ほなまたね〜

最近この日を思い出すことがあったので、当時残していたメモをちょっぴり恥ずかしいですが、せっかくなので下手に書き足さず、この機会に公開してみようと思います。


2019年8月22日に祖父が亡くなったんですけども、LINE電話で事切れる瞬間が中継されるっていう凄い事態だったんですよ。

画面越しで見ても最期を「看取った」ことになるんですかね?まあ全然お世話とかしてきてないのでそういう意味では全く看取って無いんですが。

8月21日25:25、友達とウイニングイレブンモバイルの通信対戦をして昨日の続きを生きている僕の元にテレビ電話が。「これ通信切ったら負けやのに、なんやねんマジで……。」と思いました。CPU戦ならまあいいんですけどね。対人戦だと負けになるのでね。まあ電話渋々出ますよ。そしたら、ピン、ピンという音、一面の白。

2秒後ガサゴソ揺れて、爺さんが映るわけですね。左斜め下からバストアップです。まあゴツい酸素マスクをしてるので顔が見えたりはしません。うす緑の酸素マスクが白いシーツの上に見えていました。右の肩口に爺さんの結婚式の写真が置かれていました。マスクの向こうに少しだけ見える爺さんの肌と同じセピアです。ちなみに婆さんは4年前に、同じく間質性肺炎で亡くなっています。

その写真に気づいた時、「これもう死ぬやん」と思いました。右上のワイプに肌荒れのクスリを塗って顔が真っ白な自分が。とても不謹慎に思えて仕方がありませんでした。
幸い向こう側は誰もスマホの方を覗き込まなかったようなので爺さんだけに「お前、死にそうな人の前でそれより顔白いって不謹慎やんけ。」と思われていたことでしょう。

わからない音がピン、ピンとなり続けていました。爺さんの周りには僕の父と母と妹、それと叔母さんがいるようです。その人たちは画面に映ったりはしないし、明確に声を発することもないので、ベッドの柵に添えられた手と爺さんの左手をさする影からわかりました。

遠隔で死を看取る経験は生憎初めてだったので、感情の置き場が全然わからないし、顔白いし、明日バイトの面接だし、今日も1日何も食べてなくてお腹すいたし、暑い。4畳風呂無しトイレ共用アパートの8月末は、意外と死から遠くにあるようでした。

不謹慎ながら「流石にカメラ引いてくれ」と思いました。爺さんの死、カメラ映えしなさすぎる。そんなもんなんですよね多分、人が死ぬということは。
「周りを映してくれ」とか言えないですけど、病室の空気感が爺さんのバストアップには全然無い。映像に動きが、温度が無い。「爺さんの目線にスマホ置いてくれんか?」って言いたかった。ほぼ100%の臨死体験じゃないですか。人が本気で人を看取る瞬間を僕は見たいと思ってしまいましたね。「人が人生最後に見る景色を、俺は今見るチャンスを得てるんじゃないか?」
不謹慎ですよ。これは不謹慎ね。ごめんなさいね。

ピン、ピンッ、、、、。止まりました。
「死んだんかな」……ピン、ピン。
これなんの音なんやろ。聞けない……。
病室は全員無言。なんか励ます感じちゃうん?こんな時って。聴覚は最後まで残るから語りかけるとわかるみたいな話をうっすらと聞いた覚えがあったので、喋りかけた方がええんと違うか?とか思ってしまうほど蚊帳の外。ピン、ピン。

……どれくらい時間が経った?部屋の中にお医者さんはいない様子だ。「◯時◯分、ご臨終です。」的なのも聞けないじゃない。て言うか、そもそも今すでに、生きてるか死んでるかわからない。夢や希望ははじめからない?ピン、ピン。
 
死にかけの爺さんをちょっと画面の片隅においやって、友達にLINEします。
「今ちょっとさめちゃくちゃ言うことじゃないんだけどさ」
「うん」
「爺さんの臨終がライン電話で中継されてるわ」
「今じゃない史上一番今じゃないね」
 間違いない。右上にワイプで死にかけ爺さん、その隅に白い顔の自分。なんやねんこれは。ピン、ピン。

少しだけすすり泣き?が聴こえる気がする。僕の父親の手が爺さんの肩をさする。叔母さんが支えていた爺さんの手をお腹の上に置いた。…ピロロロンッ。
え?切れたやん。

えっ?どうなったの?かけ直しOK?うわぁ、死んだの?いつ?死んだから切った?死にそうだから切った?めちゃくちゃ気になるじゃん〜!!!え〜!!てかこんなに大っきい音でクーラー鳴ってたんだ!気づかなかった!かけ直してもいいかな?なげぇなげぇと思ってたけど切られたらちょい寂しい〜!でも11分41秒なんだ。30分はみてる気がしたのにな。

