ディオスクロイ一問一答
一分でわかるディオスクロイ。
時間がない人向けざっくりティンダリアイ。
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今までまとめた内容がひっじょょうに長すぎることが気になっていたので、いったんQandAでまとめてみましたー。(※Twitterの固定機能&見出し機能を使ってみたかっただけ、とも)
界隈の元ネタ紹介のためFGOの記述はあまり書いてません。かなりざっくりふわっと書いたところもあります。
細かく気になる方は他の投稿を読んでください。
そもそも記述自体にご指摘あれば、コメントなどでお願いしますー。(気付けそうならどこでも)
【Q and A 見出し】
※(丸括弧)内の時期の設定について
ざっくりした時期の書き方
・『イリアス』以前(ミケーネ文明)
・ギリシャ初期(アルカイック期、最古の文献は『イリアス』)
・ギリシャ中期(古典期)
・ギリシャ後期(ヘレニズム期)
・ローマ期(ローマ時代)
・ディオスクロイって誰?
一般的にギリシャ神話におけるスパルタ王国の英雄であるカストロとポルクスの兄妹のこと。ゲーム『fate Grand Order』独自の書き方・設定なので、普通は男兄弟でカストールとポリュデウケース、もしくはカストルとポルックスという。
・カストロってどんな人?
ギリシャで一番えらい神様である天空神ゼウスの子、もしくはスパルタ王テュンダリオスの子。神話では双子のうちで死すべき方とみなされる。
特技として、馬術の達人、馬の名調教師、戦争の達人、航海の守護者とみなされる。マイナーな伝承としては剣の達人(ヘラクレスの師匠)、徒競走で優勝した人、槍使い(たぶん馬上槍)など。
・ポルクスってどんな人?
ゼウスの子、神話では双子のうちで不死の方とみなされる。ゲームだと女の子。
拳闘の達人、清廉なる者、航海の守護者とみなされる。マイナーな伝承としては馬術の達人、槍使い(たぶん馬上槍)など。
・なんでディオスクロイは卵から生まれたの?
(ギリシャ時代後期?〜)
神話によるけど白鳥に化けたゼウスのせい。ゼウスと交わった母親が卵を産んだ。(古いパターンだと交わったのは女神のネメシスで母親は卵を受け取っただけ)
ディオスクロイの場合は古い文献にはなくて、姉妹のヘレネが卵から生まれるようになったのが最初。それに引きずられてディオスクロイも卵から生まれるようになった感じ。
ローマ時代には卵がキーアイテムになるくらいに乗っかってくるのだけども。
『ヘレネ』他。
・双子ではなく四つ子だと聞いたが?
(ギリシャ時代初期〜中世〜)
実はバージョンは色々ある。
三つ子の場合はヘレネ、四つ子の場合は更にクリュタイムネストラが含まれる。
後世の中世画家は4つ子を好んで書いたが、ギリシャ時代の文献にはクリュタイムネストラが含まれる話は皆無で、ヘレネとディオスクロイのセット(三人で一つの卵)が多かった。
・英雄なの?神様なの?
(ギリシャ時代初期〜)
どちらも正解。文献が残っていないので、どちらが古いタイプかはよくわからない。
ギリシャ最古の文献である『イリアス』では人間として登場するけど、『イリアス』と近い時代の讃歌では神様として登場する。
・ディオスクロイはどこでどういう風に信仰されたの?
(ギリシャ以前〜ローマ時代)
ギリシャ全土で。ただし一番はスパルタ。
スパルタでは特に王家の軍神として信仰され、他の地域では民衆の救難の神、船乗りの海難の神等として愛された。
ギリシャ時代中期にはイタリア半島で軍神として信仰されており、そのままの流れでローマ帝国でも崇拝された。ローマでは騎士の守護者とされたりもした。
『ギリシャ案内記』他。
・船の神様って本当?
(ギリシャ時代初期〜)
本当。最古の時代の文献にでてくる。『アルカイオスの讃歌』とか『ホーメロス風讃歌』とか。(後者がいつ頃歌われたかには諸説ある)
『アルゴナウティカ』の影響で認識が広まった〜と、フレーバーテキスト(これはブルフィンチの引用)にあるが、実際はそれ以前も上の作品やらエウリピデスやらが船乗りの神として書いているし、『アルゴナウティカ』以降、船乗りの神の伝説一色になったとかもない。
・なぜ星になった?
