【参加録】村上健志の俳句実況(月百句Vol.21)《自作句あり》
【はじめに】
この記事では、2021年10月27日に「フルーツポンチ村上の俳句の部屋」で、行われた俳句実況「月百句」の第21回放送に参加した記録を、私の添削句や自作句を交えてご紹介していきます。
0.オープニング
前回パソコンを新調した結果、今までの不具合(カクカク)が嘘の様に解消した俳句実況。ここからはいわゆるカウントダウン。
この配信が始まる段階で「残り11句」となり、10月中の100句完成に向け、次回(10/30(土)予定)前に少しでも余裕を作りたいと考える村上さん。
普段よりも早く、木曜の午後5時スタートとなった今回は、「最低6句」(≒配信終了時点で残り5句まで詰める)を目標としました。
1.席題「高速バス」
1つ目の席題募集の前に、「na na」さんから俳句スパチャを頂き、そのコメントから『高速バス』が最初のテーマとなりました。
5分近くほぼ無言の時間がありましたが、「今は充電できる様になってる」など少しずつ進化を遂げている「高速バス/深夜バス/夜行バス」に想像を巡らせ、こんな句を完成させます。
(電子辞書の電池が切れ、替えの電池を探しに右往左往したのはご愛嬌)
【 1句目 】
『月に雲 長距離バスに知る訛り』 村上健志
とりあえず出すとも、「知る」という動詞がしっくり来ないご様子。例えば「津軽弁」などと具体的に書くことなども提示される中、ひとまず「聞く」と動詞を変えて、
【 1句目(推敲後) 】
『月に雲 長距離バスに聞く訛り』 村上健志
としました。フジモンさんが『おぼろ夜や荷馬車【で→に】眠る象使い』と添削をされた助詞についても、「に」を選択して手堅い一句です。
少なくとも、助詞でなく「動詞」に推敲の余地を求める姿は、村上さんならではじゃないかと常々思います。
《 Rx自作句① 》
この辺りの時間帯は、流石に社会人の私も参加できなかったので「事後での作成句」なのですが、当日の23時になって、ふとこんな句が出来ました。
①『月の雨突っ切る高速バスの群れ』 Rx
「高速バスの群れ」という形容は、多少言葉遣いをベタになりすぎないよう工夫したつもりです。当然、中八ではあるのですが、「深夜バス」とはせずに、『突っ切る』の勢いに頼ってみました。
今回、Wikipediaを調べる中で、「高速バス」、「深夜バス」、「夜行バス」などとそれぞれに記事が立っている(≒区別されている)ことを初めて知りました。勉強になりますねー
2.席題「ライター」
2つ目の席題は「ライター」と決まりました。紙タバコの喫煙者がめっきり減って、見かける頻度も少なくなった「ライター」ですが、景品だったり、レジ横だったりに少し前まではかなり見掛けた印象でしたよね。
案外、ライターは用途が限定されることもあってか、コメント欄はやや低調な印象。村上さんは、以前ライターを使って吸っていたという「タバコ」に着目をしてこんな句を作ります。
【 2句目 】
『ライターを振って小さき火 雨の月』 村上健志
火と雨は現実世界では非常に相性の悪い取り合わせですが、俳句においては『サイフォンに潰れる炎 花の雨』でタイトル戦初優勝を遂げた様に、かなり相性の良いものかと思います。
半透明になっているから残量の分かる携帯用ライターなどは、日頃気にしないから、着けたいのに着かなくなるという「残り僅か」の状態になって初めて意識するものだと推測します。
なかなか火がつかなくてイライラしているのでしょうが、村上さんの句からはそこまでの焦りは感じられず、思いのほか穏やかな空気を纏っています。
昭和の家電よろしく、平成そして令和でも何となく「振ったり、叩いたり」すれば解決するんじゃないかと感じてしまう人間の性ww
「残量僅か」というのも詠み手によっては、ちゃんと伝わるのではないかと思いますねー
《 Rx自作句② 》
ライターに馴染みが薄いということもあって、想像を重ねてみたら……存外とてつもなく暗い作品が出来上がってしまいました。
②『空のライターひねるだけ 孤児 無月』 Rx
「孤児無月」は5音なので上五に据えれば何の問題もなく、「定型」に落ち着くのですけれど、ここは何となく調を崩してみたくなりました。
なんか急に「東国原英夫」さんみたいな芸風になってしまいましたが、まあこれも百数十句の中の1句としてお示ししておくのも面白いでしょう。
3.席題「口内炎」
「深夜バス → ライター」と村上さんが得意そうなアイテムが続いて、3つ目の席題は『口内炎』と更にピンポイントな小さいものとなりました。
