日本列島からみて「海溝の外側」で起きた(アウターライズ)地震を纏めてみた
【はじめに】
今回の記事では、日本列島からみて「海溝/プレート境界の外側」で起きた地震について纏めていきたいと思います。
(1)「アウターライズ地震」って?
まずは、そういった地震について、簡単に知るために「日本語版Wikipedia」を参照することとしましょう。
これから沈み込む海洋プレート内(アウターライズ)で起こる地震
海洋プレートが陸地側に潜り込んだ歪みを解消するため陸地側プレートが反発した時に、プレート境界型地震が起こる。
歪みはこれから沈み込む海洋プレート側(海溝よりも更に沖側)にもたまっており、海底が隆起している場合がある(アウターライズ・海溝上縁隆起帯)。この歪みはプレート境界型地震の発生によって解消されるとは限らず、プレート境界型地震の前後などに、解消されなかった歪みによってずれや割れが生じ、地震を発生させることがある。
アウターライズ(海溝上縁隆起帯)で発生するため、主にアウターライズ地震と呼称される(なお、こちらもスラブ内地震とする場合がある)。
まあ長いですが、ざっくり言えば、「外側(outer)」の「隆起(rise)」な所で起きる地震だから「アウターライズ地震」というネーミングの様です。
(2)「アウターライズ地震」の怖いところ
ここ10年「アウターライズ地震」が特に警戒される様になったのは、2011年の「東日本大震災」を引き起こした超巨大地震に関連してでしょう。
あの超巨大地震は、プレートの内側…といいますか、殆どが日本列島に近い方を震源として起きました。超巨大地震の直後、日本列島の内陸部で規模の大きめな「誘発地震」が多発した様に、莫大な歪みの解放がプレートの反対側にも影響を及ぼし、新たな巨大地震が引き起こるのではないかと考えられているからです。
これには世界各地に前例がありまして、何を隠そう、「東日本大震災」の前の三陸での巨大地震津波である「昭和三陸地震津波」も、このタイプだったからです。(1896 明治三陸地震津波 → 1933 昭和三陸地震津波)
① 震源地が遠いため、近い地震に比べると相対的には「揺れが小さ」くなることが多い。
② 適切に情報を入手していないと、揺れの割に巨大津波が襲い逃げ遅れる可能性がある。
③ 上記例の様に、甚大な被害が襲った被災地を再び襲う可能性がある。
これら3点が特に怖いとされています。(実際、昭和の巨大津波でも、千人以上の方が犠牲になっている主な要因と考えられます。)
(3)具体的な対象範囲について
では「プレート境界」がどこかという点を見ていきます。「Googleマップ」を切り取りますと、はっきりと分かりますね。明確に境界線が見えます。
そして、この「Googleマップ」を念頭に、気象庁のホームページの画像を、少し細かいですが、ご覧頂きましょう。それがこちらです。
例えば北海道の南東側から東北地方にかけて(千島~日本海溝)だったり、静岡県から南西諸島の南(南海トラフ)にかけて、「プレート境界」を意識した様な曲がった線があることが分かりますか?
