競馬の歴史を学ぶ ~無敗の桜花賞馬 編~【2021/5/23追記】

【はじめに】
この記事では、令和に入って2年連続「無敗の桜花賞馬」が誕生したことを讃え、過去の「無敗の桜花賞馬」を振り返っていきましょう。

0.無敗の桜花賞馬について

「桜花賞」は、戦前・戦後期を除いて、殆どが4月前半に行われています。3歳牝馬の大半が出走を目指す牝馬三冠戦線の1戦目にあたり、多くの馬が土付かずで出走を果たしますが、その内「無敗で桜花賞を制した馬」というのは、昭和に3頭、平成に3頭、令和に2頭の計8頭しかいません。

桜花賞が80回を越えた所ですので、(2年連続が2例ありますが、)基本的には数年から十数年に1頭出るかどうかの偉業だと言えましょう。

① 1941年 ブランドソール(2連勝)

1939年に「中山四歳牝馬特別」として創設され、当初は中山芝1,800mという条件で行われていた現・桜花賞。実は、第1回のソールレデイ、第2回のタイレイは、共に「未勝利馬」で、初勝利を桜花賞で飾るという有様でした。

そんな中、第3回にして初めて、1番人気にして未勝利馬ではない馬が優勝します。それが「ブランドソール」です。

ヘレンサーフ
 第四ヘレンサーフ(父:インタグリオー)
  ウエツデイングサーフ(父:ダイヤモンドウエツデイング)
   第四ウエツデイングサーフ(父:シアンモア)
    ブランドソール(父:プリメロ)

明治から昭和にかけての日本における超一流血統馬で、小岩井農場に生まれ馬主・加藤雄策に当年の牝馬最高額で落札されたブランドソールは、4月5日の新呼馬(新馬戦)を2馬身半差の快勝。
※この時の2着は、後にダービー2着馬となる「ステーツ」号。

半月後の4月20日の2戦目が「桜花賞」で、このレースも3馬身差のレコード勝ちを収め、2戦2勝で桜花賞馬となります。これが記録上は、史上初の「無敗の桜花賞馬」ということになります。

画像1

ただ、当時は現在で言う「2歳戦」は無く、全馬3歳春以降にデビューしていましたから、現代の我々が思うほど「2戦目での桜花賞制覇」が大きな意味を持っている……訳ではないかと思います。
※デビュー2戦目で阪神JFを制したジョワドヴィーヴルより、遥かに衝撃は小さかったのではないでしょうか。

画像2

続く3戦目(4歳呼馬)でもデビュー戦に続きステーツに勝ち、しかも3馬身差のレコード勝ち。第10回を数えた「東京優駿競走(日本ダービー)」では牝馬ながら3番人気に支持されます。

しかし、そのレースを制したのは、同じ馬主、同じ調教師の同世代の牡馬にして初代三冠馬となる「セントライト」でした。

ブランドソールは、勝ち馬から25馬身以上離されての7着と4戦目にして初めて敗れ、しかも大敗を喫することとなります。

同馬は、生涯10戦のうち5回がレコード勝ちなことからも分かる通り、スピードでは勝っていたものの、重馬場を苦手としていたとされ、
不運にも同馬が出走した桜花賞以外の大レース(ダービー、オークス、天皇賞)は、いずれも重~不良馬場と道悪に泣かされ、7・4・5着でした。

ちなみに、ブランドソールと同期の三冠馬・セントライトには後日談があって、「ゴールドウヱツデイング」という名前で繁殖牝馬となったブランドソールは、1945年から5度にわたってセントライトの子を受児。
特に最初の子となる1945年生まれのマルタツは、110戦20勝(障害)の活躍を見せた後、1960年の桜花賞を制した「トキノキロク」を輩出しています。

ブランドソール
 マルタツ(父:セントライト)
  トキノキロク・・・桜花賞
   エンタープライズII
    リニアクイン・・・優駿牝馬(オークス)

② 1957年 ミスオンワード(6連勝)

戦前唯一のブランドソールから暫く「無敗の桜花賞馬」は誕生せず、桜花賞が阪神競馬場1600mでの開催がすっかりと定着した1957年まで16年も歴史が下ることとなります。

上の記事でも触れた「ミスオンワード」は、現2歳時に「京都2歳S」まで無傷の4連勝。更に、オープン→桜花賞→オープン→優駿牝馬(オークス)と連勝を「8」まで伸ばし、8戦8勝で無敗の牝馬2冠を達成します。

画像3

その後、連闘で日本ダービーに出走。戦前(1935年)のクレオパトラトマス以来の無敗牝馬のダービー挑戦に3番人気に支持されますが17着と大敗し、連勝は8で止まります。

その後は、現4歳で引退するまでに1600~1800mのオープンを4勝した他、3歳時に神戸杯、4歳時に目黒記念を制するなど一定の活躍を見せますが、菊花賞(10着)、天皇賞秋(2着)、有馬記念(7着)と、八大競走で3度1番人気に支持されるも勝ちきれず引退することとなりました。

