英雄ディオスクロイの物語④カリュドーンの猪狩り

英雄ディオスクロイの物語を辿る第四回目です。『Fate / Grand Order』のキャラクター背景を辿る目的のため、ディオスクロイの名前の表記はそちらに準じております。
今回はアルゴノーツに引き続きカリュドーンの猪狩りのエピソードです。ディオスクロイにとってはそこまでメジャーではないので一緒にさっくり紹介。
『変身物語』における馬上戦闘の描写はかっこいいので一読の価値ありです。

概略

カリュドーンの猪狩り自体はホメロスの『イーリアス』からすでに登場する。
ただし主人公はメレアグロスであり、その他の人々はあくまでも「其処此処から集まった」と表現されるだけだ。
ディオスクロイの二人は後世の複数の製作者から「参加者名簿」の一員としてあげられている。
とはいえ、名前があるために参加したことがわかるだけで、具体的な活躍に関する記録はほとんどない。
ローマ時代の『変身物語』内では、二人が槍を構えているシーンがちょっとだけ出てくる。

内容:

アルテミスへの貢物を忘れたことにより彼女を怒らせた事により、カリュドーンに巨大なイノシシが呼び寄せられた。
困ったオイネウス王は、ギリシャ全土から勇士たちを招集し、また王子メレアグロスも参加する。
メレアグロスは見事、恐ろしい猪を討ち取ったが、最初に矢を当てたということで、その皮をアスタルテに与えた。

引用元:

・『イーリアス』(9. 543)
ホメロスのイーリアスからすでに登場する。
ただし勇士たちは「其処此処から集まった」と表現されるだけで参加者に対する内容はない。

・花瓶(フィレンツェ4209 紀元前570~560年頃)
https://www.theoi.com/Gallery/M17.2.html
壺絵のため具体的になエピソードはないが、ディオスクロイの名前が記載されている。

・『ビブリオテーケー』(偽アポロドーロス:紀元前180年頃→ローマ時代)
https://www.theoi.com/Text/Apollodorus3.html#10
参加者の中にディオスクロイの名前が残されている。

・『変身物語』(オウィディウス:AD8年:8巻370)
https://www.theoi.com/Text/OvidMetamorphoses8.html#3
「馬術のカストロと拳闘士ポルクス」が参加したとある。次々と勇士たちが攻撃を加える中で、ディオスクロイの二人も登場し、彼らがどのように戦ったかが記載されている。

https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.02.0028%3Abook%3D8%3Acard%3D260

「しかし今ジェミニが――まだ天の星ではない二人だが――が急上昇し、攻撃を加えた。
 二人ともが純白の馬に乗り、二人共が輝きを放ち震える槍を持っていた。
 イノシシが――あの剛毛を持つ野獣が――槍も馬も侵入できない密集した森の木々に入り込んでいなければ、彼らがきっと傷つけていただろう」(独自訳)

・『ギリシャ案内記』(パウサニアス:2AD:8. 45. 6)
https://www.theoi.com/Text/Pausanias8C.html
https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Paus.+8.45.6&fromdoc=Perseus%3Atext%3A1999.01.0160
カリュドーンの猪狩りを描いた神殿があり、その中にディオスクロイの姿が見えるとある。


文献を読んでの推察と補足

下記サイトによると、「カリュドーンの猪狩り」自体については他にも『女性列伝』(ヘシオドス)、『ビブリオテーケー・ヒストリカ』(シケリアのディオドロス)、『地理志』(ストラボン)、などでも記載があるとされている。
その一方でディオスクロイの活躍は限られており、直接的に行動するのは『変身物語』に限られる。
彼らがいてもいなくても舞台は成立するので、最初期はメレアグロスの話、もしくはメレアグロスとアスタルテの話があり、そこの人物が付与されていったと考えるのが妥当だろう。
参加者リストについてはWikipediaベースで恐縮だが、英語版サイトに詳しいので、参照されたし。

○ ○ ○

残念ながらカリュドーンの猪狩りにおいてディオスクロイが特筆して何かをしたと言えるものは現存の文献にはほとんどありません。
本当に端的に言ってしまえば「馬の上から槍を投げて外しました」という描写があったり、もしくは本当にリストのみでの登場です。
『変身物語』の描写は生き生きとしており、ローマ時代のディオスクロイがどのような戦士と捉えられていたかがよくわかる描写となっています。(白き馬、鋭い槍、マント、頭上の星と卵の殻の形のヘルメット。これらがディオスクロイを示す基本装備となります)

猪狩りについてはfateでもそんなに語られていないイメージですね。

やはりメレアグロスとアタランテの二人の物語ということでしょう。
しかし、メレアグロスは古代ギリシャ世界においてもなかなかの紳士で良い男なのでは?と思います。

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