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「競馬の歴史」に学ぶ ~芝の名馬の引退レース 編~【2021/12/26 追記】

【はじめに】
2021年のG1・マイルチャンピオンシップでは、芝G1・5勝のマイル女王「グランアレグリア」が有終の美を飾りました。

この記事では、過去G1を複数勝っていたり、後に顕彰馬となる馬(いわゆる名馬)が「ラストラン」と銘打って挑んだ現役最後のレースの結果がどうだったのか、振り返っていきます。

1.調査対象

「名馬のラストラン」というと競馬ファンの体感としては分かるのですが、纏めるにあたっての線引きが意外と難しく、今回は次のとおりの定義で記事を書き進めることにしました。

(1)「名馬」
  ① G1級を3勝以上している
  ②(人気などを加味して)後に「JRA顕彰馬」となっている

(2)「引退レース」
  ① 事前に「このレースを最後に引退」と報じられ、
    競馬ファン・実況などもそのつもりでレースを見ている
  ② 結果的に「引退レース」となった場合は原則として除外
  ③「国内最終戦」が銘打たれている場合も特例として掲載

(参考)引退レースと銘打たれていない名馬の例

先に、引退レースと銘打たれていない中で、現役を引退した名馬たちを簡単にご紹介しておきます。(あくまでも主観です)

1941 セントライト 三冠後の競走の斤量72kgを理由に現役を引退
1944 クリフジ   風邪で帝室御賞典(春)を回避し現役引退
1951 トキノミノル ダービー後に病死
1956 メイヂヒカリ 中山GP優勝後、海外挑戦の期待を馬主が辞退
1962 コダマ    宝塚記念優勝後に負傷のため現役引退
1969 タケシバオー 帰国後の疲労で、有馬記念出走を断念
1977 マルゼンスキー 屈腱炎を発症し、大事を取って引退
1978 テンポイント レース中に故障発生

1985 ミスターシービー  秋に向けた調教中に故障
1993 メジロマックイーン 京都大賞典の翌々日に故障判明
1994 トウカイテイオー  有馬優勝翌年に相次ぐ故障
1996 ナリタブライアン  高松宮杯の後に屈腱炎を発症
1999 エルコンドルパサー ジャパンC出走せず引退を決断
2010 ウオッカ      ドバイ挑戦で鼻出血、引退

こうしてみると、「引退レース」と銘打って現役を終えられることの有難みを再認識しますね。

2.時系列順

まずはシンプルに、一回「時系列」に並べてみようと思います。

《 昭和時代 》
1965 1.4倍 ① 有馬記念 シンザン
1970 8.4倍 ① 有馬記念 スピードシンボリ
1974 5.1倍 ② 有馬記念 ハイセイコー
1977 3.0倍 ② 有馬記念 トウショウボーイ
1985 1.2倍 ① 有馬記念 シンボリルドルフ(国内)
1986 6.3倍 ⑨ 有馬記念 メジロラモーヌ
1988 2.4倍 ② 有馬記念 タマモクロス

参考がてら、昭和の名馬たちの引退レースを振り返ります。メジロラモーヌの着外を除けば、全て連対を果たしており、負けた相手も堂々たる馬です。

シンボリルドルフは、海外初挑戦のレースで故障を発生しましたが、その前の国内最終戦と銘打たれた「有馬記念」は、フジテレビの盛山アナウンサーが『世界のルドルフ』などと、その期待感を表していました。

《 1990年代 》
1990 5.5倍 ① 有馬記念 オグリキャップ
1994 1.6倍 ① スプリンターズ サクラバクシンオー
1998 1.1倍 ③ スプリンターズ タイキシャトル
1999 3.0倍 ② 有馬記念 スペシャルウィーク

1990年代は、あのオグリキャップのラストランが、昭和からの流れを汲んだ印象。スペシャルウィークも2着ではありますが、グラスワンダーとの激闘ですから、名馬のラストに相応しい戦いぶりでした。

その一方で、21世紀の「引退レース」のトラウマとなったのは、タイキシャトルのスプリンターズSでしょう。その前にサクラバクシンオーが単勝1.6倍で日本レコードの4馬身差圧勝を果たした事例があったこともあってか、1998年のスプリンターズSでは「単勝1.1倍」という断然人気となります。

