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「競馬の歴史」を学ぶ ~顕彰馬直接対決(その1)~

【はじめに】
今回の記事は、日本中央競馬の「殿堂入り」に当たる『顕彰馬』について、直接対決した事例について、振り返っていこうと思います。

数年に1頭ずつのペースで誕生している「顕彰馬」ですが、様々な巡り合わせもあってか、全部で顕彰馬は34頭いるのに、対決の組合わせは6パターンしかありません。

実は、それこそ、十数年に1回といったペースのこともある「奇跡の瞬間」なのです。さて、過去にはどういったケースがあったのでしょう。「競馬の歴史」を紐解いて参りましょう。

1.メイヂヒカリ vs ハクチカラ

史上初の「顕彰馬」対決となったのが、第1回「中山グランプリ」です。と、言われても、競馬史に馴染みの無い方からすると聞き慣れないレース名かも知れません。これ、「第1回有馬記念」のことです。

プロ野球のオールスターにヒントを得て、1956年に創設された同レースは、ファン投票で出走馬を選ぶレースとして、日本競馬史上でも画期的でした。

初回を成功させようと(?)集まった12頭のうち、半数以上が重賞馬でした。ちなみに出走馬のうち2頭が、後に顕彰馬になっていて、史上初の直接対決の事例となります。「メイヂヒカリ」vs「ハクチカラ」です。

第1回・中山グランプリ出走馬(抜粋)
1番 3人気 キタノオー  同年の菊花賞馬
3番 1人気 メイヂヒカリ 前年の菊花賞馬、同年の天皇賞春馬
4番 6人気 フアイナルスコア ニュージーランド産馬
6番 4人気 フエアマンナ 同年オークス馬
7番 2人気 ダイナナホウシユウ デビュー11連勝、現6連勝中
8番 7人気 ミツドフアーム オーストラリア産馬、大井転厩組
9番 8人気 ヒデホマレ  前年の中山記念や同年中山改装記念を優勝
10番 12人気 ヘキラク   同年の皐月賞馬
11番 5人気 ハクチカラ  同年のダービー馬

クラシック出走が叶わない南半球馬に加え、同年牡馬3冠を分け合った3頭が揃い、春・秋の天皇賞馬まで揃っています。

後の顕彰馬・メイヂヒカリは1番人気に推されている一方、同ハクチカラはダービー馬でありながら秋にやや勢いを落としていたため5番人気でした。

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むしろ、強行な反対派が居たために結局、顕彰馬に選出されなかった名馬「ダイナナホウシユウ」が2番人気に推されていたりと、ハクチカラ以外の馬の方が(1956年)当時は高く支持されていました。

果たして、日本競馬史上初の「グランプリ」の結果は果たして?

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第1回「中山グランプリ」 1956/12/23・芝2600m

1着 ③メイヂヒカリ  R2.43.2
2着 ①キタノオー   3 1/2
3着 ⑧ミツドフアーム  2
5着 ⑪ハクチカラ
11着 ⑦ダイナナホウシユウ … 同レースを最後に引退

史上初の顕彰馬対決にして、史上初のグランプリは、「メイヂヒカリ」が、3馬身半差でのレコード勝ち。2着には菊花賞馬のキタノオーでした。

もう1頭の顕彰馬「ハクチカラ」は5着でした(3着からハナ・ハナ差)。また、ダイナナホウシユウは12頭中11着と大敗し、現役を引退しました。

2.ハクチカラ vs セイユウ

史上初の顕彰馬対決が実現した翌年(1957年)。メイヂヒカリが引退するも「ハクチカラ」は関東を主戦場に重賞・オープンで連対を重ねていました。秋・緒戦の毎日王冠(9月・中山開催)を勝利して、迎えた10月のオールカマーは、秋の天皇賞に向けての調整的な意味もあるレースでした。

第3回「オールカマー」出走馬
1番 1番人気 キタノオー 64kg 前年菊花賞、同年の天皇賞・春馬
2番 2番人気 ヘキラク  58kg 前年皐月賞馬
4番 3番人気 ハクチカラ 65kg 前年ダービー馬
8番 4番人気 セイユウ  57kg 前走セントライト記念制覇アラブ馬

