に1勝クラス、7月に2勝クラスと条件戦を制して3戦3勝。条件馬の身ながら「秋華賞」に出走登録。4/6の抽選から外れて代わりに出走したのが「大原S(3勝クラス)」でした。

岡安譲アナウンサー
「これはもう完勝だ、いやぁ秋華賞で見たかったこの走り、レイパパレ1着、4戦4勝~! いやぁ、つくづく安藤さん、秋華賞除外になったのが残念ですねぇ。」

と、無敗での牝馬3冠を達成した「デアリングタクト」の最大のライバルになっていたのではないかとも言われるほどの圧勝でした。

続く、重賞初挑戦となった年末の「チャレンジC」では、掛かるレイパパレを何とか川田騎手がなだめて重賞初制覇の5連勝。

素質は感じさせたものの、気性面に課題が窺えたほか、やはり重賞(GIII)1勝ということもあり、初のGI挑戦となった2021年・大阪杯では、ある程度の注目は集めたものの、単勝12.2倍での4番手評価でした。

1番人気 コントレイル  (無敗の牡馬3冠馬)
2番人気 グランアレグリア(最優秀短距離馬 二千での3階級制覇に期待)
3番人気 サリオス    (コントレイルに春2冠2着)

重馬場となり、雨で白くボヤけた阪神競馬場を鮮やかに駆け抜けます。

川島壮雄アナウンサー
「何とレイパパレ! 底知れぬ魅力、無敗馬レイパパレ! 3冠馬も、快速馬も、サリオスも退けました!」

着差としても、過去2例をも凌ぐ「4馬身差」。雨や重馬場が影響したかも知れませんが、単勝12.2倍が“軽視”だったと認めざるを得ない程の完勝っぷりでした。

(参考)過去2例のジンクス

偶然でしょうが、過去、無敗で古馬混合GIを制した馬たちは、「5戦5勝」のキャリアでGIを制し、「6連勝」まで伸ばしています。しかし、ファインモーションは有馬記念、クリソベリルはサウジCで、更に格上の相手に完敗を喫しています。

注目されるのは、レイパパレが無敗を「7」以降に伸ばせるかどうかです。

7連勝 キタノダイオー
8連勝 マルゼンスキー
9連勝 ※トチノイナリ(地方・アラ系)
10連勝 トキノミノル
11連勝 クリフジ

などと生涯無敗馬の連勝に肩を並べることになると共に、上記の名馬たちも、古馬混合の八大競走格を制した訳ではないので、「無敗で混合GIを制覇した馬が次走で敗れる」というジンクスを打ち破って欲しいところです。


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