「エンニュイのやり方に、正しい・間違っている、は無い」劇団インタビュー(市川フー、zzzpeaker、二田絢乃):聞き手:平井寛人
「CoRich舞台芸術まつり!2023春」グランプリ受賞作 再演「きく」
アトリエ春風舎にて、2024年6月18日(火)~23日(日)に上演中
みなさん、初めまして。今回の公演に照明や制作まわりで参加している平井寛人(studio hiari/FUKAIPRODUCE羽衣)です。
今回、組合 エンニュイの内側を探るべく、
とっても魅力的な劇団員のお三方から、お話をお伺いしてきました!
アフタートークでも出てきた話題にも直結していたりしつつ、作品の咀嚼の手助けになる記事になったのではないかと思います。
今回のインタビュー、お話ししてくださったのは、
市川フーさん、zzzpeakerさん、二田絢乃さんです✨
舞台上だったら誰かと喋ったり、手を繋いだり
――初めましての方向けに自己紹介をお願いします。
市川:市川フーといいます。今年42歳です。
元々吉本興業で芸人をやっていたのですが4年前に辞めまして、役者の方が楽しいなと思って役者をしています。吉本興業には15、16年いました。
その後、2年前くらいにエンニュイに所属しました。
ズピ:zzzpeakerです。岡山県出身です。
エンニュイに入ってからは……覚えていません。どのくらいが経ちましたでしょうか。
市川:2年ぐらい?
ズピ:2年くらいが経ちました。
音楽をやっています。テコの原理というバンドを11,12年やっています。以上です。
二田:二田絢乃です。東京都出身です。
ズピ:いいなあ。
市川:いいなあ。
二田:いろいろ紆余曲折あって、演劇をやっています。
小学校の部活で演劇を始めて、人の前に立ったりお芝居をすることが好きな子供でした。
その延長で大学まで演劇を続けて、映像や映画のお仕事も4年前くらいから始めています。
よろしくお願いします。
――演劇とのファーストコンタクトをお聞かせください。
市川:僕は芸人から始めて4年くらいの時に、バイト先で劇団を立ち上げるという話になって、「一緒に出てくれない?」と誘われて出たのが初めてでした。なんか楽しかったなあ。
脚本/演出が一人いて、オムニバスで5、6人で役を変えながら、という公演でした。
その後もその人の公演に出たりしていました。
そこから、芸人の方のコンビを組み始めたりして出演できなくなっていって、その団体も活動をしなくなっていきました。
ズピ:9年前に、清澄白河にあるSNACというところの公演に出たのが初めてでした。
山下澄人さん原作の「コルバトントリ」を飴屋法水さんが演出した「コルバトントリ、」という作品に出ました。
声をかけられて出演しました。
二田:一番最初は学芸会だったと思います。トマト姫という役を演じたのを覚えています。
『キャベツ王子とトマト姫』というオリジナル作品の主役で、3歳ぐらいの時でした。その時から演劇が好きです。
当時かなりませていたので、舞台上で会話をすること自体に興味があった気がします。
例えば踊る時に相手の手を持ったりするじゃないですか。
でも普段の生活で私はあんまり喋る子じゃなくて。可愛い子って大人に抱き着いたりしますが、私は本当に笑ったり喋ったりできる子ではなくて、お母さんに笑う練習もさせられるくらい、「能面」って呼ばれたりしていたんです。
でも、舞台上だったら誰かと喋ったり、手を繋いだりできた。
元気ではあったのですが人見知りがちで、舞台上では色んなことがやりやすかったので、吐き出す場として大切だった気がします。
今も日常より舞台上の方が吐き出しやすいです。
好きなもの
――好きなものを教えてください。
ズピ:しょっぱいものが好きです。ノーリーズンです。
二田:ご飯が好きです。エビフライやハンバーグを外食で食べるよりも、お酒が好きなので、お酒に合うものが特に好きです。周りの女性よりもすごく食べると自分で思います。どこかに食べに行った時に「まだ食べたい」と思っているのに、言えないこともあります。
幾ら食べても食べたくてしょうがない、みたいな笑 それが毎日で、お金がかかっちゃうので困っています。
市川:飲みに行く事が好きです。
誰かと行くというのはあまり無くて、主には自宅とかです。おつまみも時間があれば作るけど、あんまり自分では作らない。
でも昨日ちょうど、働いていた居酒屋のメニューで、忘れないうちにと思って、教えてもらったわけではないけど見て覚えた「鯛のかぶと煮」を作ってみました。
二田:えー、すごい。
市川:作ってみたけど、しょっぱすぎて。むずっ、って思いました。
教えてもらってもいないし、じっくり調理を見れる状況でもなかったし。
――技を見て盗むみたいな。
市川:昔の人は教えないみたいです。教えてくれない。
鯛のかぶと煮を作れたら結構すごいなと思ったし、大将が年を取って料理のレパートリーを減らしている中で、鯛のかぶと煮だけは残していたというのもあって。
作るレパートリーが減ったから、見やすいというか、また注文が来たから見てみようという感じでした。
――大事な一品ですね。
ちょっと、見られている立場でやらせていただいています