当年の天皇賞馬・キタノオーが1番人気に推されるも、斤量ではハクチカラが1kg上の65kg。それだけ両馬の力が抜けてるとの印象だったのでしょう。

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そして、ここで注目すべきは4番人気に入った「セイユウ」という馬です。「アラブ馬」として唯一顕彰馬に選出されました。

1つ下の弟・シユンエイのようにアラブ馬を相手に無敵を誇った名馬は各時代に誕生していますが、この「セイユウ」の凄かった所は、果敢、“サラブレッドへの挑戦”を決め、実際にサラブレッドを破り、中央競馬で重賞の制覇を果たしている点です。

「ハクチカラ」は、最高斤量を背負い、サラブレッドとしてのプライドも。サラブレッドの日本ダービー馬が、(斤量差こそあれ、)年下のアラブ馬に敗れる訳には行かない! と積極的なレースを展開します。その結果は……

第3回「オールカマー」(中山2000m)
1着 1番 キタノオー  2.04.4
2着 4番 ハクチカラ    1/2
4着 8番 セイユウ

「セイユウ」の逃げを「キタノオー」と「ハクチカラ」がスパートを掛け、最後は半馬身「キタノオー」が先着するというレースになりました。

史上唯一現在でいう所の「GⅡ」クラスのレースで実現した顕彰馬対決は、どちらの顕彰馬でもなく、同時代の実力馬が制した訳です。

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サラブレッドに挑戦し重賞勝ちを収めた「セイユウ」と、同年秋に天皇賞と有馬記念を制し、その2年後には日本馬初のアメリカで重賞勝ちを収めた「ハクチカラ」の存在と共に、「キタノオー」も語り継ぎたい所です。

3.トウショウボーイ vs テンポイント

第1回中山グランプリでメイヂヒカリとハクチカラが直接対決して20年後。1976年から1977年にかけて、2頭の顕彰馬が6度にわたって対決しました。

いや、顕彰馬に準ずる活躍をしたグリーングラスを加えて、「TTG」と並び称された「TT」の2頭と言った方が通りが良いかも知れません。天馬こと「トウショウボーイ」と、流星の貴公子こと「テンポイント」です。

そもそも同じ年の生まれで顕彰馬になる2頭が存在すること自体が珍しいのですが、それに加えて、クラシック三冠路線すべてで激突しているという点において、他の「顕彰馬対決」とは大きくことなります。

《 クラシック3冠での直接対決 》
皐月賞 トウショウボーイ1着 テンポイント2着
東京優駿トウショウボーイ2着 テンポイント7着 クライムカイザー1着
菊花賞 トウショウボーイ3着 テンポイント2着 グリーングラス1着

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結果から言えば、トウショウボーイが皐月賞を制覇した以外は、両馬は勝てず、テンポイントは皐月・菊花賞2着が最高で、ダービーでは7着でした。

しかし、TTGが本領を発揮したのは、むしろ「クラシック3冠」を終えてからでした。文字通りの「グランプリ」で3度、直接対決をしています。

《 グランプリでの直接対決 》
1976有馬 トウショウボーイ1着 テンポイント2着
1977宝塚 トウショウボーイ1着 テンポイント2着 グリーングラス3着
1977有馬 トウショウボーイ2着 テンポイント1着 グリーングラス3着

特に、直接対決でトウショウボーイ、グリーングラスを下しての優勝の経験が無かった「テンポイント」がライバル2頭を下し“日本一”となった1977年の有馬記念は、歴史に残る名勝負として語り継がれています。

「トウショウボーイ vs テンポイント」の顕彰馬対決は、クラシック3冠で直接対決が実現したこと自体が空前絶後。3冠全てで対戦したこともあり、6度の直接対決が実現していることも特筆に値するものと思います。

さあ、そして次回、グレード制が導入された日本競馬で史上初の3冠馬対決が実現します!

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