(ギリシャ時代中期?〜)
一人が神様の子供で不死で、もう一人が人間の子供で不死ではなかったから。人間の子供が死んだときに不死の子供が半分命をあげたので一日は死者の国に行き、もう一日は天空の世界に行って星になった。
この美談は素晴らしいことであるとローマ時代に絶賛された。(ヒュギヌス)
なんでこんな天国に行ったり死者の国に行ったりすることになったかは天の運行に関わるということが理由っぽいのだけど、詳しくは太古の双子神を参照ください。
『オデュッセイア』などの最初期はずっと地の底にいたが、途中から星々の間にいる描写が増える。
『オデュッセイア』『エレクトラ』他。
・なぜ双子座になった?
(ギリシャ時代後期〜ローマ期〜)
ギリシャ時代後期にバビロニアから星座が入ってきたから。双子座はバビロニア由来だが誰かがディオスクロイの死後の星とくっつけて後世に伝わった。
『カタステリスモイ』『アストロノミカ』他。
・どうして死んだの?
(ギリシャ時代初期〜)
いくつかパターンはあるけど、隣国メッセニアの従兄弟アパレティダイの二人と戦って死ぬケースがほとんど。
『イリアス』以前にあったスパルタとメッセニアの間であった戦争をもじったもの。描写としては女性の奪い合いと牛の奪い合いによる怨恨である。
『キプリア』『ネメアの祝勝歌10』
・アルゴノーツの一員なんでしょ?
(ギリシャ時代中期?〜)
アルゴノーツは『イリアス』以前の物語だが、いつ頃からディオスクロイが加わったかは不明。最古のものはギリシャ時代中期に記録が残る。
ポセイドンの末裔アミュコス王と戦ったポルクスがボクシングでこれを打ち倒したこと、ゼウスの怒りの嵐を鎮めたことが有名。
『ピュティアの祝勝歌4』『アルゴナウティカ』他。
・カリュドーンの猪狩りに参加した?
(ギリシャ時代後期〜ローマ時代)
猪狩り自体は『イリアス』に登場する。
ディオスクロイが参加するようになったのは後の時代でリストアップのみであることがほとんど。具体的な活躍は『変身物語』に見られる。
ただし壺に関しては、紀元前6世紀頃にカストロ、ポルクス、アタランテ、ペレウス、メレアグロスなどの名前が描かれた絵が残存している。
・ケイローンの弟子だった?
(ギリシャ時代中期)
リストに名前が上がる時もある。ただしクセノフォン『狩猟論』にしか登場せず、後にも先にも伝承が登場しないため、彼のオリジナルの可能性が高い。
カストロとポルクスの名前がリストにあり、海外のサイトには「片方のみ師事した」というものはヒットしない。
・カストロだけケイローンの弟子だった?
(現代?)
2000年前後の星座サイトにて複数の情報源がヒットするが、この種本や一次文献の情報はない。おそらく何らかの星座本などに書かれた情報が拡散したものと思われる。
・ケイローンから何を習った?
(不明)
誰も何も書いていないのでわからない。
先述の『狩猟論』にて「(ディオスクロイは)今後得ることになる栄光の全てをケイローンから教わった」という一節がある。
具体的にボクシング、馬術などと書かれている場合は上記の記載を踏まえて、ディオスクロイの特技から考えた類推であると思われる。
・カストロはケイローンを乗りこなした?
(現代?)
藤岡シシン先生の創作サイトに登場。
元ネタは『変身物語』のヒッポダメイアの結婚式に出てくる理知的なケンタウロス・キルラリスから取ったものか?
彼は白馬であり(顔が馬なら)カストロに相応しい、とされた。同じ理知的なケンタウロスとして知られるケイローンをもじったものではないかと思われる。
…流石にこれは原典ないでしょう!
・カストロはヘラクレスの剣の師匠だった?
(ローマ時代)
『ビブリオテーケー』に登場。
ただし元ネタの『アイディル』は剣の師匠ではなく戦の師匠となっており、多分誤記から生まれたもの。
一応日本語版の『ビブリオテーケー』(ギリシャ神話名義)は「武器の指導」的なことを書いており、若干『アイディル』寄りの翻訳になっている。
・アヴェンジャー要素はある?
神話的にはアパレティダイやテセウスに対してやられたらやり返すを実行しているので素養はある。と個人的には思う。
神としてのディオスクロイは、ざっくりいうと人を救うことに生きがいを感じるような神と思われてたっぽいのでそんなにない気がする。
・ポルクスは拳闘士だった?
(ギリシャ時代初期〜)
『イリアス』から登場。ここではなんで拳闘士かは語られていない。
著名なエピソードはアルゴナウティカのアミュコス王を殴打で倒した話。
誰も彼もがことあることにボクサーとして引用するのでかなり有名だった模様。
『アルゴナウティカ』他。
・ポルクスは最強の拳闘士だった?
(出典なし(エヴスリン?))