具体的に言うと、「千島列島南東沖」や「北海道南東沖」、下って「南海道南方沖」や「薩南諸島東方沖」の北西側の線のことです。今回はそれらと、気象庁の「震度データベース」をもとに過去の発生例を見ていきましょう。
条件①:深さ50km以浅
条件②:最大震度1以上(無感地震は震度DBの対象外)
1.千島海溝の外側
対象は以下の2地域。北海道と比較してもかなり広い海域を持ちますが、
・千島列島南東沖(9回)
・北海道南東沖 (4回)
100年近い観測の歴史のなかで、震度1以上の地震は僅かに13回です。震度データベースの値を見ると、直近が1983年(つまり平成以降は発生例なし)で、その前が1958年ですから、半世紀で1回のみという計算です。
千島列島から北海道の沿岸にかけては、日本列島のみならず世界でも有数の巨大地震(&津波)常習地帯です。しかし、アウターライズ地震として同DBに登録されている中では、1921年のM7.0が唯一の大地震の例となります。
ちなみに、今回は対象外となりますが、
・2006/11/15 Mw8.3 30km 千島列島沖地震
・2007/01/13 Mw8.1 10km 〃(アウターライズ)
と、2か月の間隔をあけて巨大地震が連発した事例もあります。特に後者のアウターライズ地震では、宮城県で震度3、兵庫県でも震度1など揺れも広くに伝わったほか、2つの地震とも「津波警報」が発表されています。
2.日本海溝の外側
続いて、東北地方太平洋沖地震が発生した「日本海溝」です。震源の名称が千島海溝ほど親切じゃないので、今回は、それっぽい範囲をフリーハンドで設定してみました。その結果がこちらです。
まず、1980年代以前に関しては、遠い地震で「震源の深さが特定できなかった」影響もあってか、深さ0kmとして登録されています。全部で20件程度。
この中でも特筆すべきなのが1933年3月3日に起きたM8.1の巨大地震です。数十メートルの津波ばかりが語られますが、明治の時と異なり揺れもかなり強く、東北の広範囲で震度5(強震)を記録しています。
また、深さが特定された2010年代以降でも数年置きに時折発生しています。
なお、深さを限定しなければ、2017年の秋に深さ50km台で「M6クラス」の地震が半月で2回起きたケースもありました。
3.伊豆・小笠原海溝の外側
さらに南下して、「伊豆・小笠原海溝」も簡単に見ておきましょう。一応、この記事では伊豆諸島や小笠原諸島の東側を対象としています。「M6以上」に限定してピックアップした表がこちらです。
深さを限定しないと13例、深さ50km以浅に限定すると10例です。時折、M6クラスの地震が発生していますが、特に顕著なのが、2010年12月22日の午前2時19~20分に起きた「深さ8km、M7.4~7.8」という大地震です。
深夜という時間帯もあり、そこまで大きく取り上げられませんでしたが、この海域で起きたものとしては最大級の地震でした。
ちなみに、震源の深さが54kmのものとしては、1972年12月4日に起きた「八丈島東方沖地震」が著名です。24年ぶりに「震度6(烈震)」を小笠原で記録し、東京では出来たばかりの超高層ビルが長周期地震動で大きく揺れるなど遠い地震特有の震害が出ました。
4.南海トラフの外側
ここから「海溝」というか、それに類する「トラフ」でも同じアプローチで見ていくことにしましょう。まずは「南海トラフ」です。
1944・1946年に昭和の東南海・南海地震が起きましたが、それ以降は非常に静穏な状態が四半世紀にわたって続いている「南海トラフ」の海域。
ほぼ唯一と言って良い顕著な事例が、2004年に起きた「紀伊半島南東沖」の地震でしょう。震源要素の関係で表には1個しか載っていませんが……
・2004/09/05 19:07 38km M7.1 5弱 津波63cm
↓
・2004/09/05 23:57 44km M7.4 5弱 津波93cm
同じ日に2度、強い揺れを伴う地震が起き、どちらも大地震。なおかつ津波も発生するなど、さらなる大地震に対する備えも含めて緊張感が高まる事例でした。ちょうどプレート境界の真上ぐらいが震央の地震だったため、厳格に「アウターライズ地震」とは呼べないでしょうが、気になる地震でした。
5.琉球海溝の外側
沖縄県というと強い地震の少ないイメージがありますが、最近の研究・調査では(超)巨大地震の連動型地震への想定もなされつつある「琉球海溝」。
かなり範囲を長く取っていますが、基本的に事例は多くなく、数年に1回のペースとなっています。幾つか固まってプロットされていますが、その中でも顕著な例とされるのが、1998年5月4日に起きた「石垣島南方沖」の地震でしょう。「深さ35km、Mj7.7」という大地震でした。
最大震度3で、津波も10cm未満だったため、幸い被害はありませんでしたが、地震発生のメカニズムが違っていれば大きな被害が出ていてもおかしくない規模だった点は注意が必要でしょう。