南里のエンニュイレポ⑪「貴方自体がそのまま貴方を肯定できるように」
畳は香りもいいが、一番好きなのはその網目にそって脚を滑らせるときのあの感触。心地よい摩擦が靴下越しに伝わってくる。横須賀の古民家の一室で行われたエンニュイの4月公演を見に行くには文字通り横須賀まで行く必要がある。京急本線に揺られて東京からなら小一時間、通りすぎる景色を見送る。横須賀中央駅で下車して数分間歩くと、他よりも一段と低い建物の集まりの中に飯島商店、今回の会場がある。入口のシャッターをくぐるとハキハキとした女性かけだるそうな細男のどちらかがいる。前者は製作の宮野さん、後者なら俺だ。
靴を脱ぎ、急こう配の階段を手すりを握り握り上がっていくと左手の部屋では出演者がくつろぎ、右手には座布団がおかれ、その後ろにはカメラと主宰の長谷川さんがいる。
今月の公演ではいつものメンバーに加え今回は飯島商店の家主であるミュージシャンの高良さんが参加している。演劇が始まると前回から引き続きのパートに高良さんが即興で音を乗せていく。
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音が入ることによって起こるのは印象の誘導だ。高良さんは即興で演奏しているので、そこで鳴らされている音は高良さんの感覚に依拠しており、演劇の意図としてというよりかは高良さんのイメージを空間に固定し、可視化するということになる。なので公演では芝居を通じて獲得されたイメージをまた高良さんが受け取り、それにまた演者が反応するという連鎖が、そこの空間を満たしていた。また、ときおり崩して演奏される「ジムノペディ」や「猫ふんじゃった」などの楽曲は抽象性だけにとどまらない日常と地続きに思い起こさせるのに機能していた。
また、楽器が入ることによって作れない音の存在が際立って行った。というのは海の音は小箱に小豆流し込んで揺すって表せるというけれど、複雑に絡みあう風によって凪ぐ海面と、それが砂浜を覆ってからひきかえす、浸透と浸出の音を完全に表現することは不可能であろう。そのような具合で、意図された音が入ることによって、畳を踏みしめる音やお好み焼きの焼ける音、ひいてはマスク越しのかすかな呼吸音までその音の根っこの存在をひときわ意識できるようになるように思える。
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今回のパートでやまになるくだりとして二つ上げるとすると一つ目は、屋外を使ったシーンだ。前回の公演でも小林さんが外の風景をゴープロで写すということを行っていたが、今回はお客さんも窓へ移動し見下ろすことで会場と外が繋がるとということを体感することができるだろう。広く空間を使うことで錯綜した個々人の思いの交差とその集約を感じることができるのだ。
二つ目は今回採用されたスーパーのパートだ。他のパートよりコント色の強い箇所であったが参加する人とそれを見る人というレイヤーをひとつ設けることによって、全体の演劇のバランスを担保したまま調和していた。
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まだ冬から春に流れる風が残っており、暖かさは日が暮れるのと相まって潜んでいた。Youtubeで配信していたアフタートークでは強いのが時折吹いて、演者は体を震わせながら4月公演の振り返りをしていた。緊急事態宣言が発令されて、ついうつむきがちになってしまう中で、12ヵ月公演は4分の1を終えたがこのときにやるからこそ伝えられること、ポジティブでもネガティブでもなく、貴方自体がそのまま貴方を肯定できるようにエンニュイの公演は続いていきます。
南里ラクト
https://twitter.com/ice_lacto_
台本無料公開
過去公演の動画販売中
2月に公演した12ヶ月公演の1回目の映像を販売しております。今後、過去のアーカイブ動画を随時販売していきますので、初回のやつから見てみたいという方は是非!
3月公演の動画は5月10日発売予定です!
↓この記事を読むと更に公演が楽しくなります。是非読んでみてください。
今後の予定
5月は、この台本で違う演出を加えて、生配信とはまた違った技法の映像作品を作ります。
6月は、北千住のBUoYで公演予定です。この公演で一旦ここまでのベストを出そうと思っています。たくさんの方に観に来ていただきたいです。
6/25〜27に公演します。詳細は公式HP・Twitterにて後日公開!
お楽しみに
エンニュイYouTubeチャンネルにも稽古の模様をアップしています。高評価、チャンネル登録よろしくお願いします!
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