――普段「どういうふうに演技を仕上げていっている」のか、「頭の中はどうなっている」のか、お聞きできますか。
市川:エンニュイだとあんまり準備しないですね。準備しても上手くいかない感じがあります。
エンニュイで初めて出演した時とか、マジでついていけないと思いました。本当にむずかしかった。他はきっちりかっちかちにやるから、エンニュイの稽古場は特殊だと思う。
稽古場ごとと、公演ごとに得るものがありますけど、時間が空くと、なまっていっちゃう感じもある。
いろいろ経て、上演中の何にでも対応できるような状況にしていきたいと思っています。
俺は、作品の中で何が来ても大丈夫な、対応力がある立ち位置でいたいなと思っています。
長谷川さんが出られないところを、俺が補いたい。
二田:よく長谷川さんも言っているけど、他のところでやる時よりも別の筋肉を使う感じがあります。
私は最近演劇はエンニュイしかやっていないんですけど、ちょっと映像に近いのかもしれないですね。
その場に入ってから割と決まることの方が多くて、エンニュイもその小屋に入らないと、特にメンバーの人は本気出してこないから笑
練習までは温存して、色々試しながら、本番になって「どうした?」みたいな。こんな感じだっけ、みたいな。
自分も「そういう感じで来るならこういかないと」と、戦略を本番に入ってから考える。「今からよろしくお願いします。始まります」から、ギア調整。
フーさんが言ったように、どんなものが来ても避けられるし受け取れるように、どっちもやれる状態、スポーツのゾーンみたいな状態を目指していくのが大事な気がします。最初ぼーっとしていると、終わっちゃう。
稽古中も、如何に今日の自分の状態のまま稽古できるか。本番も絶対緊張したりするから、常に良い状態に持っていくのではなくて、気圧や気温、今日食べたものや会った人とも、バランスを取れる身体にしておく。
イライラしていたら、そのままで出るみたいな。本番の時に「イライラしちゃダメだ」とか、「〇〇しちゃダメだ」というのがエンニュイには一番合っていない気がする。
そもそもエンニュイのやり方に、正しい・間違っている、は無いから、正しい方向に向けようとかせず、それを判断してしまう体にならないようにする。稽古場で自分なりにテストしていく。
私はドキュメンタリーがとても好きで。
演出も入っていて、ドキュメンタリーって映画ではあるじゃないですか。中身は無加工、でも加工は入っている、みたいな。現実とフィクションだったら現実の方が面白いと思っている自分もいるけど、フィクションがいつか現実を越えれる段階が来るんじゃないかという、今はそんな研究段階でいます。
どうしても現実の方が面白いと思ってしまう人が多いんですよ。
それはめっちゃ分かるし、自分も生きていく中で普段起きている、見たものをフィクションに落としがちだけど、フィクションにしようという時点で現実に負けているじゃないですか。
どうせだったら、フィクションという形の中で、偶然が起こってほしい。でも偶然を見せ物にするには必然が必要で、その逆も然りで。
その双極性的なことが好きです。
グルパリくんもフーさんもそうだけど、私のイメージだと、「嬉しいけど嫌い」とか「楽しいけどつまんない」みたいな一部分があって、存在として双極性があって生まれるエネルギーを大事にしていて。「俺、ここにいるけど、いねえからな」みたいな、裏を表現しているような。「お前ら、俺のこと見えているけど、見えていねえからな。でも見えていないけど、見えているからな」というような、自分を断言しないところが好き。「俺はこうだけど、こうじゃない」みたいな感じ、超キモいじゃないですか。でも人間ってキモいから。
人間は結局、昨日言っていることと今日言っていることも違うし、私なんて食べたいものも好きな人も嫌いな人も毎秒違うし。エンニュイは、人間の断言できない、そういうところを認めてくれる場所だと思います。
しょうがないんですよ、出ている人がそうだから。そういう演劇しかできないんですけど。
でも、まだ見つかっていないけど、そういう演劇を必要としている人はいるんじゃないかなと。自分がそうだから。どうしても、私たちはこうだとか、こういう考え方ですというフィクションが多いけど、長谷川さんが書くものは断定しない、でも見方によっては断定しているような、見方によって変わる。面白いなと思うけど、売れづらいと思います笑
映画ってそこにカメラがあることを分かってはいないふうにしないといけないけど、ドキュメンタリーってここにカメラがあると思いながら、ここにいるじゃないですか。カメラを見ちゃっているシーンもあったり、そういうのが好きで。
エンニュイも、今演劇に出ちゃっている、見られちゃっているみたいな感覚があるから面白いと思います。変にかっこつけないというか。カメラとかお客さんがいない状態でその場をやるのって、ちょっとカッコつけないと難しいと思います。
でも、この人たちは「すみません」みたいな。「ちょっと、見られている立場でやらせていただいています」みたいな感じだから、面白い。
――zzzpeakerさんは、演劇の稽古は楽しいですか?