しかし、海外G1を制したタイキシャトルは、タイム差なしとはいえ、生涯初の連対を外す結果となり、「競馬に絶対はない」という格言が強く支配する結果となりました。

《 2000年代 》
2001 1.8倍 ⑤ 有馬記念 テイエムオペラオー
2003 2.6倍 ① 有馬記念 シンボリクリスエス
2005 1.2倍 ① 有馬記念 ディープインパクト
2005 6.8倍 ⑧ 有馬記念 ゼンノロブロイ
2007 15.2倍  ③ 有馬記念 ダイワメジャー
2008 8.4倍 ⑧ 有馬記念 メイショウサムソン

2000年代は、ウマ娘でも豪華絢爛に描かれている「テイエムオペラオー」がG1・8勝目を目指すも5着と大敗を喫しています。

但し、シンボリクリスエスとディープインパクトの有馬記念は、見事にラストランを決め、伝説のレースとして語り継がれています。

《 2010年代 》
2011 3.2倍 ⑦ 有馬記念 ブエナビスタ
2012 9.3倍 ⑯ 有馬記念 アパパネ
2013 1.8倍 ① 香港スプ ロードカナロア(海外)
2013 1.6倍 ① 有馬記念 オルフェーヴル
2014 8.7倍 ① 有馬記念 ジェンティルドンナ
2014 4.6倍 ④ 有馬記念 ジャスタウェイ
2015 4.1倍 ⑧ 有馬記念 ゴールドシップ
2016 1.6倍 ① 香港C  モーリス(海外)
2017 1.9倍 ① 有馬記念 キタサンブラック
2019 6.7倍 ① 有馬記念 リスグラシュー

2010年代に入ると、毎年年末になると、名馬による引退レースが誕生するようになります。
2010年代のうち「単勝1倍台」での引退4例はすべて勝利しています。また短距離~マイル路線の2頭は、国内・香港いずれも勝利しての引退でした。

そのほか「有馬記念」では明暗が分かれており、ジェンティルドンナやリスグラシューの様に1番人気でない中で有終の美を飾る馬がいる一方、距離や気性、衰えなどに不安があった馬は着外に沈んでいます。

《 2020年代 》
2020 2.2倍 ① ジャパンC アーモンドアイ
2020 8.1倍 ④ 有馬記念 ラッキーライラック
2021 1.7倍 ① マイルCS グランアレグリア
2021 1.6倍 ① ジャパンC コントレイル
2021 1.8倍 ① 香港C  ラヴズオンリーユー
2021 2.9倍 ③  有馬記念 クロノジェネシス

2020年代に入ると、引退レースに「ジャパンカップ」を選択する馬が目立つようになります。最もドラマチックだったのは、2020年の三冠馬3頭の共演となった「ジャパンカップ」でしょう。
アーモンドアイがG1・9勝目をマークする歴史的な勝利を見せ、現役最強馬の存在を強烈にアピールしたまま現役を引退しました。

3.人気別

続いて不完全ですが、ざっくり「単勝人気」ではどうか見ていきましょう。

《 単勝1倍台前半 》
1998 1.1倍 ③ スプリンターズ タイキシャトル
1985 1.2倍 ① 有馬記念 シンボリルドルフ(国内)
2005 1.2倍 ① 有馬記念 ディープインパクト
2013 1.3倍 ① スプリンターズ ロードカナロア(国内)
1965 1.4倍 ① 有馬記念 シンザン

「タイキシャトル」の事例がトップに来るので何とも言えませんが、やはり実力が抜けているという前評判かつ「有終の美を飾って欲しい」という印象が強まる単勝1倍台前半の馬たちは、納得の強さを示しています。

《 単勝1倍台後半 》
1994 1.6倍 ① スプリンターズ サクラバクシンオー
2013 1.6倍 ① 有馬記念 オルフェーヴル
2016 1.6倍 ① 香港C  モーリス(海外)
2021 1.6倍 ① ジャパン コントレイル
2021 1.7倍 ① マイルCS グランアレグリア
2021 1.8倍 ① 香港C  ラヴズオンリーユー(海外)
2013 1.8倍 ① 香港スプ ロードカナロア(海外)
2001 1.8倍 ⑤ 有馬記念 テイエムオペラオー
2017 1.9倍 ① 有馬記念 キタサンブラック