③ 1981年 ブロケード(4連勝)

ミスオンワードから四半世紀近く経った1981年、史上3頭目(昭和最後)の「無敗の桜花賞馬」が誕生します。

画像4

現2歳夏の函館の新馬戦を7馬身差で圧勝するも、軽度骨折で半年間休養。復帰戦のカトレア賞(400万下)、トライアルの「阪神4歳牝馬特別」ではアグネステスコ以下に6馬身差をつけて圧勝、3連勝で桜花賞に挑みます。

1分41秒3掛かる不良馬場の桜花賞を、杉本清アナウンサーが『金襴緞子が泥にまみれて』と形容しますが、結果としては3馬身半の完勝。無傷4連勝で、四半世紀ぶりの「無敗の桜花賞馬」誕生となりました。

しかし、続くオークスでは、距離不安から4番人気となり、テンモンの13着と大敗。5連勝での2冠制覇とはなりませんでした。

実際、その後は短距離~マイル路線に主戦場を移し、牝馬東京タイムズ杯(1600m)とスプリンターズS(1200m)を2勝した他、牡馬を相手に9度に渡って2着となっています。

④ 1990年 アグネスフローラ(5連勝)

昭和の終わりにメジロラモーヌが史上初の「牝馬3冠」を達成。時代が平成に変わりこの偉業に挑んだのが、1989年(H元)のシャダイカグラであり、1990年(H2)のアグネスフローラでした。

デビュー戦では河内騎手のビッグマウスをも上回る「1.6秒(10馬身)差」の圧勝で注目を集めると、若菜賞(500万下)、エルフィンS、チューリップ賞と着実に連勝を伸ばして4戦4勝で桜花賞を迎えます。

母・アグネスレディーはオークスを制してはいますが、桜花賞は6着と大敗しており、同じく鞍上の河内洋騎手と共に母の雪辱を目指すのレースとなりました。

激しい先行争いからハイペースで前半が流れ、3~4角から直線にかけては外へと持ち出し、堂々とした競馬。チューリップ賞でも2着としたケリーバッグを抑えて最後は1馬身1/4 の差で優勝。9年ぶりの無敗の桜花賞馬となりました。

そして翌月のオークスでは、母・アグネスレディーに続く「母子オークス制覇」を目指します。(叶えば、クリフジ-ヤマイチ以来、約半世紀ぶり)。

しかし、20頭立ての大外枠から、桜花賞同様のハイペースのレースで、一旦はケリーバッグと共に先頭に立ちますが、エイシンサニーに最後交わされ、2着惜敗。デビューからの連勝は5で止まって、ミスオンワード以来の無敗2冠馬とはなりませんでした。

大川慶次郎氏は『アグネスフローラは攻められない』と「負けてなお強し」を強く讃えました。

その後、アグネスフローラは軽度の骨折、更には屈腱炎を発症し、オークスを最後に現役を引退。6戦5勝2着1回という成績を残します。そうして、更に繁殖牝馬となっては、

・第4仔 アグネスフライト
・第5仔 アグネスタキオン

と、2頭続けてクラシックホースを輩出するなど、底知れぬ実力と存在感をもって今なおファンの印象に残っています。

⑤ 1991年 シスタートウショウ(4連勝)

アグネスフローラの翌1991年にも、無敗の桜花賞馬が誕生します。こちらも非常に人気の高かった「シスタートウショウ」です。

京都の新馬戦、福寿草特別(500万下)を連勝すると、中京開催だったチューリップ賞で、スカーレットブーケに2馬身半差をつける快勝。3連勝で、第51回「桜花賞」を迎えます。

画像5

・1番人気 イソノルーブル   5戦5勝
・2番人気 ノーザンドライバー 牡馬混合重賞2勝
・3番人気 スカーレットブーケ 6戦3勝、札幌2歳S
・4番人気 シスタートウショウ 3戦3勝、チューリップ賞
・5番人気 ミルフォードスルー 牡馬混合重賞2勝

当年の桜花賞は、戦前から稀に見るハイレベルと評されていて、上記の、「5強」の対決と言われていました。更に、1番人気のイソノルーブルが「落鉄」をしてしまい、裸足でレースに挑むというアクシデントもある中、シスタートウショウが「5強対決」に決着をつけます!

京都競馬場での開催ではあるものの、稍重馬場なのにレースレコードを1秒も更新する「1分33秒8」というタイムからも、レースのハイレベルぶりが分かります。

続く、オークスでは1番人気に支持されます。蹄鉄をしっかりはめてレースに臨めたイソノルーブルが、昨年アグネスフローラが敗れた20頭立ての大外枠から逃げ粘るところ、シスタートウショウが大外から猛追。タイム差なしの接戦となります。

しかし勝ったのはイソノルーブル。シスタートウショウは、昨年のアグネスフローラに続き無敗での牝馬2冠馬を目指すも2着と敗れました。

そして同馬もレース後に屈腱炎を発症し、1年半も長期戦線を離脱。何とか現役を復帰を果たしたものの、復帰戦のポートアイランドSで8着と大敗すると、その後も中山記念の2着が最先着で、1勝もすることが出来ず引退。