ズピ:基本演劇以外でも、楽しい楽しくないとかでやったことがなくって。
単純に真面目だから、楽しい楽しくないとかじゃなくて、あんまり何も考えないようにしていています。
理想的な稽古場とかも、無い。
稽古で、心配はもちろんあります。得も言われぬ不安というか。
本番直前は緊張はしていますけど、不安は無くて、余裕。そこに稽古とかはあんまり関係なくて、たぶん本番が近づくにつれて「やるしかない」という気持ちしかなくなるから。
ポイントオブノーリターンです。
――本番に向けて覚悟を決めていくというか、急遽稽古が出来なくってもやるしかないぞと。
ズピ:僕は毎回稽古が終わった後に、次は本番当日にお会いしましょう、と言っています。あれはそういう意味なのかもしれない。
表現をするにあたってエンジンになっているもの
――表現をするにあたってエンジンになっているものを教えてください。
市川:恨みつらみ。
普段生活していてイラっとしたものに対して、「ふざけんなよ、俺がもう売れてお前ら見下してやっからな」というくらいの、逆襲ですよ。
劣等感みたいなのも。あと、コンプレックスとかも。女の子に振られたとかも。
全部。逆襲。証明していく。
そして、色々してくれた人に恩返し。
ズピ:豪邸に住む。国内外問わず。
立場を示すというより、快適なイメージで。
――あとは歌とか聴けば分かるみたいな感じですかね。
ズピ:いや、歌を聴いても分からないと思う。
――今言えることとしては、豪邸なんだぞ、と。
ズピ:はい!
二田:私は昨日、忌野清志郎の音楽を聴いていて、そこに「自慢したい私のことを。自慢したい僕と君のことを」みたいな歌詞に何故かグッときて。
自分が生きていく中で深く関わっていなくても、自分の体内にいろいろ入っているみたいな感覚があるから、そうした時間が、自分がカメラや誰かの前に立つ時にもあって、良かったことも悪かったことも、そのままの状態でいれる、自慢できるといいと思う。
自分の中に全てのものが、染み込んでいる感覚があります。
フレンチトーストの牛乳みたいな、あの感じ。年を取るほど浸しの液が多くなってくるし、染み込み度が上がる、かつ、パンから漏れないようになっていく、みたいな。
そんな感じです。普段生きている中で、染み込んできたものを使って、何かになったり、何かを表す。立っているだけで、私の中には出会った人や知っている人の一部が入っている、その集合体が私だし、それが前に立っているだけで、例えば1000人分それぞれのおもろいところを武器にして持っていて、それって、私はただ生きているだけより、その人たちの良いところも悪いところも自慢したい、ここに私がいるそれが私だから、みたいな感じだと思う。
結構人が嫌いなんですけど好きだから、関わりの中で見つけたものや、入ってきたものから影響を受けたままでいるのが、好きなんです。
私は周りの環境で本当に変わっちゃう。
常に変化もしていたくて、止まったらつまんない。私は刺激が無いと生きていけないんです。ずっと同じ作業するのとか苦手。
だから、止まらないために、やり続けるし、色んな人と関わり続ける。
最近、介助の仕事を始めました。身体や知的な障碍を持つ方の、自立支援といって、その人たちが一人暮らしをしている場所に行って、一緒に家事をしたりします。
私が担当している子は24歳のアイちゃん。その子は喋ったりは出来るけど、すぐに不安になったり、嫌なことがあると大きい声を出したり、ワガママでかわいい子。
そういう子から受け取るものとして、踊りたい時に踊るし、喋りたい時に喋るし、つらい時に声を出して泣く。さっきまで私のこと嫌いとか言っていたのに、突然不安になるから「怖い」と私を頼ってきたり。
今の社会ではとてもルールに縛られたりして、生きづらいなと思うことが多いのですが、介助の仕事で人と関わるのは、エンニュイと少し似ていて。