同じくテイエムオペラオーは、馬券圏外の5着と敗れますが、その他は堂々と勝ちきっており、タイキシャトル同様、「馬の衰え・やる気」を見極めることは重要になってきそうです。

《 単勝2倍台 》
2020 2.2倍 ① ジャパンC アーモンドアイ
1988 2.4倍 ② 有馬記念 タマモクロス
2003 2.6倍 ① 有馬記念 シンボリクリスエス
2021 2.9倍 ③ 有馬記念 エフフォーリア

「タマモクロス」が半馬身敗れた相手はあのオグリキャップですから、この単勝2倍台辺りまではかなりの安定感をもって引退レースを戦えています。「アーモンドアイ」の様に、強いライバルがいたから1倍台ではなくなった例でも、前評判に違わぬ激戦を演じてくれます。

《 単勝3倍台 》
1977 3.0倍 ② 有馬記念 トウショウボーイ
1999 3.0倍 ② 有馬記念 スペシャルウィーク
2011 3.2倍 ⑦ 有馬記念 ブエナビスタ
2016 3.6倍 ① 天皇賞秋 モーリス(国内)

傾向が歴然と変わるのは、単勝3倍あたりからです。国内最終戦というモーリスを除くと、なかなか勝ちきれなくなり始めます。

トウショウボーイはテンポイント、スペシャルウィークはグラスワンダーと歴史に残る名勝負の末、惜敗を喫しています。そして、ブエナビスタはそれまで2年連続2着だった有馬記念に挑むも7着と大敗をしています。

《 単勝4倍以下 》
2015 4.1倍 ⑧ 有馬記念 ゴールドシップ
2014 4.6倍 ④ 有馬記念 ジャスタウェイ
1974 5.1倍 ② 有馬記念 ハイセイコー
1990 5.5倍 ① 有馬記念 オグリキャップ
1986 6.3倍 ⑨ 有馬記念 メジロラモーヌ
2019 6.7倍 ① 有馬記念 リスグラシュー
2005 6.8倍 ⑧ 有馬記念 ゼンノロブロイ
2020 8.1倍 ④ 有馬記念 ラッキーライラック
1970 8.4倍 ① 有馬記念 スピードシンボリ
2008 8.4倍 ⑧ 有馬記念 メイショウサムソン
2014 8.7倍 ① 有馬記念 ジェンティルドンナ
2012 9.3倍 ⑯ 有馬記念 アパパネ
2007 15.2倍  ③ 有馬記念 ダイワメジャー

単勝4倍以下になると、やはり惜敗というより大敗が目立ちます。どこか無理をして有馬記念に出走して……ということなのでしょうか。

その一方で、オグリキャップ、リスグラシュー、スピードシンボリ、ジェンティルドンナなどが引退レースの有馬記念を制しています。ちなみに、牝馬2頭は中山初挑戦での制覇で、牡馬2頭は過去に有馬記念を制している実績がありました。

4.レース別

「有馬記念」を引退レースに選ぶ例が多すぎるので、その他のレースで抽出をしてみます。結局は、当たり前ですが、「一番得意な舞台を選んで引退」する方が成績は良いのだと感じました。

《 スプリンターズS 》
1994 1.6倍 ① サクラバクシンオー
1998 1.1倍 ③ タイキシャトル

《 香港スプリント 》
2013 1.8倍 ① ロードカナロア

《 マイルCS 》
2021 1.7倍 ① グランアレグリア

《 ジャパンC 》
2020 2.2倍 ① アーモンドアイ
2021 1.6倍 ①  コントレイル

《 香港C 》
2016 1.6倍 ① モーリス

一方で、「有馬記念」に出走してくる名馬のうち、
引退レースだし、投票してくれたファンの期待を背負って……として、多少無理をして挑んでくる馬は、やはりリスクが大きいことは何となくの傾向として窺えます。数年に1回、そういった馬が勝つこともありますが、それを毎回狙うことがプラスかは微妙な所そうです。


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