(1月)地震の「平年値」を考えてみた(全国・有感地震編)
【はじめに】
この記事では、気象庁が主に気象観測の項目で算出しており、2021年5月に10年ぶりに更新された「平年値」に関連して、
もし「地震に平年値」があったら、どんな値になるのかを考えてみました。
「その1」の今回は、気象庁「震度データベース」をもとに、全国有感地震の回数の過去30年間の値で計算してみています。
0.記事を読む上での注意点
この記事では、地震「平年値」も、気象の平年値に合わせるという趣旨で、「直近30年間」をベースにしています。気象要素に合わせるという一点のみなので、この30年を取ることに地震学的な意図がある訳ではないことを予めご了承ください。
飽く迄「平年並」を考えるキッカケとして「直近30年間」にしただけです。
そして2020年までの30年間、すなわち「1991~2020年」を統計の元データにすると簡単に言っても、細かくデータを見ていくと様々な課題が出ます。1991年と2020年で比較をすると、例えば、
・「観測手法」の違い(体感から機械計測へ)
・「震度階級」の違い(8段階から10段階へ)
・「観測網」の違い(震度観測点が数百箇所から10倍以上に)
などを加味する必要がありますが、今回のデータでは加味していません。
具体的に言えば、2020年の観測網なら「震度6強」と記録されていた地震が、1991年の観測網なら「震度5や4」として記録されていたケースの他、今なら「震度4」となる地震が、以前の観測網では「震度1以上の揺れ」を捉えられないことがあるといった具合です。
ただ、そうした課題があることを重々承知していますが、ひとまず1発目の試みとして、気象庁の「震度データベース」の数値をそのまま並べることから始めようと思った次第です。(今後、余力があれば修正版も検討予定。)
1.震度1以上(有感地震)の「平年値」
全国いずれかの地点で震度1以上を観測した地震(有感地震)の年間回数を30年分並べ、「上位33.3%:多い」「中位:平年並」「下位33.3%:少ない」に3分割。更に、「上位10%:かなり多い」「下位10%:かなり少ない」と色分けしてみました。
2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震が記憶に新しいとは思いますが、実はここ30年で最も多かったのは、2000年の17,672回。単純に回数だけで比較すると、平年の約10倍近い値となっています。
直近では、2019年が東日本大震災後では最も少ない1,564回、続く2020年も1,714回で、震災直後に比べるとかなり落ち着いたかに見えました。
しかし、2021年に入って2月に東北地方で震度6強を観測する地震が起きたほか、春には悪石島で群発地震が起きたことなども影響し、5月の段階で既に全国での有感地震の数は1,000回を越えている状況となっています。
2.震度4以上の「平年値」
震度2・3は省略して「震度4」以上の平年値を見ていきましょう。上位は殆ど変わりませんが、だいたい40~50回あたりが平年並となるようです。
言い換えると、単純平均で「週に1回」程度、震度4以上の地震が起きていても、極端に多いという訳ではないかも知れないことを改めて確認して頂ければと思います。
3.震度5以上の「平年値」
震度5(気象庁震度階級が現在の10段階になってからは震度5弱)以上とすると、最多の年が入れ替わり、東日本大震災の2011年が71回でトップです。
大きな被害をもたらす地震であっても、震度5弱以上の地震が頻発する例はそこまで多い訳ではなく、平均すると「月1回」ずつでもあれば、『多い』年に分類されることがこの表から見て取れます。
2桁あれば若干多いぐらいに覚えておくと良いかも知れません。ただこれも最初に申し上げた通り、震度観測網や観測手法の違いを全く考慮していない値なのをお忘れなきように。
4.震度6以上の「平年値」
震度で区切る今回の記事の最後となるのが、「震度6(弱)以上」の平年値です。この表では、内陸直下型地震の「熊本地震」が10回でトップとなり、2000・2011年をも上回る活発な活動だったことが分かります。
その一方で、実は東日本大震災以降でも、2012・2015・2017・2020年などは、全国で1度も「震度6弱以上」が観測されていません。
単純にみると、半数弱は震度6以上を1度も観測しない年であることから、1年を通じて「震度6弱以上の地震が一度も無かった」ことを、過度に不安がる必要は無いようにも思えます。
震度6弱以上の地震というのは、年に1度も無い年も珍しいことではなく、年に1回でもあれば平年並で、(余震活動も含めて)複数回あれば『多い』部類なのだと捉える見方も出来るのではないかと感じた次第です。
次回は、マグニチュード別など、震度以外の切り口で、地震の「平年値」を考えてみようと思います。