怪我・病気の類の中では軽微な部類なのでしょうが、その癖、案外できてしまうと日常生活に地味な支障を来す印象が強い「口内炎」。多かれ少なかれ経験のある症状だからこそ、村上さんが得意とする系統の俳句とは、相性が良いのかも知れませんww
コメント欄も、「口内炎」では流石に次々とネタやアイディアが寄せられ、ついつい、あるあるトークに盛り上がってしまいましたww
そして村上さんらしい着眼点の1句、口内炎を「口炎」などと言い換える事も視野に入れつつの作品がこちらです。
【 3句目 】
『月明や口内炎を触る舌』 村上健志
「ついつい口内炎を舌で触って確認しちゃう」のを皆さんも経験あると思うと語る村上さん。口内の柔らかさと月明かりの柔らかさを取り合わせた1句です。
村上さん的には「ごと」などと使って、「月明かり」の比喩として口内の柔らかさを使いたげでしたが、これは取り合わせの形の方が良いと思います。
そして個人的に1点気になったのが、「触る」という動詞のチョイスです。
39:05 Rx Yequal
「触る」は「探る」とかでも良いかも(描写の精度的に)
すぐに村上さんに採用してもらって、添削句は以下のようになりました。
【 3句目(添削後) 】
『月明や口内炎を探る舌』 村上健志
これは個人的にも良いアドバイスをさせて貰えた気がしました。皆さんからも賛同を頂き、正式採用となりました。『月百句』が楽しみです。
《 Rx自作句③ 》
それでは私も口内炎で作りたいと思います。結構、口内炎ができやすいタイプでして、ふと噛んでしまってなんてのは毎月のようにありますね。
チャット欄で「朝月夜きょうも口内炎と◯◯」で『後で考えてみよっと』と宣言してしまったので、それを題材に1句まずは作りたいと思います。
③-1『朝月夜きょうも口内炎いるし』 Rx
男性か女性か分かりませんが、比較的若い主人公かと思います。「朝月夜」の少し涼しい時期、季節の変わり目に「口内炎」が出来てしまった。昨日も口内炎があったが、朝起きても、開口一番じゃないですが「今日もいるし」と感じてしまう率直な感想を崩した口語体で描いてみました。
イメージ的には、朝支度を前にしてテンション下がる感じを演出したいノリでした。ひょっとすると不摂生が祟ってるのかも知れませんし。
もう1句、私の実体験からこんな作品を。こちらは夜の月のイメージです。
③-2『老白衣の勧めの薬帰路に月』 Rx
口内炎が治らず、全国チェーンの薬局に寄って薬を見ていたら、おじいさんの薬剤師さんに声をかけられ、優しい語り口で「口内炎」薬を勧められました。ヨーロッパの会社の薬だそう。塗ったらすっかり治しまして、それ以来愛用しています。
私、基本的に実体験で句を詠まない側の人間なのですが、たまには実体験にリアリティを求めるのも良いかも知れませんね。さて、最後は完全に妄想の1句ですww
③-3『良夜きみの口内炎指すネイルかな』 Rx
↓
③-3'『口内炎指すきみのネイルを良夜かな』
チャット欄では上で投稿しましたが、例えば、季語の「良夜」を押すならば詠嘆する位置が違うかなと思って並べ替えてみました。いずれにしても、「きみ」とある中で十五夜の「良夜」を取り合わせる時点で、かなり雰囲気が重複していますが…… まあこれはこれで。
4.席題「福神漬け」
今回は「食べ物」をまだテーマにしていない、と村上さんから思うようになり、4個目の席題は「福神漬け」となりました。
お漬物としては比較的異例で、現代の日本では、まず「カレー」の付け合せという印象かも知れません。もちろん、カレー以外のご飯などと食べるのも良いのでしょうが、すっかりカレーとセットのイメージですよね。
福神漬けの名前の由来には諸説あるようですし、カレーとセットになったのも歴史的にフワッとした経緯があるようですが、そこらへんはWikipedia先生に譲るとして、
俳句的には「カレー」も連想する福神漬けを、月などの季語を主役にする上での「脇役」とする難しさがありそうです。
そして村上さんは、福神漬けの「色」に着目をしてきます。いやそこに着目するのが本当に凄い洞察力だと感服しますね。出来た句がこちら。
【 4句目 】
『赤くない方の福神漬け月見』 村上健志
ややギクシャクした語感が気にはなりますが、ありますよね、真っ赤な福神漬けと、茶色っぽい淡い色の福神漬け。あんまり普段意識しませんでした。大学時代に良く食べてた(カツ)カレーは赤かったな。何となくのイメージですが、大衆食堂やお弁当のカレーは真っ赤な印象ですね。
村上さんも言葉と語感のチョイスかなり気にしている様です。言いたいのは「月見酒のつまみに茶色い福神漬けを食べている」様子なんだそうですが。