世の中だと、みんなが正しいことが前提だけど、仮にみんな間違っているのが前提だったら、他人のミスだって許せるはずだし、自分もそういう時あるかもなって思えるはずなのに、攻撃しちゃうというのが、自分には合わない。
最近すごいなと思ったもの
――最近すごいなと思ったものがあれば、ジャンルを問わずお聞かせください。
市川:この前9年10カ月バイトしていた居酒屋の勤務最後の日、職場にある僕専用のグラスにヒビが入った。
二田:それはすごいわ。
物語だ。
市川:そいつも分かっていたんだなと。
二田:渋谷のル・シネマでやっている佐藤真というドキュメンタリー監督の『まひるのほし』という映画がとても良かったので絶対観てほしいです。
ほんとうにすごいので。
ズピ:信濃屋の生ハムのジャーキーがめちゃくちゃ美味しかったです。
生ハムのセミドライはコンビニでも売っているんですけど、完全にばちばちドライなやつの方が旨い。
作演の長谷川の真骨頂
――今回の作品はどういう作品ですか。
市川:いろんな楽しみ方があるかなと。
多少は前回と変わると思います。みんなの雰囲気とか。この1年で皆も成長してきていると思いますし。
二田:木皮さん(動き指導)もみんな上手くなったって言ってた。
市川:前回観てくれた人も楽しめるように、頑張ります。
――遊べるところは遊んで。
市川:そうですね。でも、今回の作品ではそんなに遊んでいないかも。個人的には。
二田:たのしみです。
どうなるのか分からない。劇場も昨日見にいったけど、今までやってきたところと違って、ちゃんとしているところだから、出来るかなあ......笑
天井高いし、たのしみ。いっぱい跳びます!
ズピ:『きく』が、作演の長谷川の真骨頂だなと思います。
一番サイコパスな作品だなと。彼をサイコパスとは思っていないですけど、あの作品をつくれるのはサイコパスじゃないと無理じゃないか。結構分裂気味で、演者も観る人も主宰も全員疲れるけど、長谷川の真骨頂だと思います。
――最後に、おうちで過ごすにあたってオススメのものを教えてください。
市川:バンパイヤに飲みに行った時、青唐辛子を醤油に漬け込んだやつが美味しかった。家でもやろうかなと思います。
ズピ:ストリート納豆。路上飯です。深夜にすると気持ちよくてオススメです。
二田:家で飲むタイティー。美味しいです。
※その後、稽古場への道中で、zzzpeakerさんより読者の皆さんへ質問がありました。
ズピ:質問の枠には無かったんですが、この記事を読んでいる皆さん、オススメの歯磨き粉があったらメールで教えてください。
――おふたりはいかがでしょう?
市川:NONIO。
二田:コーラルε。
◎作品情報◎
エンニュイ「きく」
~あらすじ~
「母親が癌だった……」
語り手が唐突に話し出す。
場所はどこなのかはわからないが、職場やバイト先のような目的をもって強制的に集められる場所。語り手、ならびに聞き手たちはそこによく集まるメンバーで、仕事終りの、目的を果たした後のような時間をそこで過ごしている。
語り手の話を真剣に聞こうとしながらも、徐々に聞き手たちの頭の中はズレていく。育ってきた環境もこれまでの経験もみんな違う。自分の想像で話の余白を埋める。連想したり、脱線したり、妄想したり、集中力が切れて別のことを考えたりしながら、時間感覚さえも狂っていく。
そんな「きく」ということそのもののお話。
~脚本・演出~
長谷川優貴
~出演者~
市川フー(エンニュイ)、zzzpeaker(エンニュイ)、二田絢乃(エンニュイ)、浦田かもめ、オツハタ、小林駿
~タイムテーブル(開演時間)~
2024年6月18日(火) 1930
2024年6月19日(水) 1930
2024年6月20日(木) 1930
2024年6月21日(金) 1930
2024年6月22日(土) 1300/1800
2024年6月23日(日) 1300/1700
※受付・開場は開演の30分前。
※上演時間は約90分予定。
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