勢いで言いたくなる気持ちはわかるが、はっきりそう言われる古典文献はない。
競合にボクシングの開祖とされるヘラクレス、テセウス、アポロンあたりがいるので、そうそう口に出せないのかもしれない。
※一応エヴスリンは世界最強とか書いていますが、彼の記述は信用ならないのでヘファイストスの腕の項目を参照ください。
・ポルクスはレスラーだった?
レスラーと呼ばれることはないです。パンクラチオンでも語られない。
・ポルクスは剣の達人だった?
(不明)
意外にもそう語られる古典文献が今のところ見つからない。日本の文献でも信用度の高いものが見つからない。Wikipediaにある『ビブリオテーケー』出典は完全に誤り。
調査不足の可能性もあるが、専門文献のライブラリでも海外サイト検索でも引っ掛からないので、実在そのものを一度疑ってかかることも必要ではないかと思う。
※伝承の疑問提示はしていますが、軍神とされるディオスクロイなのでセイバークラスであることに問題が出るとは全く思っていません。
・ポルクスは騎手として有名?カストロの間違いでは?
間違いではなく、ポルクスちゃんも馬術の名手として描かれる場合があります。というかカストロ兄様とセットで二人で白馬に乗る騎士です。単品でも戦車を操る壺絵とかもあります。
『変身物語』など。
・最盛期のポルクスは腕を切ってヘファイストスに鉄の腕をつけてもらった?あるいはロケットパンチをつけてもらっていた?
(現代?or勘違い)
古典文献はヒットせず、文献調査のサイトのヘファイストスの作成物リストなどにも該当の項目なし。唯一1975年のエヴスリンの辞典のみヒットする。ちなみにロケットパンチとは書いていないので誰かが冗談で言った投稿を鵜呑みにしたパターンと思われる。
エヴスリンやグレイヴスは意図的に創作神話を混ぜてくるため、彼らしかヒットしないので調べたら創作だった、とされることが多い作家です。今回も同様のため、現代の創作と捉えておそらく間違い無いと考えています。(というかヘファイストス神とディオスクロイ神の神話みたいなものが実在すれば研究者が見逃すはずなくヒット0というのは流石に…)
気になる話ではあるので、まず手元の辞典を見ていただいて、エヴスリン以外の出典となっているものがあれば是非教えてください。
・ポセイドンとの関係は?
神話で共演することは基本的にない。(馬関係であったかもくらい)
ポセイドンとディオスクロイは共に海に関わる神として信奉されたため、特にローマ時代になると並べて讃えられることが増える。(ポセイドン(ネプチューン)とディオスクロイに愛され〜みたいな感じ)
ローマ時代は航海の神カベイロイやポセイドンが与えた力がディオスクロイのものだと思われて航海の神とされるようになった、と思われているような話もある。
・ティンダリアイと呼ばれた?
呼ばれた。というかスパルタだとこっちの方がメジャーで、ディオスクロイと呼ばれるケースの方が若干少ない。神として讃える時も英雄として呼ぶ時も一緒くたでティンダリアイと歌ったり、カストロとポルクスと呼んだりした。
ただしこれは人間のティンダリオス王の子という意味の言葉なのでおそらく神様より英雄としての側面が強い(死んで神になった)呼び名と思われる。
一方で、とある学者はティンダリアイっていう言葉からティンダリオスを(逆算で)作ったんじゃないの?とか書いているが論拠が書かれてないのでおそらく説の提示にとどまる。
・アナケスと呼ばれた?
アテナイで呼ばれた。アテナイでは逆にディオスクロイとかティンダリアイとか呼ばれることはない感じ。一応彼が固有の名前ではなくて、他の神がアナケスと呼ばれることもある。
プルタルコスなどはディオスクロイのアテナイ侵攻が原因であるとしている。
・他の名前はある?
他にもラベルサイ(ラスの破壊者)、アナクテス・ペイデス(少年王)、カストアーズ(ローマ時代)などがある。
・死ぬ時も童貞を捨てる時も一緒、とか言った?
(現代)
藤岡シシン先生の創作サイトに記載がある。
神話的にいうと、実際に口にはしてないけど結果的にそうなった。
死ぬときについてはすでに述べた通りで一緒に星になった。
結婚相手も双子姉妹(従姉妹、レウキピデス)を攫って結婚したので、多分同時期に童貞捨ててる。
・ブラコンなんだって?
そう思う。一緒にいたいから命半分あげるわ、と言うし、死後もいつも一緒にいるし。
ついでに多分シスコンで、『イリアス』によれば、姉妹のヘレネはディオスクロイがいつでも命がけで自分を助けにくると思っていたくらいには信頼していた。
・ディオスクロイの敵って誰?