【 Rx添削案 】
『月見酒には赤くない福神漬を』
などと「赤くない福神漬」とすればうまくパズルが組み入れそうですけど、村上さんが拘るとおり「赤くない方の福神漬け」という言い回しの特別感はそれはそれで面白さがあるから捨てがたい所です。
【 4句目(推敲案) 】
『赤くない福神漬けよ月見酒』 村上健志
《 Rx自作句④ 》
さて今回も来ました、食べ物のテーマ。好き嫌いが多い私にとって、漬物は全般に苦手です。(ぬか漬け部の皆さんなども居るのにスミマセン……。)
なので、全く違ったアプローチで1句作りたいと思います。追悼句です。
④-1『やたら漬と月見す白土三平忌』 Rx
漫画家・白土三平さんが先日お亡くなりになりました。『忍者武芸帳 影丸伝』『サスケ』『カムイ伝』などの忍者を題材にした作品が1960年代に一世を風靡しました。
その作中に「やたら漬」という名前の漬物が登場することが『福神漬け』のWikipediaにあって興味深く読ませてもらいました。『カムイ外伝』は、水原弘さんのEDテーマの渋さの印象も強くてカッコいいですねぇ。
白黒からカラーにアニメが変遷していく時代に、どちらの放送形態でも楽しめる作品として、白土三平さんの作品は子供たちを楽しませてくれました。
「ハロウィン」は秋の季語か
「ハロウィーン」が季語かと言われると、多くの人が「秋の季語でしょ」と思うはずです。しかし、そのように意識が変わってきたのは戦後・平成世代が中心となったここ最近の話です。事実、紙の歳時記などを引くと、ハロウィンを季語として収録していないものが結構あることに驚くはずです。
この話題が4つ目のテーマ募集時に触れられ、村上さんも語っていました。
実際、冷静になってみると「ハロウィン」での一連の行事が日本でも馴染みを持ち始めたのは平成に入ってから。長めにとっても「四半世紀」経つかどうかです。
そして、昨今では「バレンタインデー」をも上回る経済効果が取り上げられますが、それも2010年代中盤に入ってからの事です。『俳句歳時記』という観点からすると極めて定着の歴史は浅いのです。
また、西洋由来の季語は多くありますが、「古代ケルト人が起源」とされ、キリスト教圏でも「教会の祭りとしては祝われない」経緯があるため、由緒という点でも弱いことが作用しているように思います。
※正直「童貞聖マリア無原罪の御孕りの祝日」が季語として掲載されているのに「ハロウィン」が掲載されていないのは違和感でしかないですがww
という事で、ハロウィンが季語かどうかは人によって意見が分かれるという前提のもと、即席ではありますが、席題として私も1句詠みたく思います。
④.5『満月を着ける着替えの君ハロウィーン』 Rx
季節的には確実に旧暦9月に入るため、一般的な歳時記の「月の季語」では本意とぶれてしまうため、虚実・新旧の季語を配してみました。
5.席題「石鹸」
続いても生活に根ざした感じの季語です。やはり簡単めな所を次々とテンポ良く作っていくのが村上さんの俳句実況には合っている気がします。
「石鹸」というテーマですが、まあ前回『バスクリン』の句があったので、それに気づいた村上さんは「風呂」関係以外での作句を模索します。
【 5句目 】
『月の夜に君に減らされた石鹸』 村上健志
いやはや本当に詩心というか恋愛ドラマのワンシーンを見ているかのような切り取り方ですね。切り取っているのは「写真」か「ショートムービー」位なのに、この17音の描写から得られるドラマの情報量は凄いと思います。
ドラマを描くという点では、村上さんの思い描くものとは違いますし、チャット欄でも不評でしたが、比較という意味で掲載しておきます。
【 5句目(比較句) 】
『月の夜や君が減らしてった石鹸』 Rx
いずれにしても、これが「親」とかではなく、想い人だという所に、同棲にはまだ一歩至らないという距離感を含めた「ドラマ」がありますねぇー
俳句にそれを盛り込むのを嫌う方も多いでしょうし、季語は立っていませんが、村上さんの句柄には合っていると思います(好き嫌いは置いといて。)
《 Rx自作句⑤ 》
私も恋愛の句で『リトル村上』を下ろしたいと思います。千原ジュニアさんみたくww
⑤『いざよう月別れてもこの石鹸で』 Rx
「十六夜」の傍題たる「いざよう月」の、「いざよう」が持つ『躊躇い』の気持ちを後半に余韻として伝えてみました。嬉しい哉、悲しい哉、こんな風に石鹸を使ったことは一度もないのですがww
6.席題「図鑑」
95句目のテーマに選ばれたのは「図鑑」です。一口に図鑑と言っても、多岐に渡ります。大人も子供も沢山の図鑑を書店や図書館、博物館などで見たらワクワクしてしまうはずです。