⑥ 2004年 ダンスインザムード(4連勝)

21世紀初の「無敗の桜花賞馬」は、2004年のダンスインザムードです。

新馬戦を1秒差の大楽勝とすると、若竹賞、フラワーCと連勝。3戦3勝で「桜花賞」を迎えます。

馬場鉄志アナウンサー
「姉の果たせなかった夢を、今、ダンスインザムード! 勝ち時計は1分33秒6! 恐ろしいほどの天才少女です、恐ろしいほどの才能です!」
「菊花賞馬ダンスインザダーク、オークス馬ダンスパートナーの下、妹! 見事に1分33秒6,無敗で桜花賞を駆け抜けています!」

『恐ろしいほどの』と付けられる天才少女は、4戦4勝で桜花賞を制し、或いはダービー挑戦かとも囁かれるほどでしたが、結局は、オークスに出走。馬体増、発汗とイレ込みを見せるなど冷静さをかき、4着と敗れ、4連勝が止まります。

その後は、アメリカンオークスや、天皇賞(秋)、マイルCSで2着に入るなど3歳時もタフにレースに出走。なかなか勝ちきれずも善戦を続けます。

過去の無敗の桜花賞馬は、古馬になってから活躍できなかったですが、この「ダンスインザムード」は、5歳になってから新設G1・ヴィクトリアマイルを制したり、米G3・キャッシュコールマイルを制するなど、マイル~中距離路線で活躍を見せました。

天才少女は、その後、苦闘を続けながらも5歳まで現役を続け、2年ぶりに春の女王に輝いたのでした。

⑦ 2020年 デアリングタクト(3連勝)

ミスオンワード以来、昭和・平成に幾多の名馬が挑むも達成できなかった「無敗での牝馬2冠」を達成するのが、令和2年のデアリングタクトです。

新馬戦、そしてエルフィンSを圧勝して2連勝で迎えた桜花賞は、雨が降り「雨の中、重馬場の消耗戦」となりますが、デアリングタクトだけがしっかりと脚を伸ばします。

母の母・デアリングハートが3着と敗れ、父の母・シーザリオも2着と敗れていた「桜花賞」を制したデアリングタクト。

3戦目での桜花賞制覇は、(ブランドソールで説明した戦前を除くと、)

・1948年 ハマカゼ
・1980年 ハギノトップレディ
・2020年 デアリングタクト

という40年ぶり3例目の快挙でした。

その後は、オークス・秋華賞と制し、史上初の「無敗の牝馬3冠」を達成。伝説的なレースとなった2020年のジャパンCでも、3着と大健闘をします。

無敗の桜花賞馬は、距離面の不安や調整面で順調さを欠くことも多い中で、このデアリングタクトが、どういった古馬人生を歩むのかが注目されます。

⑧ 2021年 ソダシ(5連勝)

そして、平成2・3年がそうだったように、令和2・3年にも「無敗の桜花賞馬」が2年連続で誕生することとなりました。「白毛馬」の世界的な快挙を達成し続ける「ソダシ」です。

札幌の新馬戦、札幌2歳S(レコード)、アルテミスSと3戦3勝で迎えた「阪神JF」は、歴史的にも印象的なレースに。4戦4勝で2歳女王となると共に、世界初の白毛サラブレッドによるG1制覇となりました。

阪神JFから桜花賞への直行となった2021年の桜花賞は、直前で人気が入れ替わりサトノレイナスに次ぐ2番人気に。しかし、レースでは後方から追い込むサトノレイナスを、阪神JF同様の接戦となる中、クビ差しのぎきります。

個性的なメンバーが揃い、メイケイエールの奔走もありましたが、そのレースの充実ぶりは、勝ちタイムにも凝縮されていると思います。

レースレコード:1.32.7 2019・グランアレグリア
コースレコード:1.31.9 2019・ブラックムーン
 ↓
新たなレコード:1.31.1 2021・ソダシ

古馬も含めたコースレコードを0.8秒も更新し、レースレコードに至っては、あのグランアレグリアの持つタイムを1.6秒も更新するという驚異的な勝ちタイム。阪神JFでも囁かれた「時計」への不安を完全に払拭する結果でした。

連続2着のサトノレイナスが日本ダービーに出走することとなり、オークスは単勝1倍台の圧倒的人気と注目を集めることとなります。

クロフネ産駒での距離不安も克服できると信じられての1番人気でしたが、レースは府中の長い直線でスタミナ、持久力が要求されるタフな展開に。

先行策から直線半ばで先頭付近にまで迫りますが、結局、先頭にははっきりとは立てず、最後は失速。外から来たユーバーレーベン、内から来たアカイトリノムスメなどに次々と交わされ8着と大敗。オークスの舞台で連勝は、「5」でストップしました。

※個人的には、半世紀前のアイドルホース「ハイセイコー」の日本ダービーを彷彿としました。

画像6


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?