何人かそれっぽいのはいる。
まず第一に従兄弟にして仇敵のアパレティダイと呼ばれるイダスとリュンケウス。
特にイダスはポセイドンから羽の生えた馬車を譲り受け、美女マルペッサを巡ってアポロンと奪い合って勝ち取ったというなかなかの逸話を持つ。
彼らはアルゴノーツとしても知られる。
二人目にテセウス。
テセウスは若いヘレネを誘拐して妻にしようとした。ディオスクロイはテセウスと直接戦ったわけではないが、ヘレネを救出すべく軍を率いてアテナイに攻め込んだ。
ちょうどテセウスは冥界に囚われていたので不在だったという。
三人目はアミュコス王。
これはポルクスオンリーの話。アルゴノーツで有名だが、ポセイドンの血を引きボクシングの名手とされたが、ポルクスとの殴り合いで死亡している。
・ヘレネとディオスクロイって関係あるの?
ヘレネはトロイア戦争を引き起こした悪女として有名だが、信仰面ではあまりトロイと関係せず、ディオスクロイとセットで信仰されてた。ヘレネは主に農耕神として信奉され、一部、軍神や天空神の要素もあるとか言われる。
神話的にはテセウスからヘレネを救うディオスクロイが有名で、それに因んだアテナイでの信仰や『イリアス』をはじめとするディオスクロイとの関係はよく描かれる。
何故そうなったかは学者に推測されているが、太古の双子神関連を参照ください。
『テセウス伝』『ギリシャ案内記』等。
・ディオスクロイって太古の神なの?
ギリシャのディオスクロイ自身は古くないけど、ディオスクロイの元ネタになる「太古の双子神」の成立が古い神であると推測されている。
一般には「神の双子」「聖なる双子」と呼ばれる神々で、「インドヨーロッパ神話」と呼ばれるヨーロッパ人の起源となりえる、欧州各地の神話で共通するエッセンスを集めて作られた仮説の神話体系の一員である。
もしこれが事実の場合、古さの程度で言えば、エジプト文明より前で、シュメール文明よりは後。Fateでいうとセファールの巨人とかイシュタルとかの次くらいには古いというレベル。(というかイシュタルが古すぎてやばい)
また今の段階で彼らがかなり昔に成立したらしいことがわかっているものの、確実に他のギリシャの神々や英雄より起源が古いと証明された、とかいう話ではないことは注意されたし。他の神々も辿るとすごく古かった、という可能性は残されている。
『Indo-European Poetry and Myth』他を参照のこと。
・太古の双子神っていつくらいの神なの?
乗馬や戦車とほぼ同時に現れたので紀元前3500年くらいと推定される。ユーラシア各地に広まっている雛形はこれ(馬の神)だが、神としての権能はわりと単純なものなのでもっと昔からいたのかもしれない。
研究ベースでは、ヨーロッパ人のもとになった文化の宗教の一柱か?なんて類推されている。いずれにしてもヨーロッパ文明の成立に関連して比較紹介される。
仮説が正しければ人類史上は古い神になるが、具体的にギリシャ神話内での古い神としての描写があるわけでないので、アトランティスの1万年以上前の人類を基準にしてしまうと数千年の古さなぞ尺度がバグってしまう。そのため脳内調整は必須。(結果的にフレーバーに騎馬神とか書かない方がベターだったかもしれない)
『馬・車輪・言語』『Indo-European Poetry and Myth』他を参照のこと。
・太古の双子神って何をしていた神?
太陽(女神)を運んでた天空の神の息子。
太陽が登って海に太陽が沈むまでの動きを導く神々だと思われていた。太陽が海の中で溺れないよう船で救出したり、昼間は馬に乗せて太陽と一緒に天空を駆けた。
地域によるが後世の派生した神々は、人々の手助けならなんでもして、一般人の救出、戦争の手助け、医療の手助け、道案内となんでもござれだった模様。
インドでは世俗っぽすぎるとして神々の仲間に入れられなかったりもしたが、それでも人間のために尽くしたため逆に重要な神とされることもあった。
ディオスクロイの場合は、この女神はヘレネであるとされ、常に彼女を助ける存在だったとみなされる。夜間に地下世界(=死者の国)を回ることから、死んだり天国に行ったりという動きをするとみなされた。
『Indo-European Poetry and Myth』他を参照のこと。
・太古の双子神って本当にいたの?
いたかどうかはまだわからない。考古学的な根拠が見つかっているわけではないが、比較神話学者は信じてる人も多いという段階。
(アーリアン学説みたいに考古学的発見にひっくり返される可能性は残るが、紀元前1900年ごろまでの白馬と太陽の関係性を示す遺物までは見つかっている)
派生した人物とされるものは多く、インド、ギリシャ、ラトヴィアをはじめ、北欧、ケルト、イギリスなどに相関性を指摘される神々や英雄がいる。