ちなみに『図鑑』という言葉が日本に定着するキッカケとなった牧野富太郎の『日本植物図鑑』が発売されたのは1925年ということで、ほぼ昭和以降の言葉だというのも知りませんでした。
Wikipediaの「図鑑」の例に載っているのはごく一部ですが、チャット欄には多種多様な図鑑が寄せられ、その名前を見るだけでも「あれもあったな」とつい口から漏れてしまう状態。
そこから村上さんは「恐竜図鑑」を選び、こんな句を作りました。
【 6句目 】
『月落つや逃げる恐竜載る頁』 村上健志
「恐竜」の名前を具体的に書きたかったと言う村上さんですが、手堅く出来ているとは思います。確かにありますよね、隕石が落下して恐竜が絶滅することを説明するページだったり、肉食恐竜から逃げる草食動物だったり。
ちなみに個人的には、文面があまりにも固いので、もし子供も詠む様な図鑑だとしたら、せめて、
【 Rx添削案 】
『月落つや逃げる恐竜【の】る【ページ】』
とするだけでも、「月落」と「恐竜」という漢字が目立って、その他の印象が柔らかくなり「子供感」が出るかなと思いました。それこそフジモン名人の得意とする範疇でしょうがww
《 Rx自作句⑥ 》
私もこれは面白そうなテーマだと思って見ていました。図鑑ごとに十句ぐらい作れそうです、面白いの見つけてきたなーww
まずはその「恐竜図鑑」に関連してこんな句から如何でしょうか。
⑥-1『DVD付き恐竜図鑑や臥待月』 Rx
村上さんは、「恐竜図鑑なんてそんな変わってないでしょ」と何気なく語られましたが、そもそも『DVD付き恐竜図鑑』が売ってたりしてビックリ! いやDVDだってもう古いご時世ではあるんですが、少なくとも我々が子供の頃の恐竜図鑑には無かったものかと思います。
他にも、新説が次々と出ている恐竜界です。尻尾を付けずに走っていたとか色が違っているとかそういうのは時々ニュースになりますからね。昔と反映された部分が違って、徐々に変わってきていると思います。これは教科書もそうですから、敏感にアンテナ高く居たいですねー
皆さんを見ていると、「図鑑」といえば本棚のスペースをかなり占めそうなデッカいものを想像されていました。ただ、調べているうちにこんなものもあったなと思い、詠んでみました。「ポケット図鑑」なるものです。
⑥-2『ポケットに入らぬポケット図鑑や月』 Rx
私が小学生の頃から好きだった「ポケット図鑑」。ただ一つ言えることは、『流石に小学生のポケットには入らないよ!!』というサイズ感。当時から突っ込んでいたことを思い出しましたww
『ポケットモンスター』に登場する「ポケモン図鑑」は、1990年代に考案された作品としては小さめな小型端末で、子供も持ち運びが容易で高性能なものが代々作中に登場していた印象ですが、それぐらい小さいものであれば、野外レクリエーションにも適しているかなと思いますね。
その点、電子辞書すら大きく感じる昨今、吟行の時に使える電子版の歳時記などが更に確度を増してもらえると嬉しいですねー
最後に、私が子供の頃に好きだった『図鑑』をご紹介しましょう。変わった子供だったと自分でも思いますww
⑥-3『十五夜や数のずかんをよみふける』
「かず」とか「数字」に関する図鑑が我が家にあり、それを好きで読んでいる子供だったんだそうです。今でもまあ算数とか数は好きな方なので、まさしく「三つ子の魂百まで」なのでしょうww
というか、子供の頃にそれで数に親しんでいたから、という主客が逆なのかも知れませんがww いずれにしても「数の図鑑」と両親には感謝しております。
【おわりに】
村上さんは『月百句』まで残り5句となりまして、いよいよ次(土曜日)がラストかなという所です。私もそれを上回るペースで作句し続け、どうでしょう数えていませんが、全部で150句ぐらいの着地になりそうです。
今回も村上さんの倍近いペースとなる「11句」が出来ましたので、下に掲載しときます。皆さんも村上さんの『月百句』完成の瞬間、見届けましょう!
①『月の雨突っ切る高速バスの群れ』
②『空のライターひねるだけ 孤児 無月』
③-1『朝月夜きょうも口内炎いるし』
③-2『老白衣の勧めの薬帰路に月』
③-3'『口内炎指すきみのネイルを良夜かな』
④-1『やたら漬と月見す白土三平忌』
④-2『満月を着ける着替えの君ハロウィーン』
⑤『いざよう月別れてもこの石鹸で』
⑥-1『DVD付き恐竜図鑑や臥待月』
⑥-2『ポケットに入らぬポケット図鑑や月』
⑥-3『十五夜や数のずかんをよみふける』