よし。一旦トイレに行って仕切り直しましょうか。ガラガラと戸を開け部屋を出て、右へ。共同のトイレに行きます。廊下はずっと電気が点いていて明るい。この明るさ、虫は出ても幽霊は出ません。眩しい。おしっこは、太の白。最期の爺さんは細の白でした。これは身体がですよ。おしっこの話じゃないです。

切られてから4分ほど経ちました。よし、頃合いか。かけ直してみます。テテトタテトテテテピロプン、テテトタテトテテ…2コールで妹の顔面アップが映ります。

今回はiPhoneを棚に置いてくれました!……、あっもう酸素マスクしてない!ギュウギュウに押し付けられていた様で爺さんの唇の下には血が。鼻にはガーゼのようなものが見えます。口がいっぱいに開いています。文字通り、開いた口が塞がらない。死んでるからね。LINE電話も「face playで遊ぼう!」じゃないよ爺さん死んでんだぞ、死んでるってことは、もう遊べないってことだよ。…ピン、ピン。

なんの音なんこれほんま。妹が「これ口閉じるん?」と聞くと母が「閉じるよ。ほんでこっからお風呂入るんや、爺ちゃんお風呂好きなけん、綺麗にしてもらうんや。」
思い出したのですが、爺さん家の風呂はとっても深かった覚えがあります。最後に入ったのは約11年前なので、たぶんそんなに深くないのでしょう。僕はそれから34センチ身長が伸びました。

父が妹に聞きます。
「電話の相手、誰?」
「兄ちゃん」
「ほんまか、昨日間に合って良かったな」

実は僕はその前日20日にお見舞いに行っていました。1時間くらいでしたが、息の続かない中必死で話す爺さんが何を言ってるのか9割わからず。わかったのは「ラジオのボリューム上げて」と「疲れた、出て行け」だけでした。その時も爺さんは甲子園中継を聴いてました。vol.9からvol.14に上げたラジオによると、星稜対中京大中京は6-0で星稜が勝っていました。

「ちょっと!ひど!ほなまたね〜」僕からの最後の言葉でした。もうちょっと名残惜しむべきでしたか?まあもう今生の別れだと思って行ってたんで、そこに後悔は全然ないです。…ピン、ピン、ピ。

妹がボタンを押すと、音は止まりました。「ほなまたいろいろ日取り連絡するわ」ピロロンッ。切れました。そして今、僕は告別式のために新宿バスタ発の深夜バスに揺られています。

明日の7時過ぎに地元に着いて、11時から告別式です。ドン・キホーテの黒の革靴を2900円で買いました。5センチ高く見えるやつ。素の身長は184センチなので、明日は189センチに見えるはずです。4年前婆さんの出棺の時、爺さんが「ばあちゃんは白い花がよう似合うな。」と言っていたので、爺さんにも白い花を添えてやろうと思います。爺さんが自分で食うために頻繁に婆さんの仏壇に供えていたキットカットを、僕も供えてやろうと思います。爺さんが婆さんの死後ナンパして仲良くなった女の子が働いていたカフェで、明日はアイスコーヒーを1杯くらい飲んで行こうと思います。ただ爺さんが昔笑いながら言っていた「知らんフィリピン人と大阪までドライブする給料のまあまあええ仕事」については告別式では触れないようにします。爺さん、おつかれ。

明日、焼き入れられる(?)前に最後のお別れの時間とかあるんですかね?あるなら伝えたいことはもちろんたった1つです。今まで何でもかんでも「ようわからんけど、頑張れよ」って応援してくれたこと、僕がもらった誕生日プレゼントの世界遺産事典を勝手に近所の中学校に寄贈したこと、誕生日にダンスダンスレボリューションをお願いしたら広辞苑を送ってきたこと、ナンパしたヤクルトレディの話ばっかりしてたこと、「ご馳走用意しとくぞ」って言ってコンビニ弁当を4種類買ってきたこと、その他いろいろ全部ひっくるめて、まとめて、総合して、爺さんが1番言ってほしいこと、一言だけね。
 
 
 
 
 
 
 
 
「5-3 履正社が甲子園初制覇や。」

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